第十六話 ユージ、アリスやシャルルと一緒に開拓地を見てまわる
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「そうじゃ、良いぞシャルル。燃え続ける炎を想像することがこの魔法のキモじゃ」
「はい、お祖父ちゃん!」
「ねえねえお祖父ちゃん、アリスは? アリスはどう?」
ホウジョウ村開拓地にある共同浴場。
ユージの家のお湯から、水路の水に切り替えられた浴槽。
そこに、魔法の練習をするアリスとアリスの兄・シャルルの姿があった。
二人の祖父・バスチアンが、水をほどよく熱してお湯にする魔法を教えているようだ。
「アリスはのう……ううむ……それで良いじゃろう」
「やったー! やったよ、ユージ兄!」
「よ、よかったなあアリス。あの……いいんですか、バスチアンさん?」
「うむ。アリスは細かい制御が苦手なようじゃからな。いまは無理に覚えさせるよりこれで良いじゃろう。うむうむ」
火魔法を得意とする『炎熱卿』バスチアンのお墨付きをもらって喜ぶアリス、戸惑うユージ。
うむうむと頷くバスチアンを、コタローはジットリとした目で見つめている。ほんとにそうおもってるの、おしえるのあきらめたでしょ、と言わんばかりに。
シャルルは水を張った広い浴槽に手を突っ込んで、水中で消えない炎を出していた。
位階が上がって魔素の量が問題なければ、あとは魔法はイメージである。
過去の稀人のテッサいわく『無限の可能性』なのだ。
イメージさえできれば、物理法則など無視であった。
シャルルはバスチアンから教わった魔法を習得したようだ。シャルルは。
一方で、シャルルの妹のアリスは。
以前にバスチアンに教わった火矢の魔法を、ひたすら浴槽の水に向かって連発していた。
えい、えいっ! という掛け声とともに発射された火矢は、水に触れてジュッと音を立てて消える。
バスチアンから合格をもらったアリスは一仕事終えたとばかりに笑顔を浮かべて、ふうっと汗を拭っていた。
お湯は沸いていない。
「うーん、熱した石じゃ数が必要だろうし、今度浴槽に大きな岩でも入れておこうかなあ」
「どうしたのユージ兄?」
「ああうん、なんでもないよアリス、うん」
ユージの家のライフラインは謎バリアの魔素で動いており、使えば使うほど魔素が消費されて穴が広がる。
節約のために、ユージは共同浴場にお湯を供給することを止めていた。
ユージはうまいこと魔法でお湯を沸かせないか考えているようだ。
まあそもそもこの世界ではお風呂など王侯貴族の贅沢で、農村では水浴びかお湯で体を拭うのが普通なのだが。
「ああ、鍛冶師さんたちがいるんだし、石じゃなくて金属がいいか。浴槽に突っ込んでおいて、一方をアリスが熱するとか」
なんでもないと言いながら、ユージはブツブツと独り言を続けている。
その場にいた三人と一匹は、ユージの奇行をスルーしていた。
いつものことなので。
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「あっ、シャルルくん! ちょうどいいところに!」
「ユルシェル、落ち着いて。すみませんシャルルくん、ユージさんたちも」
「ユルシェルさん? ヴァレリーさんまでどうしたんですか?」
共同浴場のお湯を沸かし終えたユージたちが歩いていると、針子のユルシェルが作業所から飛び出してきた。
慌てた様子で追いかけるヴァレリーとともに。
「ふふふ、ついにできたのよ! シャルルくん用の服が! ほらほら、着替えて着替えて!」
「え? あの、ユージさん、ボクはどうしたら……あっ」
「ああもう……すみませんユージさん! ちょっと待っててください!」
ユルシェルが左手で抱えていた布は、シャルル用の服であったらしい。
空いた右手でガバッとシャルルを抱きとめて、そのまま引きずるように針子の作業所に戻るユルシェル。
ユルシェルの夫で同じ針子のヴァレリーは、ユージに謝罪してすぐに作業所に戻っていった。苦労性な男である。
