地獄の新入社員選考2
「部長、終わりました」
美少年を無視して、部長に仕事の報告、ついでに書類も出した。
「相変わらずだな。白霧。じゃあ、この俺が分けた大学別の書類を大学ごとにシャッフルして大学が被らないように7つに分けてくれ」
あ、集団面接のメンバーを決めるんだね。クリップで留めてあるのを見る限り、大学は50個位は軽くある。
「了解しました」
そう言って分厚い書類を再び机に置く。
「うっひゃあ…」
「ちょっと零士。そこの地味女ばっかり見てんじゃなくて私を見てよ。ほら、こんなにやったんだよ」
美少年の隣のお姉さんがそう言って机を指さした。10枚位の紙がそこにおいてあり、それぞれにまだ乾いていない判子が押してあった。
1秒にも満たない間に見たけど、内容は私が今もってる履歴書のようなものだった。ただし、お姉さんのは英語で書かれている辺り、アメリカとかその辺の人の履歴書だろう。
「ああ、確認しましたの印だよね?」
「そうそう。これだけって思ってるかもだけど、英語訳して読まないといけないから大変なんだよ~。ほら、ここのgradeとか電子辞書で調べなきゃいけないし…」
「え?gradeはわかるよね?」
「何言ってるの!?私にわかるのはBe動詞とか、主語とか簡単な動詞だけよ!?」
あ、お姉さんは英語苦手系なんですね。と思いながらも自分は仕分けを進めていく。
「え、でも、その書類選択制だよね?自分でその書類取ってたんじゃなかった?九条が悔しそうにしてたよ?」
「は?確かに取ったけど、好きで取ったんじゃないよ!私のような人には英語が似合うから取ったんだし!九条は根っからの日本人顔でしょ?英語なんて似合わない」
「え?やっぱり自分で取ったんじゃ…」
「あのね、あんたにはわからないかもだけど女にも誇りってもんがあるのよ」
「なんの誇り?」
「英語ができる女の誇り」
「えっと、英語できないんだよね?」
「周囲に英語できるって思われたいのよ!」
「…でも、時間かかってたらできないってことじゃ…」
ふと、お姉さんが机をバンッと叩いた。
「つべこべ、うるさいわ!とにかく、私はできる女なのよ!」
そして、高いヒールを鳴らして書類を持ち、さっさと速人の所へ歩いて行った。
「えっと、お見苦しいとこをすいません」
美少年は苦笑気味に隣の私にそう言った。私はというと、既に書類は片づけている。
「お構いなく。既にこちらは終わってますので」
「え!?早くないですか!?…ところで、名前聞いてませんでした。伺ってもいいですか?」
「白霧静です」
「白霧さん…ですか。俺は嵐山零士です。よろしくお願いします」
そう言った美少年の黒髪がさらりと揺れた。そして、たれ目の目が優しく細められた。
「よろしくお願いします」
淡々とそう言い、書類を手に持つ。あ、そう言えばお姉さんが書類渡しに行ったんだっけ。そしたら、きっと話し込んでるよね。少しチラ見してみれば、やはりお姉さんが速人と話していた。これじゃ、持ってたら睨まれちゃうよね。んじゃあ、暇だし、嵐山君は書類仕事おさぼり中だし、指導してあげようかな。速人にも言われてたし。
「じゃあ、嵐山さん、あなたの書類仕事の面倒を部長に任されているので、少し仕事を見させてもらいますね」
「うっ…とりあえずじゃあ仕事しますね」
そう言って、嫌そうに書類を分類していく嵐山君。特に違和感は感じない。最初は嫌そうにしながらも次第に顔をは集中している顔つきに変わった。少しずつゆっくりと書類を分けていく。でも、悪い所を少し見つけてしまった。彼、たまにこちらをちらっと見るんだよね。集中力が切れているんだろう。そして、ため息。明らかに集中切れてるでしょ!!って突っ込みたくなる。白霧静は真面目、静かキャラだから突っ込めないけど。…毒は吐くけどね。誠なら、ずっと突っ込んでそう。漫才コンビで売れたりして。
「あ、あの、白霧さんはこの新入社員選考を終えたら、もう来ないんですよね?」
ん?急にどうしたんだろう。私の視線が怖くて、早くいなくなって欲しいとか考えてる系?
「まあ、終わったらいなくなりますね」
「普段はどこで働いているんですか?」
「いろいろな仕事場を歩き回ってますね」
「なるほど!あ、歩き回るとか言えば、なんか特殊な人がいるみたいですね!どれだけ仕事ができるかとか、サボってないかとか見ている人。もしかして、白霧さんだったりですか?」
正直衝撃を受けた。ほぼ間違っていない。私は仕事をしながらも周囲を見て、色々その仕事場の偉い人に注意したり、解雇を促したりしている。私は内心の動揺を悟られないように、少し口角を上げて言った。
「もしそうだとしたら、仕事中に私と会話に花咲かせているあなたはクビかもですね」
よし、言えた!!!そう言われた嵐山君は少し肩を揺らして書類整理に取り掛かる。
「す、少し、白霧さんってSっ気ありますよね!?」
「まさか、ないですよ」
嵐山君が書類整理をしながら、そう言った。なので私はニコリと笑って否定する。Sっ気ないもん。吐くのは毒だもん。あれ、嵐山君、ちょっと集中してないからミスしてる。
「ストップ。ここ」
そう言って、嵐山君の手を掴む。
「へ?」
そう言って、驚いた顔で止まる嵐山君。そのまま手を持ったまま、反対の手で私は書類を指す。
「ここに注意してください。悪い点が書いてあります」
見えにくいので書類に顔を近づける。今、嵐山君がやっているのは会社の社員観察報告書。上司が部下の様子を見て、評価をしたものを記入したもの。やはり人間は気に入った部下と気に入らない部下とでは評価の厳しさも変えてしまったりする。なのであくまでも参考程度に私が見るだけだ。そして、たまに部下の評価でいい所は大きく、悪い所は小さく書く人がいる。悪い所も一応書かなきゃいけないけどすごく悪いことを書いてなければ、問題なしの部類に入る。だけど、ここに書いてあるのはあからさまに駄目な奴だ。
「『上司の忠告に対して従わないこと二度』と書いてありますね。この人の親はお偉いさんなのでもしかしたらやりたい放題してて、上司を脅しているのかもしれませんね」
そう言って、嵐山君を見れば、なんか真っ赤になってぽかんと口を開けていた。せっかく説明してたのに聞いてない系かな?なんかすぐに戻ってこないし、説明する気も失せてきたので嵐山君を観察することにした。そう言えば、嵐山君はまつ毛長いよね。あ、書類に顔を近づけた距離感のままだった。少し、顔を離してじっと見つめる。しばらくして、彼は復活した。
「はっ」
驚いたように声を発した嵐山君に訝しげな視線を向ければ、慌てて顔を逸らされた。
「あ、あの、手…」
言われて嵐山君の手を見てみれば、私がずっと握ったままだった。
「あ、すいません」
慌てて手を放し、ずっと手を掴んでいたことが恥ずかしくなって少し、顔が熱を持った。それを隠すようにして速人を見れば、ちょうどお姉さんとの話が終わったみたいだった。
「じゃあ、私は部長に書類を渡してきます。今言ったこと忘れないでくださいね」
そう言って、立ち上がれば嵐山君ははいと小さく言って、書類を手に取りだす。後ろ姿から見える耳は赤くなっていた。…女性に触れると赤くなる体質なんだろうな。美少年っぽいし、初心そうだし。
補足:grade
階級、学年、成績
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