MAI登場
あらかた1週間の授業の流れに慣れ、四月の後半。突然、彼女は現れた。
それは…MAI。
かつて現場で仕事を見たり、差し入れしたりと裏方で彼女を確認したことがある私、白雪誠。
正直言って大体の人とは仲良くできる私。そんな私が唯一心から関わりたくないと思った人。
高飛車でお嬢さまで顔も良くて、体型も完璧で足が長くて人気のモデルで頭も良くてこの高校で首席の1人である彼女は私よりも凄い人なんじゃと思う。
けれどね、けれどね。恐ろしい事に性格だけは宜しくなかった。だからね、私は関わりたくない。
そんな人が同じ教室に入ってきたらどうしますか?
私はね、逃げるよ。
という訳で、来ちゃったよ…MAI。
「日向くん、少し良いかしら?次一緒にやるドラマのことで聞きたいことがあるんだけど」
黒い髪をアップにして一つにまとめ、ピンクのドット柄シュシュをつけているMAI。制服は校則に引っかからない範囲で気崩し、スラリとした長い足はニーハイで包まれている。勿論、スカートはミニ級のミニになるように巻いているっぽい。ホントは私みたいに膝の上位のスカートの長さなのに。
下からお願いのポーズでクラスの男子と仲良く話していた日向に唐突に話しかける。話していた男子はMAIの登場に顔を赤くしている。
「日向…俺らは邪魔だろうし向こう行ってるな」
木村くんがそう言って暮梨くんを引きずって去っていく。
「なにあの強引な感じ」
なつちゃんが呟いた。恐らくMAIに対して言っているんだろう。
「えっと、ここは学校だし…」
日向は歯切れ悪く答える。
「現場じゃ、もう演技ってなるでしょ?だから、ここの所とかこの所とか教えて欲しいの」
MAIが台本を取り出して日向に見せる。これは、断れないだろうな。まだ昼休みが始まったばかり。日向は弁当派なのでここから動かないだろう。
「なんか、ムカつく」
有紗ちゃんがそう言った。MAIには聞こえてないだろう。
「分かる。日向くんが汚れるよね」
なつちゃんがそう言って弁当をつつき出す。心なしかクラスに流れる空気が悪くなる。日向は日向で嫌そうに対応している。
無理だ。私には無理だ。この空気の中にいられない。いつ爆発するかわからない実験に参加するよりも無理だ。
「ごめん、みんな。私、今日は別の所で食べるね」
そう言って弁当を持ってそそくさと教室を出る。
「待って、誠ちゃん!」
美智ちゃんがそう言っていた気がするが無理です。ごめんなさい。MAIは生理的に無理です。
どこで食べよう…。屋上でも行ってみるかな。そう思い、階段を駆け上がり、屋上へと出た。
「…誰だ。…誠か」
ドアの向こうには疲れ果てた赤羽くんが黄昏ていた。
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