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トリップ剣士の学園生活  作者: 懐園 蒔士
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「第二話」

【第二話】


崖から落下していく俺はとっさに鋼剄を使い、水面に叩きつけられた衝撃は防ぎ、事無きを得たように思えたが、鋼剄を解いた直後、背中に鈍痛が走る。岩だ。恐らく俺と一緒に崖上から落ちてきたのだろう。油断していた。呼吸が出来なくなり水面(みなも)の底へと意識と共に沈んで行った。


ここはどこだろう?

そうだ。崖から落ちたんだった。


『起きなさい、止水? 幼稚園に行く時間よ』

『ん……おかあさん? ぼく、崖から落ちたんじゃないっけ?』

『あらあら、寝ぼけてるの?』


と言って、やさしく笑うおかあさん。

ここは昔の記憶だ。こっちに来る前の小さい時の記憶だ。

とても……優しい記憶……。


『幼稚園……』

『大丈夫? まだ寝ぼけているの? 早く用意なさい。バスに乗り遅れるわよ』

『うん、わかった。おかあさん』


のろのろと用意を始めるぼく。

おかあさんが後ろでおべんとうの準備をしている。テーブルにはトーストとスクランブルエッグとコーンスープが湯気を立ててテーブルにならんでいる。


『いただきます』


ぼくがそういうと、おかあさんの『召し上がれ』という声がした。

食べ始めた僕にやさしくおかあさんが声をかける。


『止水、今日の夕飯何がいい? 今日は止水の誕生日だから好きなもの作っちゃうわよ』


そうだ。この誕生日の日に事故が起きて俺はあっちに飛ばされたんだ。

そこで意識が浮上してくる。


「あの……大丈夫?」


鈴を鳴らしたような声がする。なんだろう、安らぐ声だ。とても安らぐ……。


「お母さん……」

「残念だけど……私は君のお母さんじゃないわ」


意識が急速に覚醒して来る。それは水底(みなぞこ)から水面に浮上する感覚に似ていた。


「う」

「う?」

膝枕してる少女が首を傾げる。

そして、膝枕されてるという事実に気付き、俺の顔に血液が集まって来始め……


「うわあああああああ!!」


叫んで飛び起きてしまう。


「きゃっ! 何ですか!? いきなり叫んで!? 崖の上から落ちてきた貴方を 引き上げて介抱していた私にその仕打ちですか?」


 と、立ち上がりながら顔をしかめて抗議した。

 正し全裸で。


「ま、まま前前! 前隠せって! 見えてる! 見えてるから!」


 膝枕少女はそこで自分の今の状態に気付く。

 全裸である。

 が、時すでに遅し。俺の脳内画像保存ホルダーに保存されてしまう。

 その出るところは出て、引っ込むべきところは引っ込んでいる肢体はとても美しかった。

 よく見れば目鼻立ちも整っており、かなりの美人さんである。艶やかな唇、美しい鼻梁、パッチリとした眼はブルークリスタルのようであった。特に蒼銀のロングヘアーは一度見たら忘れられないほどである。かなり……いや凄まじい逸材かもしれない。


「ちょっとあっち向いていて」


 そうは言われたが俺は、少女の近くの木の枝に掛かっていたタオルを少女に掛けてあげ、立ち去ろうと踵を返す。

 しかし、少女に呼び止められた。


「貴方、名前は?」

「な、名前? 緋羽止水だけど? 名前なんて聞いてどうする気だ……ま、まさか! 通報する気か!?」

「ち、違うわよ! 我が家のしきたりで異性に裸を視られたら、その人の下に嫁がなければならないのよ! 不本意ですけどね……」


なんだ、通報されないのか。なら安心して帰れるぞ。

……いやまて。なにかとんでもない事を言ってた気がする。


「あの……お嬢さん。今なんと仰いました?」


少女は頬を赤らめ恥ずかしがりながら、今一度言った。


「だから、裸を視られたらその人の元に嫁がなければならないのよ!」


何か、とんでもなくデンジャーな事を聞いてしまった。これ以上ここにいては状況がますます悪化しかねない。俺は準備体操を始め、そして十分に体が温まった ところで全力で逃げ出す

黄泉鎖(よみくさり)

