歌は本職ではありません
本日投稿二回目です。m(_ _)m
「では、今日は午前放課だ。気をつけて」
そこで、礼をして終わった放課後。
「ねえ、この後、みんなでクラス会でもやらない?カラオケで」
なつちゃんがみんなに話しかける。みんなは帰り支度の手を止めて、なつちゃんへと視線を集めた。
「私行く!」
美智ちゃんがそう言って手を挙げた。
「私も!」
そう言ったのは有紗ちゃん。
この3人、きっと同盟を組んでる。日向狙いのなつちゃんと有紗ちゃん。美智ちゃん…はきっとメモリアルの話でも聞きたいのだろうね。
2人がそう言ったおかげか、迷っている人も私も私もと手を挙げている。この調子だとほぼ全員になりそうだ。
「日向くんもどうかな?」
なつちゃんが上目遣いに日向を見る。
そう、日向の本名は朝日奈日向。下の名前で芸能活動をしているらしい。
なつちゃんがそう言うと、クラスの視線が日向に集まる。日向は居心地悪そうにしながらも頷いた。…今日は1日OFFなんかな?
「まこちゃんも…行くよね?」
なつちゃんが日向にしたように上目遣いで私を見る。うう…これは断れない。仕事は夜でも充分終わるし、まあ行ってもいいかな。
「うん。行くよ」
「良かった!!見事に全員出席だね!」
いや~素晴らしい手腕ですよ。実に素晴らしい。せっかくだし、私もマーケティングしようと思う。歌うのは他の人がどうぞ。
~
というわけで、現在カラオケに来ました。途中日向くんが野次馬に囲まれるという事態があったものの、クラス総勢35名。カラオケルームにin!
「誰から歌う?」
「やっぱり最初は日向くんでしょ!」
誰かが興奮気味に言うと、女子から次々にそうだ、と言う声が上がる。日向くんは苦笑しながらマイクを手に取った。
「「オクロックのを歌ってくれ!」」
何人かの男子が唐突にそう言った。日向くんは裏切られたように悲しい顔で男子を見たが、諦めたのかオクロックの曲を歌い出す。
曲は『届かない君に』。曲名的にも遠いところにいる好きな人を思う曲だ。そう言えば、これがレビュー曲なんだっけ。
曲の終わりで曲に感動したのか目の前で本物が歌ったからか涙を流している人多数。うーん、上手かったよ?上手かったんだけど、多分亮くんだったら激おこものだと思う。感情こもってないし、ビブラートがついてないからね。
まあ、私もそんなに上手じゃないからあまり言えないけどね。
ふと、スマホがなった。
『from 七海
社長!もう放課後のはずですよね?どうして帰って来ないんですか?どこなんですか?GPSオンにしてください!』
げっ、書記からだ。
『to七海
ごめん!クラス会でカラオケ中!GPSはプライバシーの侵害なのでオンにしません!』
慌てて返す。隣にいた美智ちゃんが私に気づいて声を掛けた。
「どうしたの?」
「いや、保護者からメールが来てね」
「ああ!帰ってこないからか。なるほどね。次、歌わない?」
そして、何も言ってないのになぜか端末を渡された私。え?歌うの?何を?
戸惑っている私を見たのか美智ちゃんがこう言った。
「知ってる曲…ない?良かったら、メモリアルとか知ってるなら歌ってくれる?」
げ…それは私を生殺しにする悪手だ。困ったように美智ちゃんを見るけどキラキラした瞳が私を真っ直ぐに見つめている。
うう…。負けたよ。私は恐らく泣きそうな顔で1番上にあるメモリアルの曲を入れる。
「えっ!ありがとう!」
まさか入れてくれるなんてという副音が聞こえたのは気のせいだろうか。本人は最初から私が歌えるとは思えなかったらしい。どうしてこうなった。
端末を次の人に渡せば、有紗ちゃんとなつちゃんのデュエットだ。曲は、うちの事務所プロジュースの妃羅という2人組のユニットである。作曲亮くん。作詞妃羅という私は関わらない曲である。まあ、CDジャケットは私がデザインしたけどね!
