目指せ1位の体育祭!5
校庭の校舎側にはテントが四つ立ち並び、テントには春野高校と大きく入った幕が張られていた。校庭は中央のトラック500メートルが競技場となるようでそれを取り囲むように生徒の観客席がクラスごとに置かれていた。保護者席はテントのすぐ横となっており、まだ始まる前なのかまばらに人がいるだけである。私たちは出席番号順に席に座り、入場行進が始まる前の束の間の一時を過ごしていた。
「あ、生徒会の人たち出てきた」
なつちゃんがそう言って立ち上がる。担任の話では生徒会が出てきたら入場行進の位置に行くサインであるということだ。私も立ち上がって移動の準備を始める。まず、はちまきを頭に付ける。このはちまきは白で端にクラスのマークと学年クラスが書かれている。最初このはちまちを付けただけでは学年クラスも見えないし、付ける意味がないのではと思ったけど、昔からなぜか続く伝統的なもののため、必ず付けなければいけないとか。
皆が準備するのを待ってクラス単位で移動する。
「ちょっと、そこのあなた。日向君は今日は来てないの?」
急に聞こえた声にびっくりする。私はクラスの最後尾にいるため、きっと私に話しかけたのだろう。おそるおそる顔を声の方へ向ける。黒い長い髪を可愛いピンクの水玉シュシュを使って高いところで1本にくくり、腕組みをしている、強気な美人、MAIがそこにいた。
「…あなた、聞いてる?」
「え、あ、はい。聞いてます」
獲物を睨むようなMAIの目に思わず事務的な返事をしてしまう。
「日向は?」
休みかってことだよね?
「今日は急なお仕事で来られないようです」
「はあ?急な仕事?どいつもこいつも体育祭を休むなんて…。1組の葉月君も休みだし…」
え?葉月休みなの?…そういえば、今日は大切なプロジェクトの披露日だったっけ…。朝議で話題になったけど午後からだから葉月は体育祭に行くのかと思ってた…。…待てよ。そうなったら書記はどうなる?保護者…葉月の保護者としての参加…。あ、でも朝議の時に変装しなきゃもう口聞かないからって言ってあるから大丈夫か。よし、体育祭に集中しよう。
「そういえば、このクラスのリーダーってあなたなのよね?調子に乗らないで欲しいわ。勝つのは私のクラスよ。1位目指すとか言っていたけど、そんな無駄なことしていないでさっさと諦めるべきね」
…待って、ツッコみたいところいっぱいなんだけど…。
「え、このクラスのリーダーはきむ」
「なに?怖気づいて他の人を盾にするつもり?調べはついているのよ?あなたが優勝とか言いだしたのでしょう?」
「…」
え~、相変わらず思い込み激しいなあ。上手くあしらえないかな…。
「だったらなんですか?体育祭は諦めるとかそういう問題じゃなく楽しんでやるものですよね?仮に優勝できなくても夢見て楽しむことは私たちの自由では?あ、忙しいんで失礼します」
最後に微笑んでお辞儀して去る。MAIを少しイラつかせたかもしれないけれど別にいいや。それに、あなたのクラスは優勝できないとか言われているようで腹が立ったしね。
「まこちゃん、ごめん。助けられなかったや…」
なつちゃんがしばらくしてそう言ってきた。あのMAI相手に助けようとしてくれるなんてなつちゃんはなんて良い子なんだろう。
「白雪さん大丈夫だった?」
どうやらみんな私が話しかけられた時から歩みを止めて様子を見ていたようで心配そうに私を見ていた。みんな優しいな。
「全然大丈夫だよ!みんな心配してくれてありがとう!!」
そう言って笑えば木村君が目の前にやってきて、手を握って来た。
「なにか嫌がらせされたら言ってね。白雪さん」
木村君が真っ直ぐな目で私を見つめてくる。その真剣さに言葉が出ず無言で頷いた。そこで暮梨君が木村君の背後から木村君の頭を叩くのが見えた。スパン!!
「なに、しれっと白雪さんにセクハラしてんだよ!木村 時雨!!」
その拍子に木村君が痛そうに頭を触った。
「お前の痛いんだよ!暮梨!」
そして、私を人壁で覆う女子たち。
「木村、白雪さんに触るなんて100年早いんだよ。100年後に来い」
鳥羽さんがそう言って仁王立ちした。もう私、どういうことかわけがわからない。
『生徒は速やかに入場門にお集まりください。繰り返します。生徒は速やかに入場門にお集まりください』
放送部かな?とても聞きやすい声が流れてくる。
「やば!誠ちゃん!行こう!」
美智ちゃんが私の手をつないで引っ張って走り出してくれる。
「レッツゴー!」
有紗ちゃんも横に並んで一緒に走り出す。
「ま、待って!速いよ、みんな!!」
なつちゃんがその後を追う形でついて来る。私は良いクラスに恵まれたと思う。だから、今日はクラスのみんなの為に頑張ろう!
