the飲み会2
飲み物がやってきて、乾杯をして一口飲めば、早速話が始まる。
「この間さ、風山部長がすごい人使いされてたんだよな~。俺、見ちゃってさ」
小金沢君がビールをダンっと机に置いた。
「え!?あの風山部長が!?」
並木さんが驚いて叫んだ。
「「しー」」
小金沢君と九条君が息ぴったりに人差し指を口に当てる。仲良すぎだと思う。
「どこの誰が風山部長を尻に敷いたの!?」
並木さんがすごい剣幕で小金沢君に迫る。
「ちょちょちょ、そんな勢いよく迫るなよ。第4課の秋風課長だよ。人体実験の人数を揃えろって言われてて、何枚かビラ作って、風山部長が直接各部署に配りに行ってたんだ」
さすが、琴音。スルメ以外にはとことん厳しいのは変わらずだ。
並木さんはとても驚いた顔をしている。
「え、あの秋風課長!?白衣の天使が!?」
は、白衣の天使??初耳な用語だ。
「ん?白衣の天使?なんだ?それ」
九条君も知らないらしい。
「知らないの?秋風さんは医療にも長けていて、多くの患者を今まで治してきた。素早い捌きと手際の良さから、多くの命が助かって、神様の使い、白衣の天使と呼ばれてるの」
おお。たしかに琴音は大学卒業以来、多くの患者を治して、新しい薬品や手術の仕方を編み出している。本当はノーベル賞ものだけど、あまりにも忙しく論文を書く暇がもったいないので放置しているんだよね。最近になって二年前に琴音が編み出した手術法やら、薬品やらが出てきて、どこかの国の人が医学のノーベル賞もらっていたな…。本人はそれでいいなんて言ってたよな。
「すごいな…。顔も可愛いし、もしかしたら風山部長はほの字なのかもな」
小金沢君がそんなことを言った。それはないかも。速人は7人の小人に対していい印象持ってなさそうに見える。だって、おじさんとの会話を聞いちゃったからね。
『なあ、藤堂。お前ら7人の小人はいいよな。俺なんか、7人の小人じゃないからっていつも上から見られて、なんたらこうたら』
『まあ、風山は半年ほど遅くに入社だろ?あの結社時は忙しすぎて死にそうだったぞ。お前もいればよかったのに。それになんたらこうたら』
最後の語尾は聞こえなかったので適当につけちゃった。とにかく、7人の小人が贔屓されてるのではないかということを速人は言いたかったようだ。よって琴音に指示されて文句か何かを言ってから行動するはずなのに、小金沢君の言葉だと一言も文句も言わず、仕事を行ったことになる。
あ、でも、琴音が前に何か言っていたような…。
『あ、社長。その企画の人材探しなら、速人に任せればいいと思います。各課から出してもらうんじゃなくて、自分で探すって言ってましたよね?』
そうそう。白雪社の店を並べた白雪ストリート企画(期間限定)をやる際にきちんとした人材を探そうとしてたんだ。各課から出してもらうのでも良かったんだけど、しっかりとした指導者を必要としてたし、上の立場に上がるチャンスを作ってあげたくて、新人社員から選ぼうとしたんだ。
『まあ、言ってたけど、なんで速人?最近また人事部は忙しそうだけど…』
『確かに、私の仕事を押し付けてやりました。しかしこれは私の恨み。あと、もう一つ、スルメからの恨みが残っています。社長が仕事を押し付けてやれば恨みが晴れるのです』
『え、なんかされたの?』
『…スルメをゴミとして捨てられました。あれはまだあいつが新人に近い状態の時に、私の課のスルメ瓶を捨てやがったのです』
『おお…琴音のスルメを捨てるとは大した…』
『大したも度胸もあるどころの話じゃありませんよ!れっきとした戦争問題です!我々スルメ女子に喧嘩を売ったも同じですよ!?社長はスルメ女子としてあいつを許すんですか!?』
