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暁2

注:こちら本日2話目投稿となっております。暁をご覧になっていない方は1話前へお戻りください。






雷がボードの横に立ち、一つ目のコーナーがスタートする。


一つの動作も洗練されている雷の動きに観客は釘付けだ。


ウインクなんてした日にはもう…。
















「さあ、一つ目の質問だな。ゲストの一日の流れというタイトルだ」


そう言って、一つ目のクエスチョンマークをめくる雷。出てきたのはスケジュールだ。


「平日と休日のスケジュールの2つが上下に並んでるね。カイトは現在学生として学校に通ってるんだったんだな」


そこで斗真がスケジュールを見ながら、カイトに話を振る。


「そうですね。平日は普通に学校に行って、勉強しています」


「偉いね。平日に仕事は入らないの?」


慧の質問にカイトが答える。


「入れないというか、入れてもらえないんです。モデルとしての活動条件が平日に学校に出ること、テストで上位をキープすることなんで」


「うわ~、そういう条件か…。ま、俺からしたら簡単そうな条件だな」


雷の言葉に思わず頷く私。だって、彼ら3人真面目で勉強できるし。しかも、平日普通に仕事でも勉強頑張ってテストよかったしね。まあ、努力があってだからだろうけど。こんな流れで時間は進み、最後のクエスチョンマークに入る。


「最後は…カイトが芸能界に入ったきっかけと理由についてだな。そういえば、カイトはスカウトで入ったのか?」


雷の質問にカイトは頷く。


「はい。事務所のスカウトで入りました。まあ、きっかけはある方でしたね」


そう言ってカイトはちらりと視線を観客席に向けた。こっち見んな。そういう意味を込めてカイトを一睨みしておく。カイトの視線が気になった慧がこちらを見た時には既に素の顔に戻っておく。


「中学の俺はやさぐれていたんです。父親が単身赴任で母親がついて行ってしまい、いきなり一人暮らしの生活が始まりました。そんな寒い冬の時に見た幸せそうなカップルがきっかけで髪をこの赤に染めました。赤く染めれば目立って、両親も帰ってきてくれる、あのカップルのように幸せになれると思っていたんです。けれど、現実は違った。赤い髪から先生や同級生は不良だと俺を恐れ、戻ってくれると信じていた両親も戻って来ず、余計に孤立し、幸せとは逆の方向へ進みました。それから、知らない人に喧嘩を売られ、訳も分からず戦っていました。そんな自分が悔しくて悔しくて…。頑張って現在の学校への受験を決意しました。けれど、現在の学校に入っても状況は変わらず、俺は浮きました。変われると信じていた自分に腹が立って、屋上に逃げました。そうして屋上で過ごしているとある方が屋上へやって来たんです。その方は俺が悪口を言っても怒らなかったんです。むしろ嬉しそうにしていました」


「…嬉しそうにしていたの?」


先ほどまで真剣に涙まで浮かべて聞いていた斗真が涙をひっこめてツッコみを入れた。


「はい。俺は罵っていたんですけれど…」


待って!赤羽君!!!それ以上言ったら私=ドMという説が広まってしまう!!もしそうなったら、怒るよ!ふとカイトと目が合ったので軽く首に手を当てて首を切るポーズをしてそっぽを向く。カイトは慌てて話を始める。遅れて斗真が視線をこちらに向けた時には既に真顔で前を向いておく。


「あの方は俺に芸能人になることをいきなり進めてきたんです。それで俺はモデルになりました」


「つまり、その恩人さんのスカウトでモデルを始めたの?」


慧が確認を取るようにカイトに尋ねる。


「そうですね」


おそらくカイトには事務所側からなにか規制がかかっているのだろう。私がスカウトの人になっている。学校にスカウトがいるということに対しては大丈夫なのだろうか。…大丈夫か。きっとスカウトじゃなくてその学校に芸能人が偶然通っていて、その芸能人がカイトに目を付けたということに事務所が情報操作するであろう。


「今現在、俺は学校でも普通に受け入れられています。そして、仕事面からもたくさんの知り合いが増えて遊ぶことも多くなり、とても幸せです。俺を変えてくれたその人には感謝しかないです。本人が目の前にいたらこう言います」


カイトが席を立ってセットの真ん中に立つ。そして、カメラ目線で口を開いた。


「ありがとう。君のお蔭で俺は変われた」


その瞬間悲鳴が上がる。カイトはあまり笑わない。けれど、今は桜が満開になったような満面の笑みを浮かべている。それが目の前に、しかも生であるのだ。整ってクールな顔とのギャップさ、綺麗な笑い顔、これらも相まって悲鳴ポイントが高くついたらしい。…なんだろう。悲鳴ポイントって…。私も驚きながらもカイトの、赤羽君の感謝の気持ちを受け止めておく。きっと今回私を招待したのはこのお礼の言葉を直接伝えたかったからなのだろう。