だが少女が放った無詠唱魔法に捕まる。


「こ、拘束魔法……。お前もしかして鋼刃の生徒か!?」

「そうだけど……貴方もなの? 何年生? 私と同じ一年?」

「そうだよ……ああもう! 人生の墓場一直線コースだ!!」


その発言を聞いた膝枕少女は心外だという表情を浮かべ頬を膨らませた。

その様子はまるで癇癪を起した子供のようである。


「失礼ね! 後悔なんてさせないわよ! これでも家事は万能なのよ! 君こそどうなのよ!?」


と、抗議してきたので、心外なと反論する。


「俺はこれでも緋流の後継者だっ!」

「嘘よっ!! あなたみたいな受け身も取れない人があの緋流の後継者のわけがないわ!」


弁解しようとするが、追撃するように少女が言う。その様子は烈火の如しだ。


「証拠を見せてみなさいよ! 後継者なら、それに相応しい(あかし)を持ってるはずよ!」


なんだこの女は!? さっきのお淑やかさは何処にいったんだ! これだから女は怖いんだ……! ってかさっさと服着ろよ! でも、突っ込んだら何百倍になって返ってきそうだ。


「わかったよ……。見せればいいんだろ、見・せ・れ・ば!」


俺は、渋々腰鎧に佩いていた刀を見せる。


「なんか普通の刀ね。持たしてもらってもいいかしら?」

「持てるものならどうぞ」


俺は意地悪な笑みと共にOKサインを出し手渡す。

しかし彼女は持った瞬間あまりの重量に地面に落としてしまう。

だがそれにしては刀は羽根が落ちたような軟着陸をした。


「何この刀……もの凄い重量……! あなたいつもこんな重い刀持ってるの!?」

「ふふふっ、お前はこの刀に拒絶されたようだな!」


俺はちょっと意地悪に笑い、刀を軽々と拾い上げる。

その様子見た膝枕少女は呆気に取られた。


「なっ……! 拒絶!?」

「ふふん! この刀は生きて、意志を持ってるのさ! この刀に認められてる者しか持てないし、抜けないのだ!」


ドヤ顔で自慢する俺を冷ややかな目で見てくる膝枕少女。

何か失敬な感じだ。


「なんだその可哀相な人を視る目は」

「別にそんな目で見てないわよ。ただそんな事だけでどうしてそこまでドヤ顔になれるのかしらと思っただけよ。鋼学(こうがく)には山ほど居るわよ。多分……」


ボソリと彼女が最後に何か言う。


「まあ、そうか。ところで膝枕少女よ、質問が……」


それに対して膝枕少女は待ったを掛ける。


「質問の前にその膝枕少女っていう呼び方をやめて。私には蒼園(そうえん)詩音(しおん)っていう名前があるのよ。名字の字は蒼穹の蒼に、庭園の園よ。名は詩人の詩に、音楽の音なの。あといい加減に服を着させて!!」

「おっと、それは失礼! えっと……蒼園さん?」


名字で呼ぶと蒼園さんから待ったがまた掛かる。


「同じ新入生なんだから名前で呼んでよ。私この名字あんまり好きじゃないの……だから名前でお願い! 気軽に詩音って呼んで!

それにあなたは私の旦那様なのだから……」


最後の方は声が小さくてよく聞こえなかったが、今度は俺が詩音に待ったを掛けた。


「それだったら、俺の事も名前でいいよ。俺だけ呼ぶのは不公平だ」

「じゃあ止水君? それとも止水?」

「好きな呼び方で言いよ」


 その言葉に詩音はその返答に顎に指を当ててしばし考え。


「じゃあ止水って呼ぶね」

にこりと笑ってそう言う。その笑顔は大輪の薔薇のような笑顔ではないが、楚々とした、霞草(かすみそう)のような笑顔でありとても詩音に似合っていた。


「なんかさっきの詩音の呼び方の話、小さくて最後の方がよく聞き取れなかったんだけど……大事な事?」

「ううん、大した事じゃないわ」


 そういうと詩音は顔を赤らめて俯いてしまった。大した事じゃないという割には妙な反応である。


「バカ……」


そんな言葉を聞いた気がしたが風音にかき消されてしまった。


続く


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