「ユージ兄! シャルル兄の新しいお洋服だって! 楽しみだねえ!」
「アリス……その、バスチアンさん?」
「かまわぬともユージ殿。儂らはただの平民。孫のために服を作ってくれたのじゃ、むしろ喜ぶべきであろう」
この村では、バスチアンとシャルルは王都に暮らす平民という設定になっている。
ユージが王都に行った際に同行していたユルシェルが何かを知っていたとしても、二人は平民なのだ。
そうと理解していなければ、さすがにユルシェルも服を作ったからといって貴族の子弟をなかば強引に連れ込むことはないだろう。
真実を知っていても、平民として振る舞うべきと理解しての行動なのだ。たぶん。
時おり漏れてくる女性の歓声を聞きながら、ユージたちが待つことしばし。
いつの間にか、一行にはケビンも合流していた。
そして、ようやく針子の共同作業所の扉が開く。
「ほら! どうかしらユージさん、アリスちゃん、バスチアンさん! シャルルくんにぴったりじゃない?」
誇らしげに胸を張ったユルシェルが、シャルルの背中をぐいっと押す。
平民という設定を理解しての行動である。きっと。
「ユルシェルさん、その服は……」
「シャルル兄、かっこいい!」
「ほうほう、これはなかなか……」
めずらしく頭を抱えるユージ。
ユージ以外の面々には好評のようだ。
いや。
コタローは小さく首を振っていた。ちょっと、これじゃせいふくじゃない、とでも言うかのように。
グレーのパンツ、わずかに青みがかったジャケット。
ユージが提供していた型を持ち出したのだろう、中には白いワイシャツ、ネクタイまで締めている。
制服である。
ブレザータイプで、男用の。
「いや、似合ってますし、その、学生なんでピッタリだと思いますけど……誰だ、こんなドンピシャな服のデザインと型紙を送ってきたヤツ……」
ホウジョウ村で生まれる新たな服の数々。
それは、掲示板の住人や有志が立ち上げた『デザイン・型紙投稿&ダウンロードサイト』からユージに送られたデザインと型紙が元になっていた。
だが、中にはこの世界に馴染まないアイテムや実現できない服もある。
そのためユージは、特に精査せずに針子のユルシェルとヴァレリーに渡していた。
プロに任せるのが一番だろ、と。
結果がコレである。
「うん! これは売れるわよ!」
「ええ、ええ。いいですねえユルシェル。商家や富豪の子息に……」
シャルルに着せて、仕上がりを見たユルシェルの鼻息は荒い。
商売の芽を見て取ったケビンも。
「ケビンさん、でもほら、あんまりホウジョウ村と関わりがあるってわかったら……」
ギラギラと目を光らせるケビンにささやくユージ。
めずらしく気の利いた発言である。
平民ではなく貴族のバスチアンとシャルルの血族であることがバレると、アリスの身に危険が及ぶとわかっているからだろう。
「そうでしたね。ですが大丈夫ですユージさん。この服は王都のゲガス商会に卸しましょう! 王都で売っている服であれば、王都に住んでいるシャルルくんが着ていてもおかしくありませんからね! ユルシェル、さっそく増産を!」
「了解! うふふ、私たちが作る服が王都で売られるなんて!」
「そう、王都のゲガス商会で売りましょう。王都なら売り先も……くふ」
ユルシェルは、流行の発信地である王都で販売されると聞いて。
ケビンはプルミエの街より王都の方が売り先が多いと計算して。
二人のテンションは高い。
「えっと……」
「うん、かっこいいよシャルル兄! ユージ兄も作ってもらう? お祖父ちゃんは?」
「ああいやアリス、俺はいいから! これは若い男の子のための服だから!」
「ふむ、そうなのかユージ殿。ではお揃いは諦めよう」
ユージの奮闘で、35才のおっさんと老齢のバスチアンがブレザーを着ることはなくなったようだ。
まあただユージが制服として認識してしまったからであり、多少の調整をすれば上下色違いのスーツとして着てもおかしくはないのだが。
とうぜん、シャルルの胸元になぜか付いているワッペンは外したデザインで。
