メサイア学園 入学編 5
名前を考えるのがこんなにもつらいとは・・・・しばらくはアクションが続きます。
入学式から翌日、今日から本格的な授業がスタートする。しかしクリス達のクラスでは一抹の不安で溢れていた。
「今日もマリア先生は出張で不在のために俺が臨時として授業を持つことになる。ちなみにこのメサイア学園ではカリキュラムによって教師が変わり、俺は学問、剣術、魔術といった総合基礎を行う。尚、総合基礎は1学年の間では毎日2時間取り入れ、その後のカリキュラムによって担当教官が変わっていく。他の学園にはない専門教育システムだ。あまり交流は深くなれないだろうが一応臨時担当でもある。気軽に気になったことは聞きに来てくれていい。」
ラウルはそういうとそれじゃあ授業を始めていくぞと20人程の生徒にむかってこの学園の教育制度について説明した。
メサイア学園で採用しているこの専門教育システムというのは非常に他国でも注目されていて、担任がすべての科目を教えるのではなく、教科によって専門的に教える人材を揃えている。彼らもまた、ギルドランクA並みの実力派であり、非常に優秀である。
しかし、全ての教科で彼らが出てしまうのはあまりにスケジュールを組むのが難しくなってしまうので、特に1学年に対しては午前の授業では担任が総合基礎という名目で生徒を教えることになる。
「先生、その前に先生の実力というのをお伺いしたのですがーーお父様やマリア先生が先生のことを称賛していたとしても私たちとしてはその実力の片鱗も知りません。ぜひ授業に入る前に見せていただきたいと思います。」
彼女の言葉に賛同するものがほとんどでその反応も仕方ないだろう。実際に不安なのだ。この教師に任せても大丈夫なのかどうかが。
---しかし、これは彼女の策である。
たとえ周りが彼のことをほめていたとしても、彼女にとっては彼はやはり庶民なのだ。特に彼女達はエリートの中のエリートだけが入れるというメサイア学園に入学したという驕りがあり、数でおせばたとえSランクでもかてると思い込んでいる。そして数で圧倒し、彼の存在を理事長などに再検討してもらおうと思っているのだ。
これも致し方ない。なぜなら彼女達は知らないのだ。---戦場に出たことのあるものの姿を。
故にラウルはクリスの言葉に対して反応せずに
「いいだろう、では10分の時間をやる。その間に準備をすますから君たちも全力で戦えるように準備をしておくといい。元々これはいつかやると思っていたからな。タイミングとしてはいいだろう。10分後に裏山の前で集合だ。」
元々自分の実力を見せておかないと素直にならないと分かっていたラウルにとってはこの反応は予想していたので事前に用意した言葉でそういった。10分の時間を作ったのは単純に彼女達の反応を見るためだ。ここで失望させるようなことがあれば、これからの授業の取り方にいろいろと変更をしなければならなくなる恐れがある。
「・・・わかりました」
クリスはそういうとすぐさまクラスメイトを集合させ、打倒ラウルを掲げることにした。
場所は変わって裏山の前、ここはメサイア学園の所有地でその規模は半径3kmほどにもなる。
利用目的は授業によってさまざまだが、主にこういった戦闘訓練が行われている。
「よし、集まったな。一度しか説明しないからよく聞け、ここの裏山の一部分を使って戦闘実習を行う。制限時間は1時間30分だ。なお、その際の得物はこちらで用意した訓練用のものを使ってもらう。魔法は制限はしないが念のためこめる魔力は抑えるように。先に俺が裏山に入ったら5分後にお前たちが続く。そして俺を見つけてうまく戦闘不能にする、もしくは生き残りがいればお前達の勝ちだ。そして俺の勝利条件は・・・・お前たちの殲滅ということにした。」
・・・ざわっ!彼らはこの言葉を信じられなかった。たとえAランク並みの実力があるとはいえ、こちらは20名。たった一人に負けるとは到底思っていないし想像ができない。しかし、一度しか説明されないので聞き逃さないようにしっかりと耳を傾けた。
「手段は一切を問わない。全力で俺を排除して来い。こちらも相応な対応をとらせてもらう。以上だ。では先に言っているぞ。そこの砂時計が空になったら合図だ。」
ラウルはそういうとその場から離れ、裏山へと入っていった。
「・・・まずは作戦を立てようか。」
そういったのはクラスの中で成績トップを治めた少年、フォルゲンレーテ・ベルンだ。彼はその頭脳の良さを評価され、クラス委員に任命された。そのため全員その少年の指示を待つことにした。
「フィールドは裏山の一部・・・とはいってもそれでも相当な広さをもつ。ここからラウル先生を見つけることは難しい。だからパーティーを編成してそれぞればらけて捜索しよう。誰かのパーティーが先生を見つけたら信号弾となるように頭上にサンダーをうってその合図が出たら一斉に合流し、先生を囲んで倒そう。・・・何か意見や質問はあるかな?」
彼らはあまり戦術というものに詳しくはないのでその指示に従おうと肯定の意をだした。
そして編成されたパーティーは全部で4つ。一つに5人つくようにした。これなら万が一奇襲されても合図を撃つ時間が作れるし、そう簡単にやられることはないと思ってのことだ。
クリスもパーティーのリーダーとなり、後ろに控えている4人の顔をみた。赤いショートヘアで女性のリタ・ファアム、黒いロングヘアーで女性のリリム・ニュート、茶色のショートヘアで男性のトム・ヘッケネン、金髪ショートで男性のアリアス・ノブリス。
彼女たちは現在最初の地点から10時の方向で進んでいる。しかしなかなか先生の姿がみえずいらだちを隠せずにいた。
「くそ!先生はどこだよ!?もう30分は歩いているのに見つかるどころか合図すらないじゃないか!」
アリアスはそう叫ぶとクリスが落ち着きなさいとなだめた。
「先生はこちらを殲滅するとおっしゃっていました。ならば必ずその姿をみせるはずです。おそらく先生は奇襲をしかけるつもりなのでしょう。だから絶対に警戒を怠らないように気を付けて下さい」
「つってももう時間も1時間もないだろ!?どうやってバラバラになった俺たちを全員倒すんだよ!?」
「だから落ち着きなさいといっているでしょう。今は焦らないことよ。条件としてはこちらのほうが若干有利にできている。焦ったらせっかくの優位性が失われるかもしれないのよ」
うっ・・・ 言葉に詰まらせて反論できないアリアスはしかたなく回りを見渡し、警戒を続けた。
---しかし確かにおかしい。あの先生はなぜまだなんのアクションもおこさないの?
クリスはその疑念を晴らせずにいるとついにどこかのパーティーが見つけたという合図‘サンダー’が光った。