閑話:実録メモリアル
閑話。赤羽君とメモリアルの話となっています。
いちおう、本編との伏線も入っています。
思ったより長くなってしまいました。
俺は毎週土曜日白雪事務所に通っている。最近は亮いわくファンが増えたため、サングラスと帽子を着用しろと言われている。黒いサングラスに黒い地味めなキャップを被っている。そして、爽やか系な服を着て事務所に入る。
「おはようございます。赤羽さん」
「おはようゴザイマス」
まだ敬語に慣れず敬語が片言なってしまう。ちなみに今は午後だ。仕事でのあいさつはいつもおはようございますらしい。ちなみに、今挨拶してきたのは事務所の受付をやっている座間という人だ。前に俺らを追い払おうといた奴だ。これを誠に言ったら爆笑された。
「お、カイト。来たんだ」
そこへ現れた亮。
「おはようゴザイマス」
「おはよう。悪いんだけどさ、今日はちょっと仕事無し。紹介したい奴がいるんだ」
紹介?亮は照れくさそうに頭をかいて階段を見た。すると男5人が階段を降りてきている。
「彼らはメモリアルといううちの人気ユニットだ。今日は彼らから色々な芸能体験を聞いてくれ」
メモリアルって聞いたことあるぞ…。たしか、同じクラスの女子にも結構なファンがいた気がする。でも、セリフが痛かった気が…。
「こんにちは。カイト。俺がこの…め、メモリアルのリーダーをやっている、花咲歩だ。よろしくな」
…噛んで赤面しているイケメン。金で爽やかなウェーブの髪。蒼い瞳。一見クールに見えるが、噛んだ時点で顔を赤くし、クールさとは違う可愛いような不思議な気持ちになる。
「俺はサブリーダーの渡辺幹也だ。特技はバク転。…最近不眠症なんだ」
今は化粧をしているのか、隈はうっすらとしか出ていないが、きっと化粧を落とすとすごいのだろう。疲れた瞼で紫の瞳が隠れそうになっている。それが返ってセクシーさを出している。
「俺は水野冬夜。女性恐怖症になる手前。よろしく」
どんな自己紹介だよ…。美少年風であり、くりくりした片目をショートの青髪で隠している。きっと、女装のお願いでもされたんじゃないのか?
「俺は瀬里町秋斗だぜ!メンバーの中で1番年下だが、カイトよりは年上だな!ロマンよりも…熱血派なんだが…どうして…」
そう言って、しゃがみこんだ。なんだ?何がどうしてなんだか俺にはわからない。茶髪で背が高いのがしゃがむと思わずビビるもんなんだなと密かに感心してしまった。…お、俺も背高いけどな。
「最後に有栖川騎士。好きでこんな名前じゃないので、突っ込まないでくれるとありがたい」
黒髪黒目で、少しロン毛の男だ。顔は整っていて、王子様みたいな容貌だ。というか、なぜ俺はさっきから容姿を詳しく言っているんだ…。まあ、いい。
「…と、まあ。こんな感じだけど仕事はとても頑張ってる。今日はメモリアルの仕事に着いてアイドルの仕事を理解してね。俺は忙しいからまた後で。あとは裏方スタッフ達に詳しいことは聞いて。メモリアルも先輩として頑張って。じゃ!」
そう言って、亮は去っていった。
「…」
残された俺達は誰も話さずシーンとしてしまった。
「あ!メモリアルさん!ここにいたんですか!さ!ライブ会場行きますよ!今日は1時間だけですから頑張ってください!」
そんなところに救世主が現れた。
「うわあああ!」
「来たああ!!」
リーダーの歩と髪の青い冬夜が突如叫んだ。一体なんだと言うんだ…。そして、逃げ出そうとしているのを他のメンバーに捕まえられている。
「すまない。カイト。俺らはライブが大の嫌いなんだ…。お陰様で迎えのスタッフには拒否反応が出てしまう」
いや、お前らアイドルやるなよ。
「始まりはオーディションだよな!たしか…リーダーが」
「秋斗言うな!俺に殺されたいか!!」
突如起き上った歩は秋斗に怒鳴った。
「はい。ごめんなリーダー。プライドあるもんな」
「俺だって好きでリーダーやっているわけじゃないんだ」
秋斗が可哀そうな目でリーダーを見つめ、リーダーは可哀そうな感じを醸し出している。
なんだこれ。
「はいはーい。茶番はやめてさっさと車に乗り込んでください。大勢のファンがあなた方を待っているんですよ」
そう言って慣れた手つきで全員を外に出す救世主。
「さ、カイトさんもお乗りください」
全員ちゃっかりと乗せられた後に俺も乗せられる。
「さっさと行きましょう」
そう言ってスタッフは近くのライブ会場、白雪社建設の『赤堀の夜明け』というライブ会場へと俺らを運んだ。なぜ、俺がライブ会場の名前を知ってるかって?
そりゃ…亮に覚えさせられたからだ…。
「はい、着きました。1曲で解散です。ファンサービスは欠かせませんよ!」
車が着くと出入口付近に待ち構えていたスタッフがメモリアルを引きずり下ろしていく。
…アイドルにそんな扱い大丈夫なのか?
「カイトさんもお降りください」
「ああ。はい」
そう言って降り、中へ。中はスタッフが沢山溢れていた。警察に捕まったように両手を引っ張られているメモリアル。アイドルってみんなこんな感じなのか?