「…いや驚いた。笑みで何人の人が惚れたんだろうね」


慧が冗談交じりにそう言って、圧倒されていた場の雰囲気を和ます。カイトもなにもなかったかのように元の場所に戻り、次のコーナーが始まった。



番組の収録が終わり、ゲストや『ラディアン』が退場すると観客も解散する。一人一人順に並んでチケットをスタッフに渡し、ネームプレートをもらい部屋を去っていく。


「カイトかっこよかったね!『ラディアン』もカッコいいけど、カイトのファンクラブ入ろうかな」


「あの笑みは生で見た甲斐あったね。きっとネットで大炎上だよ」


「ふふ、『カイトの笑みに虜の女性激増。なかには永久保存として写真を撮るファンも』とかいうタイトルの記事になったりして」


「あはは、ありえる」


私は最後の方に並んだ。前の女性2人が楽しそうにカイトの話をしている。前の2人の番が終わり、私の番になる。


「チケット預かりまーす」


そう言われチケットを出すとネームプレートが渡される。そして、紙も渡された。まだ人が並んでいるので部屋を退室し、紙を開けば、控室の地図が載っていた。近くで誘導をしていたスタッフの一人に話しかけ、地図の場所まで案内してもらう。


「カイトさーん。お客さんです」


ドアをノックしながら少し大きめの声で呼びかけるスタッフさん。その白いドアには「カイト様」という紙が貼られていた。


「はい」


そう返事があり扉が開いた。開けたのは見たことのない男の人だった。恐らくカイトのマネージャーである。


「カイトさんが招待したお客様です」


「ああ、例の…了解です。わざわざありがとうございます」


「いえいえ、では私はこれで失礼します」


スタッフさんがそう言って私の方にもお辞儀をして去っていく。二人になればマネージャさんが空間を開けてくれた。


「どうぞ。中に。カイト。例の恩人さんが来てくれたよ」


お辞儀をしてそろりそろりと中へ入れば慌ただしい音と共にカイトが椅子から立ち上がった。マネージャーが外に出て扉を閉めた。おそらく、扉の前に立っているんだろう。


 私とカイトはしばしの間沈黙して見つめあった。カイトから先になにか言うかなと思ったけど全く言葉を発さないので私から口を開くことにした。


「赤羽君。今日は招待してくれてありがとう」


言われた赤羽君ははっとなり口を開いた。


「こちらこそわざわざ来てくれてありがとう。それで…」


赤羽君は口を開閉させて言葉を探している。私はそれをしばらく待った。


「俺が言った言葉伝わったか?」


やがて開いた赤羽君の言葉に私は頷いた。


「もちろんだよ。ありがとうの気持ちがしっかりと伝わって来たよ!」


赤羽君は私の言葉を聞くと満面の笑みを浮かべた。あの、スタジオを騒然とさせた破壊力抜群の笑みだった。驚きながらも私もつられて満面の笑みになる。それを見た赤羽君は今度は視線を逸らし、顔を手で覆った。私の笑みはやはりキモイのだろうか。


「……中なのですが、それでも大丈夫でしょうか」


ふと、マネージャの小声が聞こえてきた。どうやら、誰か来たらしい。そろそろ退室しようかな。そう考えているとふと扉が開いてマネージャーが入って来た。


「カイト、すまないが『ラディアン』が来てるんだ。来客中すまないけど中に入ってもらっていいかい?」


カイトが私を見た。おそらく私に目で聞いているのだろう。私は頷いた。


「じゃあ、私はここでお暇――」


「いやいや、それは悪いよ」


いつの間にか入って来たのか。後ろを向けば慧が立っていた。


「おいおい、カイト。女の子を楽屋に入れるなんて隅に置けない奴だな」


雷がカイトの前に立って頭をポンポンした。あれこそ女子の夢見るポンポンだ。ファンが見たら悲鳴物だろう。


「収録お疲れ様。ごめんな。俺ら忙しいからさ」


斗真がそう言って申し訳なさそうにしている。


「いえいえ、こちらこそ本来は俺から行くべきですのに…」


カイトは素直に頭をポンポンされながら言った。私はとりあえず壁になることにした。


「ところで彼女は君のこれ?」


慧がそう言って小指を立てる。いや、小指を立てるのはわかるけども少し時代が古くないかな?