~
「以上で開会式を終わりにします」
みんなで緩く入場行進をして、長い校長先生の話を聞き、選手宣誓をしてラジオ体操を行い、開会式が終わった。今はクラスの場所へと戻っている最中だ。
「生徒会長の選手宣誓かっこよかったよね!」
そう。なつちゃんが言っているように生徒会長が選手宣誓の為に前へ出ると女子の声が凄く大きくなった。もう、歓声とかじゃなくて悲鳴ね。各クラスの委員長も前に出てたから木村くんの表情が見えたけど、凄い複雑な顔をしていた。
「みんな、生徒会長のファンなんだね!ま、私はメモリーズ一筋だけどね!」
美智ちゃんが白雪社全員がお礼を言うようなことをさらりと言ってくる。私も心の中でお礼をしておく。ありがとう、美智ちゃん。メモリーズもきっと泣いてるよ。…どういう意味で泣いてるかはよく分からないけれど。
『プログラム2番、赤い旗に向かう牛たちに参加する走者の皆さんは入場門までお越しください』
「お、誠ちゃん、100メートル走者だよね?呼ばれてるよ。頑張ってきて!」
有紗ちゃんがそう言って送り出してくれる。
「お、誠ちゃんの走りがようやく横から見れるのか!楽しみにしているね!」
美智ちゃんがにこりと笑ってハードルを上げてきた。
「期待に応えられるかはわからないけれど、頑張るね!」
無難な答えを返しておく。
「まこちゃん。いってらっしゃい!応援しているね」
なつちゃんも優しく笑って送り出してくれる。いよいよ体育祭の1つ目の競技が始まる。みんなと別れて私は入場門へと向かった。
「あ、白雪さん、こっちこっち!」
鳥羽さんがこちらに手を振ってくれる。私も手を振りながら駆け寄った。100メートル走女子の参加走者は私と鳥羽さんだ。
「鳥羽さん、一緒に頑張ろうね!」
「もちろん!今日この日の為に頑張って来たんだから!」
心なしか鳥羽さんの瞳の奥に燃え盛る炎が見えた。
この100メートル走、赤い旗に向かう牛たちは学年ごとに走る。走る順番を公平にするため、男女、学年ごとにおみくじをしたところ、男女の順番は男子が先、女子が後で学年は2年生、3年生、1年生の順番に走ることになった。つまり私たちの学年が最後に走る。各学年3クラスずつの学校なため、一度に走る走者は6人だ。つまり、私と鳥羽さんは一緒に走るクラスメイトでありながら、戦わなければいけないライバルなのだ。
「悪いけど、白雪さん。負けないよ」
体を軽く揺らして慣れたようにウォーミングアップをする鳥羽さんがそう言った。さっきまで熱血の炎を出していたけれど、今は静かに波打つ水のようだ。集中しているのかもしれない。私も負けないよと言おうとした所で放送が流れる。
『お次はプログラム2番、赤い旗に向かう牛たちです。100メートル先にある赤いゴールテープに最初に突進できる人は誰なのでしょうか。選手たちの熱い戦いに注目してください。プログラム3番双子にどこまでなりきれるかに参加する選手の皆さんは入場門へお越しください』
「はい、じゃあ100メートル参加者の方~、前進お願いします」
前の方からおそらく生徒会長であろう人の声が聞こえる。ただ女子の歓声は聞こえない。きっと皆集中しているのだろう。静かに進む列の中で私は思った。曲が変わったと思ったら、メモリアルの曲だ…。美智ちゃんが今頃大喜びしているだろう。なんたって、こんなセリフが流れたのだ。
『君の心に俺を刻みたい』
はい。恥ずかしいですね。私が聞いてても恥ずかしい。誰だ!こんな恥ずかしいセリフつくったのは!…私だ!!
こうして、100メートル走が始まるのだ。私はメモリアルのこの曲で緊張感というものがなくなり、静かに集中を高めた。
この曜日に投稿するのは久々な気がしますね。
白雪 誠:我が社が持続できるのは読者の方々のおかげです。これからも誠心誠意頑張って会社を盛り立てたいと思います。
真冬 梨:…なにか頑張る方向性が違う気がするんですけれど?
本当にいつも読んでいただきありがとうございます。




