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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十章 代官(予定)ユージ、文官として働きはじめる』

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第十一話 ユージ、ホウジョウ村に異世界の研究者を迎える

6/25『10年ごしの引きニートを辞めて外出したら ①〈下〉』発売記念の複数回更新!

本日24日分、一話目です。


「やっぱり電気・ガス・水道も謎バリアの魔素を減らすのか……」


「そうみたいです。攻撃も修復もしなかった時間なのに、ちょっとだけ広がってますから」


 ホウジョウ村、ユージの家の門の内側。

 今日も今日とて、ユージとアリス、アリスの兄のシャルル、バスチアン、コタローが庭に立って紙を見つめていた。


 『魔素が見える』シャルルの魔眼で見ると、謎バリアは魔素でできていた。

 その謎バリアに、小さな穴がある。

 ユージは掲示板住人のアドバイスを元に、引き続き原因を探っていた。

 というかタイムスケジュール通りに実験を繰り返し、結果をメモって報告するだけの簡単なお仕事である。


「おーい、ユージさーん!」


「あ、ハルさん」


「長老たち、あっさり帰っちゃったけどどうだったの? 何かわかった?」


「あ、はい、知らなかったことを教えてもらいました。今回は役に立たなかったんですけど……」


 ポケットに手を突っ込んでハルに答えるユージ。態度が悪いのではない。ユージのズボンのポケットには、エルフの長老から預けられた結界石が入っていた。

 魔力を込めると害意ある者が入れず、攻撃を防ぐ結界を創る石。

 過去の稀人・テッサが創り出したファンタジーすぎる石である。

 稀人のユージの家を守るためなら貸し出すと言われているが、ユージはいまだ使うかどうか保留しているようだ。


「うーん、歳ばっかり取って役に立たない長老たちだね!」


「ちょっ、ハルさん!」


「いいのいいの、里に帰るといっつも言ってるんだから!」


 ハル、にこやかに辛辣な意見である。

 まあハルと長老は軽口を叩き合う仲なだけのようだが。


「ユージ兄、今日はどうするの?」


「とりあえず結果を報告して、それからは……いろいろ考えないとなあ」


 アリスの質問にユージは明確な答えを返さない。


 ユージが異世界に来てから6年目。

 これまでユージの生活の基盤となってきた謎バリアとライフライン、ネット。

 謎バリアに空いた穴は、いずれそれらが使えなくなるかもしれないという事実をユージに突きつけていた。

 さらにエルフの長老たちから伝えられた、過去に建物ごと来た稀人たちの末路も。

 本人たちは変わらぬ生活と安定に満足していたようだが、静かに生を終えた稀人たちの話は、ユージにとって他人事ではない。


「そうかあ……ユージ兄、アリスも一緒に考えてあげる!」


「はは、ありがとうアリス」


 ユージの顔に陰りを見たのか、アリスが元気に宣言する。優しい少女である。

 足下で、わたし、わたしもよ! とワンワンワンと吠えてアピールしているコタローも。

 ユージ、モテモテである。少女と犬に。


「よし! じゃあちょっと待っててね! さっき計った分だけ報告してきちゃうから!」


 三脚に固定していたカメラからメモリーカードを取り出して、ユージは自室へ向かう。

 とりあえず、先ほど撮影した画像とメモった結果をアップしてくるようだ。


「じゃあユージさんを待つ間、ボクが魔法を教えてあげようか! イザベルさんの分もね!」


「やったあ!」


「ハルさん、よろしくお願いします」


 1級冒険者でエルフのハル、この空き時間にアリスとシャルルに魔法を教えるつもりのようだ。

 もっともアリスはこのホウジョウ村で冬に、シャルルはハルが王都にいる時にそれぞれ魔法を教わっているのだが。

 それでも嬉しいものは嬉しいらしい。

 勉強熱心な子供たちである。

 熱心すぎて兵器化していようと、物騒なこの世界では必要なことなのだ。きっと。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「ユージさん? どうしたんですか、お一人で?」


「あ、ケビンさん。ちょっと考え事を。あれ? ゲガスさんハルさんと、その人は?」


 ホウジョウ村開拓地、ユージの家の前の広場。

 ユージは切り株に腰掛け、アゴに手をあてて考え込んでいた。

 考えるユージである。

 ろくなアイデアが浮かばなさそうなのは気のせいである。


「おう、待たせたなユージさん。街に戻ったらもう来てたからよ。ここまで連れてきたんだ」


「ユージさん、言ってたでしょ? テッサから話を聞いて研究をはじめた人の弟子の弟子の……いまも王都で異世界に行く方法を研究してる人だよ!」


「あ、はじめまして、ユージです。……あの?」


「なんだこれは。なんだこれは。建築様式、不明。年代も不明。建築様式は見たことがないにもかかわらず既に年数が経っているように見える。あれはガラス? どういうことだ、あそこまでの透明度とあの大きさをこれほどの数使うなんて。製造技術も不明。辺境の地にこんな建物が……」


「あ、あの……」


「はは、ユージさん! 気にしないでね、このニンゲンはいっつもこうだから! ほら、挨拶はしっかり!」


「ああ、申し訳ない。興味深いものを目の前にするといつもこうなのだ。気を悪くしないでほしい。師匠やその遥か前の代からハル殿に援助をいただいて、異世界との往還方法を研究しているローランだ。稀人についても研究を……稀人? まさか!」