2人は妃羅のダンスをそっくり真似て踊っている。
「ねえ、誠ちゃん。メモリアル知ってるんだよね?次私曲入れたんだけどさ…一緒に歌って踊ってくれない?」
おう…なんという事だ。墓穴を掘ったというか、さっきの押しに負けたのが、自滅だけども、仇になった。
「メモリーズという曲なんだけど…」
ユニット命名と同時に作った恥作ですか。ダンスも一緒に考えたけどあれは流石に…。
「ねえ?お願い」
キラキラと私を見る美智ちゃん。でも…アレを踊るのは…キラキラ。でも…キラキラ。
はい、負けました。
「う、うん。いいよ。踊ろっか…」
「やった!ありがとう!」
美智ちゃんは喜んで私の両手を握った。我社の社員達よ…。私は仕事をやる前にライフが尽きそうです…。
いよいよ、有紗ちゃんとなつちゃんが歌い終わり、私は処刑だ…ゲフンゲフン。テレビ画面の前に立つ。うわぁ…ここみんなの視線が刺さるなぁ…。まじで上から切断されそうだよ。
イントロが流れる。
曲名、メモリーズ、作曲、社長、夏野亮、作詞、社長、夏野亮
私は死んだ目で手を上に振りかざし、お星様の容量で下へと下ろしていく。
美智ちゃんが私を見る。めっちゃ嬉しそうな顔だ!
そこで、歌が始まる。
キラキラが溢れる君の声、君の瞳
晴天の空に呼びかける、陽の光…
~
オワタ…。やっと歌い終わったけど、ライフも終わった。踊って疲れては無いけど、心が疲れて死んでるよ。
「…」
「ん?美智ちゃん?どうしたの?」
美智ちゃんが何か考え込むように止まった。
「ねえ、誠ちゃん。なんか凄いキレのある完璧な振り付けで踊ってたよね。まるでメンバーの1人みたいに…」
「へ?」
まさか指摘。いやいや、確かに振り付け考えたのは私と亮くんだけども。
「ねえ、次のってメモリアルの新曲の入れてたよね?それも踊れるでしょ?踊ってくれない?」
え…どうしてこうなるの。
「一緒に踊るからさ!」
え…あの苦痛の時間を再び?
「次の始まるよ!」
「じゃあ、踊ろうね?」
「は、ハイ…」
のおおおおおお!
美智ちゃんの輝かしい笑みが悪魔の笑みに見えたのは私の心理状態が悪いからだったのだろうか…。
~
「あ~素晴らしく疲れた~」
「お疲れ様。社長」
あの後、口から魂を吐きながらも踊った私はなぜかクラスメイトに歌とダンスを褒めちぎられた。そして、なぜかアイドルというプロである日向にも
「お前は歌手になれる!」
と熱弁された。解せぬ。
結局疲れた私はマーケティングも出来ず、歌わずただただ座っていた。そしてクラス会が終わったのは6時。
何とか、会社まで到着。会社前にいつから立っていたのだろうか、書記が私を見て涙を流した。
「やっと、帰ってきた!」
ほんと、あんたいつから待ってたの。
何とか涙を止めて、最上階にある社長室へ。ちなみに我社は40階立てで、社長室へ直通のエレベーターがある。そして、机に突っ伏してすぐに、第1課のおじさんが大量の書類を持ってやって来た。
「…おじさん。私疲れてるんだけど。お疲れ様と言いながら書類を渡す部下がどこにいるの」
「…俺はおじさんという歳ではねえ。あんたが勝手に遊んで疲れたんだろ。この書類は明日には提出しなきゃいけないんだ。明日から新メニューを始める店の案だ。付箋でファーストフード、洋食、和食、中華で分かれてる。よろしく頼むな」
「はいよ」
まあ、私が自分から高校入るって言ったもんね。それで仕事に悪影響じゃやめろと言われるわ。反省反省。
…あれ?
「待って、おじさん」
「だから、俺は20代だ!おじさんじゃねえよ!」
「この書類間違ってるよ」
「聞いてるのか!?って、もう3つも終わったのかよ。…ああ、部下がやらかしてる。悪い、これは取り下げとく」
「いや、これくらいなら直すよ。次はちゃんとやってねって部下さんに言っといて」
「了解」
~
6時半か。あらかた書類は片付いたし、自分のやることやろうかな。
実は、第1課の仕事を終えた後、更に、第2課、第3課と次々とやって来て、結局全部の課の書類を見ることになった。お陰で30分もかかったよ…。
よし、じゃあ亮くんに頼まれた曲の歌詞でも考えるか!
そうして私の1日が終わった。
入学式の日にみんなで遊ぶってあるんですかね?…まあ、フィクションですんで。
ご了承ください。
3/23微修正