『ちょっと待って!戦争問題でもないし、私はスルメ女子じゃないから!ただの女子だから!許すとか許さないとかの問題に私は関係ありません。よって、私が頑張って決めます。スルメの恨みは自分で晴らしてください』
そう言って立ち去った気がする。その後、琴音は恨みを晴らしたのか、速人のことは一切言わなくなった。…つまり…速人が何も言わなかったのは……。うん。私は白霧だ。社長の白雪じゃないから何もシラナイ。今、なんか浮かんだけど何もシラナイ。
「白霧さんはなんか知ってる?」
並木さんがいつの間にか打ち解けたような雰囲気で私に尋ねてくる。
「いいえ。知りませんよ」
「そっか~」
そう、白霧平常運転。
「あ、そういえば零士と姫凪別れたってよ」
「「ふーん」」
九条君が思い出したように言った言葉に無反応な2人。確か、零士って言うのは人事部で私のお隣の席だった美少年だ。姫凪はわからないな…。
「あ、白霧さんは知らないか。零士は白霧さんの隣にいたやつで、姫凪はその隣にいた女だよ」
あ、あのマニキュアお姉さんか。並木さんの言葉ですぐにわかった。
「零士も姫凪もいつ切られてもおかしくないよな~。零士はまだ真面目だが、姫凪はな…」
九条君が少し困った顔をした。並木さんが遠くを見るように呟いた。
「最初は真面目だったのにね…。段々と仕事に慣れてきて、私たちよりも優秀で、風山部長に褒められて、調子に乗っちゃったよね」
「そこから一気に最下位の辺りに落ちたよな」
小金沢君がバッサリと言った。
うーん。最初は真面目だったのか…。でも、あれはどうやっても更生の余地がないからな…。悪いけど多分切るな。
「あ、そういえば白霧さんは監視員的な話が出てたよね。…今の言っちゃいけないやつだった?」
並木さんが青い顔して私を見だした。
ん?なんでそんな噂流れているの?え、確かに監視員をやってたりするけど、そんな噂流れてたら監視員できないじゃん!!…よし、私は白雪誠。渾身の演技で誤魔化す。そして、白霧静の性格で粗をカバー!!まさに完璧なフォーメーション!!
「えっと…監視?そんな役職に私が就いているというのですか?」
The完璧☆。相手の表情筋を確認。ぶれなし、肩が微妙に下がった。これは緊張がゆるんだ証拠。
「そっか…。噂は信用してはいけないね」
勝者、白霧!よくやった白雪、よくやった白霧!
「まあ、噂なんてそんなものだよな。風山部長も案外違うかもな」
九条君、それは、あながち間違いではないかもしれない。
「白霧さんは人事部のことでなにか聞きたいことないか?」
ナイス、小金沢君!上司について少し聞きたかったんだよね!
「では、質問です。社長についてどのように認識していますか?」
ああ、自分でも少し指が震えているのがわかる。他人の評価って聞くの緊張する。
最初は小金沢君が口を開いた。
「あ~、社長ってよくわかんないよな~。俺らには顔もわかんないし。でも、この会社はいい会社だと思うから、社長もいいやつじゃないのかと思ってる」
「確かに、それには同意だ。表にはよく副社長が出てるけど、それは社長が裏で働いてるからかなって思う」
九条君が小金沢君に同意する。
「…私、社長の話ってタブーだと思って今まで話したことないんだよね。でも、悪い人だとは思ってないかな!」
並木さんが微笑みながらそう言ってくれた。よかった…少なくともここには社長を悪く思っている社員はいないようだ。ほっしながら、私は飲み物を一口口に含んだ。
飲み会はつつがなく終わり、無事に23時に解散となった。
「白霧さん、よかったら送ってくよ」
九条君が親切心からか送ると言い始めた。
いつも読んでくれている方、ありがとうございます。