 ハルに促されてユージに挨拶したのは、40代ほどの男。

 長身痩躯で白髪まじりのボサボサの髪、明らかに伸ばしっぱなしのヒゲ。

 ローランと名乗るその男が、ハルたちエルフが援助してユージが元いた世界との往還を研究している男らしい。


「ハルさん?」


「ユージさん、どうするかは任せるけど……言ったほうが話は早いと思うな! 周囲からは変人と思われてるから彼が口を滑らせたところで本当の話だとは思われないし、ヒドいようならボクらエルフがなかったことにするから!」


 ハル、ひどい言いようである。

 あと、なかったことにするとはなんなのか。何気に物騒な男である。


「ユージ殿とおっしゃるのか? ハル殿の言う通り、ハル殿以外は私の言葉を信じる者などいない。それよりも! この建物、ハル殿との繋がり、ひょっとして、ひょっとしてユージ殿は……」


「あ、はい、稀人です。気づいたら家ごとこの世界にいて」


「おお! おお! 師匠! 師匠はついに会うことが叶わなかった本物の稀人が目の前に! ああ、なんという幸運か! ありがとうハル殿、ありがとう……」


 稀人だとユージが明かした瞬間に、ローランと名乗る男はその場に崩れ落ちた。

 世界の往還方法を研究する者にとって、稀人は憧れの存在であったらしい。


「あ、あの……」


 ユージ、ちょっと引き気味である。


「大丈夫、ユージさん! 彼、これでも研究はちゃんとしてるから! 落ち着いたらいろいろ話してくれると思うよ! 聞かれることのほうが多いだろうけど……」


 後半はボソリと呟くハル。

 まだ会ったばかりではあるが、ユージでさえ『そうだろうな』と思ってしまっていた。

 ケビンも、ここまで連れてきたゲガスも。


「うし。じゃあ後は任せたぞケビン。ユージさん、俺は宿場予定地に戻るわ。アイツらが心配だからな! アイツらが!」


「あ、ちょっ、お義父さん!」


 崩れ落ちたローレンが立ち直る前に、さっと立ち去るゲガス。逃げたともいう。

 街からここまで連れてくるのには二日かかる。

 ゲガス、どうやら研究者との会話にうんざりしていたようだ。

 商人として各地を旅して伝聞した知識に興味を示されたので。


「ふう、申し訳ない、私としたことが。そうですか、ユージ殿は稀人。そしてこの家はおそらく別の世界にあったもの。ふふ、ふふふふ……私は今日から神を信じよう! 神に感謝を!」


 ローレンの叫びに、ビクリと体を震わせるユージ。

 完全にイッちゃってる人だと認識したらしい。

 だが仕方あるまい。

 師匠もその師匠も自身も、人生をかけて研究してきた異世界との往還方法。

 稀人、そして別の世界から来た建物がここにあるのだ。

 ローレン、マッド気味からマッドへの線を越えてしまったようだ。


「ユージ殿! ではお話を聞かせてください! じっくりと、ええそれはもうじっくりと、すべてを! まずどこから聞くべきか、そうだな、やはりこの世界に来たことだろう。はじまりはどうであったか、なぜ身ひとつではなく建物ごとであったか。いや、時に稀人は集団で来ることもあると聞く。ユージ殿は一人であったか、あるいは誰かと一緒か。むう、時間が惜しい」


「そ、その、ローレンさん? ちょっと落ち着きませんか?」


「そうだユージさん、私はお茶を準備してきましょう。すぐ戻りますからね? ええ、すぐ戻ります。それでは!」


「あ、ちょっ、ケビンさん!」


 考えをまとめるためなのだろう。

 ブツブツと呟き続けるローレンを置いて、ケビンは飲み物を準備しに行った。

 ユージの家の前の広場で、落ち着いて話をするために。逃げたわけではない。決して。


「ほらローレン、落ち着いて! それじゃユージさんが答えられないよ!」


「む、申し訳ない。どうも興奮が抑えられなかったようだ。私の悪いクセでね、興味深い物事があるとまわりが見えなくなってしまう。だが仕方ないだろう。稀人がいて、違う世界の建物がある。どれほどの情報があるか……身震いするよ」


「は、はあ」


 目に興奮の光をたたえてぶるりと身を震わすローレンを見て、ユージも身を震わせている。

 捕食者と被食者のごとく。


「さて。では話を聞かせてほしい。ユージ殿は、いつこの世界へ? どこから? 一人で? なぜ、は過去の稀人たち同様にやはり不明なのだろうか?」


「えっと、いまから5年ちょっと前の春です。日本ってわかりますか? 初代国王の父のテッサと同じ世界、同じ国です。朝起きて気がついたら建物と敷地ごとこの森にいて、俺とコタロー、あ、コタローって犬なんですけど。なんでかは俺も知りたいぐらいで……」


 ユージがローレンの質問に答えはじめると、ローレンは懐から取り出した紙に答えを書き付けていった。


 ユージが答えると、またローレンが質問する。

 コミュニケーションに難がある二人ではあるが、知りたいことは同じ。

 異世界との往還方法である。

 見るものが見ればもどかしさを感じさせる会話ながら、ユージはローレンの質問に答えていくのだった。



次話、本日24日の18時投稿予定です!


都会では発売日前日に売ってたりするんでしょうか。

二巻目ですけど『①〈下〉』ですのでご注意ください!

店舗特典は活動報告かオーバーラップ文庫さまの公式ページをご覧ください!


……一巻目が『上巻』と聞いて購入を迷われてた方、

『上下巻』セットで買ってくれてもいいんですよ?


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