メサイア学園 入学編 3
雲ひとつない澄み渡る空に新入生を歓迎するかのように舞う桜の木の下で、一人の男が負のオーラを出していた。
この男は先ほどまでクリス達のクラスで臨時講師として紹介されていたラウル・アルフォートだ。
「はぁ・・・なんでこんなことに・・・いやまぁマリアさんに無理矢理連れてこられて抵抗しなかった俺が悪いっちゃ悪いかもしれんが。」
なぜこの男がこんな状態になっているのか。それは1週間前にさかのぼる。
「ラウルーーいるかーーー?」
ラウルが経営している万屋‘アルフォート’でドアを突き破るかのような勢いで入ってきたその女性はマリアだ。
彼女は無遠慮に部屋に入ってきたかと思うとラウルの机の前まで来て、そこで新聞を読みながらマリアを無視していた。彼としてはマリアは面倒を持ってくる災厄に等しい。できるなら帰ってほしい。
「お前が聞いていようが聞いていまいが関係ない。来週のメサイア学園の入学式、臨時講師として出席しろ。反論は許さん。以上。」
彼女はそういうともと来た道をもどり、帰宅しようとその身をドアのほうへと向けた。
「いやちょっとまてえええええ!?どういうことだよ!?」
無視などできるはずがない。彼女に説明を求めようとつい反射的にその身を止めようとしてしまう。
「なんだ?こっちは忙しいんだ。質問は30秒以内で言え。」
「いきなり臨時講師頼むっておかしいだろ!?しかもメサイア学園!?どこからつっこめばいいのかわかんねえよ!?」
「まずお前の身分や実績はすでに理事長に通している。その上で許可が下りたんだ。そして臨時講師に関しては私があまりにも多忙故に生徒の姿を見ることが難しいのだ。そこで私がもっともりよ・・・信頼しているお前にこの案件を任せようと思った次第だ。」
「いま利用っていおうとしたよな?絶対俺の事便利屋かなにかと勘違いしているよな?」
「事実便利屋だろう。」
うぐ・・・ラウルは言葉に詰まると何も言えなくなってしまう。正式な依頼というのならちゃんとした手続きが本来は必要なのだが、この女性には一度大きな借りを作ってしまっているのだ。面倒極まりない案件であるのは確かなのだが、あまり大きなことは言えない。しかし彼としても簡単に引き下がれるようなことでもないのは確かだ。
「生徒に対してはどう説明するんだよ。いきなり担任が教室から離れて臨時の、それも庶民の何でも屋なんてやっている奴に変わるなんて納得いくわけがないだろう。」
「その辺はお前の力量次第だ。幸い生徒たちのご両親にはちゃんとした許可が下りている。少数派ではあるが、それでも20名近くの貴族の生徒を預かるんだ。信頼はちゃんとある。」
「たまにあんたが何者なのかを忘れてしまうよ・・・」
ふつうこのような事態は貴族が許可を出すとは思えないが、彼女のいうことには嘘はないようだ。それでも生徒には何の説明もされていないというのは驚きだが、それを何とかしろと言うのだ。滅茶苦茶にもほどがある。しかし彼女の破天荒さには一々突っ込んでいたら体がもたない。いつもの事だとスルーすることにした。というか考えるのをやめた。
今日から新しい生活が始まるであろう彼女達は案の定怒りをあらわにして、質問や疑問が飛んでくる。それでも罵倒らしきものがないのは彼女達の育ちの良さがでているのだろう。それでもラウルとしては同情をする。こんな人でごめんね。俺はちゃんと仕事はするからねと、憐みの目でこれから1年一緒になるであろう生徒達にその口を開いた。