地獄の新入社員選考1
もう、6月か…。ってことはそろそろ新入社員を募集して、面接とかか…。この『白雪社』は海外の大学の卒業時期(主にバード大学)に合わせているから、ちょうどこの時期から始まる。私の会社はなぜか毎年倍率が高い。毎年200人募集しているんだけど、2,500人くらいが応募してきた。どこの大学受験だよ!と突っ込みたくなるほどの倍率で毎年、入り口付近での取材許可を放送局から求められるほど注目されている。まあ、倍率高いのは4月、5月あたりに駄目だった人が駄目元で来てるのかもね!!そして、その応募書類を仕分けて、面接の日程を作っていくのが、人事部の風山速人。素早い反射神経と書類さばきはこの時に発揮される。まあ、7人の小人よりは遅いけど…。
というわけで、女、白霧静。颯爽と助っ人やっていきます!今は人事部の前。『白雪社』には7人の小人で有名な1課~5課まで、食品、衣類、住宅等、薬・医学、娯楽・他と警備課があるけど、それ以外にもこの人選や社員の管理を司る人事部、会社の会計を務める経理部、備品の管理やスケジュール管理など幅広く取り扱う事務、様々な商品の開発を許可、指示する開発課、様々な研究を取り扱う研究課、色々なサービスなど提案したものを実行していく実行組、ほとんどの社員に知られていない特殊課、他企業との取引を代理で行ったり、補佐をする取引代理部、避難訓練を計画したり、様々な店舗の安全などを考える、非常事態想定部、様々な事業を検査して、受理していく事業受理部がある。ちなみに、『白雪社』は部長と課長とかの上下関係はないと言ってもいい。部長も課長も同じ役職。ただ、7人の小人がその上にいる感じかな。
そんな様々な課が集まっていて、『白雪社』はできている。そして、人事部はそれらの社員を管理している重要なところなのです!息を吸って、すうはあすうはあ。これからの多忙に満ちた日々を思い浮かべると嫌になるけど、とにかくリラックスしてすべて忘れる。さあ、いざいかん。
「失礼します!社長より派遣さ」
「おい、そこの新入社員!!この書類、また乱雑に分けただろう!?またやり直しじゃないか!」
「うわ!すいません!やり直します!」
「2回目だぞ!いい、俺がやるからお前はお茶持って来い」
うわー、修羅場だな…。部屋の中はいろんな書類が舞っていた。いや、表現じゃなくて本当に。多分、今、まとめたい書類と違う書類をこうやって分けているんだ。で、違う書類を片っ端から他の人が拾って分けている。面倒くさいことしてるな…。毎年のことだけど…。部長の風山速人を見る。茶髪で黒い目、グレーのスーツを着て手を上げ下げして書類を分けている。ジャグリングに近い感じだ。他の人から見ると、あの書類の仕分けは腕が見えず、空間だけがゆがんでいるように見えるため、こっそり空間魔術の使い手だ!なんて、言われている。どこの厨二さんがつけたんだろう。じっと見ていたからか、速人は手を止めて、私を見た。
「おい、どうした。突っ立ってないで入ってこい」
そう言われたので小声で失礼しますと言って速人に駆け寄る。
「社長に言われていつものことながら派遣されました」
速人は切れ長の目を少し下げて、にやりと笑った。
「おう、来たか、ちびっこ」
ちなみに言っておくが、私が社長だとはばれていない。ただ、ガキだとは思われている。まあ、そりゃあ、16歳でスーツ着てても大人には見えない。他の社員も歳には気づいているんじゃないかな。まあ、『白雪社』には亮君という異例に若いのがいるから特に何も言われない。
「ええ。今年の募集1日目、何人ですか?」
「今年は新記録だ。もう500人だな」
「多い…」
人事部にとって悲しいことに会社を初めて3年。毎年のように募集人数が増えている。2条くらいの割合で…。こうなったら、来年は1日目で1,000人超えるということが予想できる。
「とりあえず、海外、日本で分けて、大学4年か、それ以外かで分け終わった。海外はそこの忙しそうに書類仕分けしている奴らに分けてもらっている。外国国籍か、日本国籍かだな。あれはそれほどの量じゃないから心配しなくていい。問題は…この大学4年とそれ以外の日本人だな。書類的には大学4年のほうが多いな」
速人が言ったそこの忙しそうな奴らで、反応してこちらを向いた社員が何人かいた。顔をしかめていたから、奴ら呼ばわりが不服だったんだろう。