「ゲガス商会で売り出して……シャルルくんが着ているのもいい宣伝になるでしょう……この際、同じ学校の子弟に限定して……」
ケビンはなにやら呟いている。
本来、シャルルは貴族である。それも侯爵という位の高い貴族の孫である。
高位の貴族が新しい物に手を出した場合、下位の貴族に広がるケースも多いのだ。
ケビン、取らぬ狸の皮算用である。
「そうだユージさん! これ、女性用はどうなるんですか?」
「え? そっちも作るんですか?」
「安心してくださいケビンさん! もう型はありますから!」
過去の稀人・テッサの指示で作られた学校。
遅れていま、稀人のユージにより、元の世界の制服が流行ることになるらしい。
ただし。
元のはちょっとはしたないわ! と、女性のデザインはロングスカートに変更されていた。
微妙なところである。
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「土さん、ちょっと下にいってー!」
「お祖父ちゃん、これ……」
「ううむ……儂にもわからん。エルフの魔法じゃろうか」
「いやあ、助かるぜアリスちゃん!」
ホウジョウ村の外周の近く。
内側にはすでに畑ができているが、外側は木々が茂っている。
開拓村らしい景色が広がるその場所に、アリスの元気な声が響いていた。
切り株に向けて放たれるいつもの土魔法である。
「エンゾさん、開拓はどうですか? 畑は……良さそうですね」
「ああ、こっちは順調よ! アリスちゃんもいるしな、来年にはまた畑が広がるだろ」
ユージと話しているのは、元3級冒険者で『深緑の風』の斥候役・エンゾ。
副村長のブレーズやほかの元冒険者たち、犬人族のマルセルは別の場所で農作業をしてるらしい。
エンゾが周辺の見まわりから帰ってきたところでユージたちに遭遇し、ついでとばかりにアリスに切り株を処理しやすくする魔法をお願いしたようだ。
「しっかし……ユージさん!」
「はい?」
「なんかスッキリした顔になってんじゃねえか! ブレーズも俺も、イヴォンヌちゃんも心配してたんだぜ?」
「ああ、はは、バレてましたか」
「いや、俺はイヴォンヌちゃんに言われて気づいたんだけどよ」
「はあ」
エンゾの嫁のイヴォンヌは、プルミエの街の夜の華だった。
さすがに人の感情を見抜くのは得意らしい。元3級冒険者の斥候よりも。
「あんまり長引くようなら、手紙を書くから連れてってやれって言われてたんだぜ?」
「え? どこにですか?」
「そりゃ決まってるだろ、プルミエの街、イヴォンヌちゃんが働いてた店よ。もちろん俺は案内してイヴォンヌちゃんの手紙を店に渡すだけだけどな! もうイヴォンヌちゃんはいないし」
「そ、そうでしたか……」
ユージと肩を組んで、ニヤニヤと笑みを浮かべるエンゾ。
どうやらユージがあまりに思い悩むようであれば、スッキリさせるべく手を打つ予定だったらしい。肉体的に。
「まあいまのユージさんには必要ないみてえだな! おっと、終わったかアリスちゃん! いつもありがとな」
「へへー、ねえねえ、アリス役に立った?」
「おう、ばっちりよ!」
「え、あ、その、エンゾさん……」
最後にバシッと肩を叩いて、エンゾはユージから離れてアリスに声をかける。
会話は終わった、ということなのだろう。
残されたユージが伸ばした手は、エンゾに届かなかったようだ。
ユージに声をかける者は誰もいない。
ただコタローが、ユージの手を冷たく見つめるだけである。ゆーじ、えんぞになにをいおうとしたのかしら、と。
ユージがこの世界に来てから6年目の夏。
シャルル、エルフの長老たち、そしてこの世界の研究者。
新たな情報を得たユージは一時思い悩むも、前に歩き出していた。
これまでと変わらない日常へ。
これまでと違うのは、意識的にライフラインに頼らなくなったこと。
ただそれは、実は大きな一歩なのかもしれない。
いったん切ろうかと思いましたが、章タイトルが……
このまま続けます!
次話、明日18時投稿予定です!