「メモリアルさん。こちらの服を着てください。順番はラティーさんの後で。曲は『メモリーズ』でお願いします」
そう言って、返事を待たずにスタッフは去っていく。後に残されたメモリアルは死んだ顔をしていた。
「…どうして…」
「こうなった」
歩と幹也がそう小さく呟いた気がした。それから、楽屋に通され、お通夜みたいな静かな部屋で着替え出すメモリアル。
今回の衣装は真っ白な制服のブレザーをイメージしたっぽい。それが袖口、襟、裾に金色の細長い紐がぶら下がっている。
正直着たくない…。
どうやら、メモリアルも同じ気持ちのようでどんよりしながらも服を着ている。きっといつものことなんだろう。俺は絶対着ないけどな。
そして、全員が服を着終わり髪のセットに入った。どうやらメモリアルは自分の手で髪をセットしているようで、スタッフは一切入って来なかった。こうして、全員がおそろいの服を着て髪を整えているとかっこいいと思ってしまう。何と言ってもあの衣装。着る前にはすごいダサい衣装に見えていたが、こうしてメモリアルが着ているのを見ると、衣装がとてもかっこよく見える。
…デザイナーすげえな。
「俺はメモリアルの歩。リーダーにして記憶を作る男…。ファンは神様、スタッフは天使。俺は屑。動いて笑顔なのが唯一の取り柄、しっかりしなくちゃ。しっかりしなくちゃ。俺がやらないで誰がやるんだ。いや、誰もいねえ。俺がやるしかないんだ…」
「俺は今日も愛を囁くのか…」
「オンナコワイオンナコワイ。でも仕事だからやらなきゃ…。ファンの記憶に残らなきゃ…」
「俺は熱血じゃなくて無口。俺は無口。喋らない。喋らないぞ…」
「俺は騎士。ファンの騎士だ。ファンには礼儀を尽くさなければならない」
な、なんだ…。歩、幹也、冬夜、秋斗、騎士の順で呟きはじめた。はたから見たら、頭のいかれた集団としか思えねえ…。
すると、ドアがノックされた。
「失礼しまーす。メモリアルさんあと十分ほどでステージ袖お願いします。…あれ、なりきるための瞑想中でしたか。あ、カイトさん。5人正気に戻りましたら、今言ったこと伝えておいてください」
「え、あの瞑想?」
「あれ?知りません?メモリアルの皆さんは台詞を言うのが恥ずかしすぎるため、演技しているのを装ってステージに上がるんですよ」
まじか…。
「なので、ドラマとか結構うまいですよ~。では、私は忙しいので失礼します」
そう言って去って行ったスタッフ。
「あ、まこさん。この衣装をラティーさんの楽屋へ」
「はい」
!?
スタッフの去り際に誠の声が聞こえた気がする。それに名前もまこ?
…気のせいか。こんなところにいるわけないか。声と名前が似ている奴がいるんだな。というか、声だけで反応してしまう俺って…。どんだけ誠のことが…。
「よし、今回もステージを記憶に刻ませようね。あれ、カイト。顔が赤いぞ?…もしかして俺らの緊張が移っているのか?大丈夫。君が出るわけじゃないんだから」
突然、歩が復活し、そんなことを言ってきた。
…というか、歩のキャラが変わっている気がする。こんなキャラだったか?
「カイト。これは仕事なんだ。リーダーも俺もそう思って割り切っている。頼むから、余計なこと言うなよ?」
「…はい」
「よし、良い子だ」
そう言って、幹也は俺の頭をポンポンしやがった…。正直鳥肌が立った。
「メモリアルさん!お時間です!!」
「「「「「はい」」」」」
スタッフの声掛けに5人ぴったりに返事をし、真剣な顔で外へと歩き出すメモリアル。それは本当に真剣な顔だった。
だから、俺は思った。
メモリアルアイドル向いてないだろ…。
俺もメモリアルの後について楽屋を出た。ステージの裏側と言うものを初めて見た。多くのスタッフがせわしなく動いている。そして聞こえる歓声。
「メモリアルさん入ります!!」
スタッフの声でメモリアルがステージに向かって歩き出す。
そして、大きく鳴る歓声。
~
そして終わったライブ。聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなセリフが飛び交っていた。だが、その恥ずかしいセリフを聞くたびにファンは大喜びするというカオスな会場だった。
メモリアルも自覚しているようで、湧き上がっているステージと違い、裏はお葬式のようにしーんとしている。何しろメモリアルが地面にしゃがみ込み一言も発しない。
「死んでるな…メモリアルさん」
「まあ、頑張ったけどね」
スタッフもヒソヒソと心配そうな声を上げている。
「メモリアルさーん。お疲れ様です。こちら、茜様の写真集になっております。元気が出たら見てくださいね~」
帽子を被った女のスタッフがそう言って、写真集をメモリアルに見せた。誠の声に聞こえるんだよな…。瞬間メモリアルがバッと立ち上がった。
そして、我先にと写真集を取って行く。
「さすがまこさん。メモリアルのことよくわかってるよな~」
「茜様が好きなのか…メモリアル」
いや、突っ込みどころがありすぎて突っ込みきれねえ。なぜ、亮は俺にメモリアルを紹介したんだ。とても疑問である。
そんなわけで俺とメモリアルとの出会いは終わった。
次回からは本編行きます。