「いえいえいえ、彼女が例の恩人ですよ。直接お礼を言いたくて今日は招待したんです」


「…もしかしてドMさん?」


慧がそんなことを言う。心外な。こう見えてもあなたの事務所のトップなんですが。


「いきなり芸能人になれ発言した?」


おい、斗真。お前もか。雷がカイトの頭をポンポンしていたのをやめ、こちらに来た。そして、手を壁に付けて顔を寄せてきた。


「お前、名前は?」


壁ドンである。雷。彼は壁ドンされたい男子ランキング1位。もう一度言おう。壁ドンされたい男子ランキング1位である。


「ちょっと、雷さん!」


赤羽君が慌てて雷を止めようとする。


「私は…誠です」


そう言って真顔で雷を見ると雷は面喰ったように手を離した。


「落ちないだと?」


恐らく壁ドンされた人は腰を抜かしたり、顔を真っ赤にさせたりしてきたのだろう。悪いが、私は雷の壁ドンに何度も付き合わされた身だ。白霧静、サングラス、マスクバージョンで雷の壁ドンの練習に付き合った。真顔で腕を組んで壁ドンされ、私が納得しないとヒールで足やたまに局部を蹴飛ばしていた。恐らく雷のトラウマの一部である。


「えっと、込み入った話もあると思いますし、私はここで失礼しますね」


ニッコリ笑って退散しようとすると、行く手を斗真に塞がれた。


「カイト。誠さんを途中まで送ってあげなさい。俺らは少し待っておくから」


斗真に命令された赤羽君は返事をして私を先導してくれる。楽屋を出てお辞儀をして赤羽君の隣に並び歩く。


「ごめんな。誠。呼びつけておいてこんなことになってしまって」


赤羽君が罰が悪そうにこちらを見た。いやいやいや。色々間が悪かっただけだよと私は首を横に振った。


「今日の番組見れて良かったよ。ありがとう」


微笑めば赤羽君は視線を逸らす。エレベーターに乗り、2階まで降りる。赤羽君とは階段でお別れするからだ。通路を進む途中で金髪の人が歩いていた。嫌な予感がして赤羽君の少し後ろに隠れる。赤羽君が不思議に思ったのか足を止めた。そこへ声がかかる。


「カイト?」


見れば、爽やかな笑みを浮かべてカイトの方まで歩いてくる日向がいた。


「日向…久しぶりだな。元気にしてたか?」


「もちろんだ。おや、後ろにいる人はお客さん?」


「…ああ。今帰るところだ」


「ああ、それは引き止めちゃったな。ごめんな?て…白雪さん?」


日向に覗きこまればれてしまった。しょうがないので前に出て挨拶をする。


「ばれちゃった…。運動会前の練習以来だね。朝比奈君」


「そうだな。俺も送って行こう。クラスのみんなは元気か?」


「うん、元気だよ。ところで仕事は大丈夫なの?」


「それはよかった。まだ1時間ほどあるから大丈夫だ」


赤羽君を挟んで歩き出す私と日向。


「…ところでどうして白雪さんがテレビ局にいるんだ?」


日向が疑問を口にした。恐らく聞いているのは赤羽君にだろう。赤羽君は答えた。


「俺の出る番組を誠が見に来たからだ」


「…誠?」


日向がなにか小さく言ったが私達には何も聞こえなかった。


「二人に接点があったなんて意外だな」


日向が面白そうに言ってきた。


「…今回たまたま知り合っただけだ」


赤羽君がそう言って私をちらりと見た。合わせろってことだね。


「そうそう。私が『ラディアン』のファンで初めてチケットが当たって見に来たんだよ!」


嬉しそうに自慢すれば日向がふーんと言い、質問を私にしてきた。


「ちなみに『ラディアン』のどのメンバーのファンなの?」


これは結構答えによっては返答が厳しくなりそうだ。無難に1番女性人気のを言ってみるか。


「もちろん、雷だよ!私、俺様系男子が好きなんだよね!」


「えっ」


なぜ、お前が驚いた顔をする、赤羽。


「なるほどな。壁ドンとかされたいのか?」


さらに追及してくる日向。私は最近の女子らしくうん!と頷いておいた。赤羽君の顔が真っ青になった。その顔、日向に見せちゃだめだよ。少し考えるそぶりを見せる日向。そこで階段になったので二人と別れ速やかに家に帰った。家の駐車場で書記が無の境地で私を待ち構えていた。




~人物&曲紹介⑦~

白霧 静(白雪 誠)

茶色の髪で一つに結った鬘を被り、黒い四角フレーム眼鏡、黒い真面目に見えるスーツを着ている、白雪 誠の会社潜入バージョン。臨時社員。いろいろな仕事場をたらいまわしにされながら、監視も請け負っている。結構厳しい監視だと7人の小人では有名。真面目な性格。


『今、目の前にいるのに…』

オクロックの日向が作詞したソロの曲。以下歌詞。(一部)

ふとした時に 目に付いた

彼女はもしかして

あの君なのか

気になりだしたら止まらない

自然と目が君を追ってる


伸ばしかけてやめた手は

宙をさまよい消えてく

いつか君に言いたいよ

君はあの君ですか


『眠れぬ美星』

発芽 茜が歌っている曲。白雪 誠の着メロとして使われている。夏目 亮に言われ、嫌々ながらに茜が歌ったので、投げやりな歌詞と怒鳴り声が特徴の歌となった。曲の売り上げは茜本人が肩を落とすほどに上々。週刊オリコンランキング1位を取った曲。


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