「第三話」
【第三話】
色々あったが、俺は佳奈と合流すべく、こちらに来てもらう為持っていた犬笛を吹く。
こうすれば後一、二分で佳奈がこちらにやってくるだろう。
ここだけの話佳奈は犬笛が嫌いなのだ。
何故か?
佳奈は自分は人狼であることに誇りというか何かそういったものを持っている。
故に犬扱いされてる感じで犬笛で呼ばれるのを嫌っている。
「これでよし! もうすぐ俺の妹の佳奈が迎えに来るから、そしたら帰るよ」
「犬笛吹いてたけど……妹さん、獣人なの? あなたは普通の人間よね?」
「まあ色々あるのさ!はははははっ!」
大げさなくらい笑った。
それに対して詩音は怪訝そうな顔したが、それ以上は聞いてこなかった。何か事情があるのかと言うことを悟ってくれたのだろう。
そのようなやり取りしていたら、遠くから俺を呼ぶ佳奈の声がしてくる。
「どうやら妹が迎えに来たみたいだ」
「そうみたい。妹さんの名前、佳奈ちゃんというんだ。素敵な名前ね」
そういうと優しく微笑みながら言った。
相変わらず楚々(そそ)とした笑顔だ。人を安心させる笑顔で、見るのは二度目だが見惚れてしまう。
「どうかしたの?」
その笑顔に魅入っていたら、詩音は不思議そうな顔した。
だがそんな表情もいつも笑顔にかき消されてしまう。そんな顔で振り返ってくるものだから何でもないことを伝えようとしてどもってしまった。
畜生、恥ずかしい!
「い、いや……何でもないぞ!」
慌てて言い繕い顔を逸らすが、時に既に遅し。
完全に捕まってしまった。
回り込んで来て、上目づかいで顔を覗き込んでくる。その顔はいたずらじみたチェシャ猫のような笑みだった。
「も・し・か・し・て! 私に見惚れてた?」
「ばばば、馬鹿言ってんじゃないよ!何言ってんだよお前!」
図星を突かれて慌ててる俺を見て、くすくすと笑う詩音。
顔を真っ赤にして俺は完全に形無しだ。
そんなやり取りをしてる内に佳奈が到着した。
「お兄ちゃん! 見つけたよ! 犬笛で呼ぶのやめてよ……嫌いなの知ってるでしょ……ってなんで顔真っ赤にしてるの?」
可愛い妹様は文句を言った後に、不思議そうに聞いてくるが、すぐにもう一人の存在に気付いた。
「お兄ちゃん、その女の人誰?」
佳奈が絶対零度にまで下がった視線を俺にむけてくる。
彼女は何故か俺に女の子が近づくのを極端に嫌っていて、おかげで俺は年齢=彼女いない歴になってしまった。
「えっと、佳奈落ち着け、ただの……」
「初めまして、緋羽佳奈ちゃん。私は蒼園詩音。止水君の妻になった者よ」
詩音が核燃料庫に爆弾を落とした。
それはもう核弾頭クラスのを落としてくれた。
核爆発など比較にならない規模の大災害が発生する。
(ちょっと詩音さああぁぁぁぁんん、何言ってくれちゃってんですかああぁぁぁぁ!)
それに対する佳奈の反応は……
「ええぇぇぇぇ!? お兄ちゃん! どういうこと!?」
やはりいつも通りのものだった。
流石俺の可愛い妹いつも通りのまったくブレがないぜ……。
「あのな、俺もよくわからんのだが……」
「私が説明するわ。何故私が止水君の妻になったかと言うと……」
「言うと……」
ゴクリっ……と佳奈が息を呑む。
俺は二人の横で何とか阻止しようと、あわあわしている。
(佳奈にばれたら千春夜に伝わり殺される……! それだけは何としてでも回避しなければ! だがどうしたらいいのだ! ああこれ万策尽きたな……詰んだくさいな)
「止水君が私に情熱的に告白してくれたのよ。その情熱に負けて嫁ぐことを決めたのよ!」
「そうです。って違うだろ! 俺がお前の裸を見て、実家のしきたりで裸見た相手に嫁がなきゃいけないって言ってただろう! って……あ」
その瞬間……詩音がニヤリと笑った。
(しまった……嵌められた!)
「だってさ、佳奈ちゃん。私はあなたのお兄さんに裸を見られて嫁ぐことになったのよ」
「あの佳奈さん私の言い分聞いて貰えますか?」
凄まじいプレッシャーを放つ鬼のごとき佳奈に勇気を出して声を掛ける。
「被告人緋羽止水、言い残す事は?」
「佳奈さん、誤解なんです! 視たことは視たのだけれどね崖から落ちた衝撃で気を失っていてね。いつの間にか膝枕されてたんですよ!」
それを聞いて佳奈裁判官は判決を下した。いや、もう判決は出てる気がするが……。
「被告人緋羽止水」
佳奈はニコリと笑った。まばゆい聖少女の笑みである。
(おおっ! これはワンチャンあるかも……!)
「判決、有罪。被告人緋羽止水を断頭刑に処す」
(ワンチャン無かったーーーーーー!)
「まあまあ、佳奈ちゃん許してあげてよ。こんなところで水浴びしてた私も悪いのだから」
すべての元凶のくせにしれっと、こちらをフォローしてくれた。
それは嬉しいのだが散々煽ってから、フォローするのは人としてどうなんでしょうか?
というのが、俺の感想だ。絶対何か企んでるに違いない……。
だが、うちの妹様はそこまで甘くないぞ。
「うーるーさーいー! あたしのお兄ちゃんはあたしのものだもん!」
「でも、兄妹じゃ結婚できないよ? どうするのかなー?」
また佳奈を挑発している。
本当に後の始末が大変だからそこらへんにして欲しい。
拗ねるは、無視するは、噛み付くはで手におえないのだ。
「あの……詩音さん? 後始末が大変なのでそこらにして貰えると助かるのですが……」
「お兄ちゃんは黙っていて! 今はこの泥棒猫と話しているの! お兄ちゃんへのお仕置きはこの後するから!」
「はい! すみません!」
俺は妹様に一喝されて謝ってしまったあげく、敬礼までしてしまった。
恐るべし妹様。
昔からこの軍曹状態になってしまった妹様には抗えないのである。
情けないことにね。
「止水は妹さんに愛されているのね。こんなにも『お兄ちゃん大好き!』な妹さんがいて、お兄ちゃん冥利に尽きるわね。し・す・い」
「人が怒ってるのに、なにいちゃついてるのよ! お兄ちゃんのバカーーーーーー!」
意識を詩音の方に向けていた俺は佳奈のハウルをもろに受けて脳をゆさぶられて、それを最後に俺は意識を失った。
続く