「じゃあ、とりあえず、私はそれ以外やりますね。わが社に何回募集しているかで分ければいいんですよね?」
「ああ。よろしく頼む。ちびっこ」
その言葉に頷き、書類を抱えて、隅っこの空いている机に座らせてもらう。隣は綺麗なお姉さんだった。茶色い髪にエレガントチックにカールがかかっていて、白いイヤリングがそれを引き締めている。白い、OLがよく着ていそうなブレザーに水色のシャツ、ピンクのタイトスカート。爪にはマニキュアが塗ってある、嫌な予感がするお姉さんだ。
「あら、その席、零士君の席じゃない?」
「れ、零士君?」
私の反応にお姉さんは肩をすくめて、指さした。
「ほら、イケメン部長にお茶渡しているあのイケメン」
まあ、確かにお姉さんの通り、速人はそこそこかっこいい。いや、7人の小人が美男、美女過ぎて私の感覚が狂っているのかもしれない。そして、お茶を渡している男の人。黒い髪にたれ目、真面目そうなスーツ。いけ…イケメンよりは美少年に近い気がする。お姉さんと美少年君は初めて見たから、おそらく去年の新入社員なんだろう。人事部にはあと5人ほど新入社員がいたはず。そのうち2人は私が書類仕分けしている最中に見た。あそこのポニーテールのお姉さんと、あ。そうそう。美少年がここの席だっけ。じゃあ、1個隣に机を持って来よう。しばらくはここにいるからね。というわけで、書類は近くのタンスの上において、速人に話しかける。
「すいません。机はないですか?」
速人はジャグリングの手を止めて、私に言った。
「すまん、忘れていた。その端にあるテーブルを適当に持って行って使ってくれ。椅子は…そうだな、そこのホワイトボードの隣にあるやつで」
「わかりました」
「あ、悪いがあいつの書類分けたやつも見てやってくれ。ミスる可能性が高いからな」
速人の見る先にはあの美少年がいた。ああ。冒頭に怒られていたのは彼だったのか。
「わかりました」
そう言って、部長の前から失礼して、イスとテーブルを回収。おお、それにしても結構重い…。私が結構重そうなのを抱えているのに気付いたのか、新入社員の男の人がやってきた。
「あの、手伝います」
これには素直にお礼を言って、机だけ運んでもらおう。
「ありがとうございます」
あ、この人思い出した。去年の採用面接のあたりでわざとペンを落としてみたんだけど、その時に拾ってくれた人の1人だ。ここで働いてたんだね。きっと、性格も良くてモテモテなんだろうな。
「どうぞ。お名前伺ってもよろしいですか?」
「白霧静です。一応、書…経理部の七海部長の直属の部下です」
「七海ってあの、社長の書記もやりながら経理部も持っている7人の小人のですか!?」
まあ、書記は社員の中じゃ有名だ。私の書記として働きながらも経理部の部長もやっていて、その他、7人の小人の橋掛かりもしていたりする。いつ寝てるんだと聞きたくなる。
「はい…」
「はっ!失礼しました。自分は九条飛鳥と言います。まだ1年目です」
ほう、九条君か。
「しばしの間ですがよろしくお願いします」
腰を30°にしてのお辞儀。
「よ、よろしくお願いします!も、もしかして同期だったりします?」
少し照れたように言う九条君。
「いえ、私は初期から…」
「べ、ベテランの方ですか!」
おい、なんだと。誰がベテランだ!私はJKだ!と、いけないけない。取り乱したりしてはいけない。仕事をしなければ。
「おい、九条にちびっこ!何談笑してる!早く仕事しろ!」
「…ち、ちびっこ?すいません。ただちに!白霧さんすいません。仕事の邪魔してしまって…」
ちびっこに反応したのもつかの間、速人に睨まれて退散しようとする九条君。
「いえ、机ありがとうございました。お互い頑張りましょう」
「はい!では」
九条君はそう言って速足で席に戻っていった。よし、こちらも始めますか。席に座り少し多めの書類を床から上げる。ドンという音がしたけどまあ、書類だもんね。ドンとなるのは社長でも同じだ。
「す、すげー…」
隣から美青年の声が聞こえた気がするが気のせいだろう。とにかく書類を読み取り分けていく。お、この人は初めてか。こっちは2回も受けてる。そんな感じに3つに分ける。まあ、あっという間に終わるよね。終わったと思い顔を上げれば、美青年がこちらを見ていた。…仕事しなよ。まだ3枚しか手をつけてないよ?




