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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十章 代官(予定)ユージ、文官として働きはじめる』

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第二話 ユージ、ケビンと鉄道馬車について話をする


「それでケビンさん、話ってなんですか?」


 ホウジョウ村開拓地、ユージの家の前にある広場。

 木工職人のトマスが整えた切り株のイスに座って、ユージがケビンに話しかける。

 かたわらにいるのはアリスとコタロー。

 ホウジョウ村を見まわっていたユージは、ケビンから話があると言われて連れ立って広場に来ていた。


「ユージさん、心配しなくても大丈夫ですよ。ほら、前にユージさんが話してたじゃないですか、金属のレールを敷いて、その上に馬車を走らせるという」


「ああ、鉄道馬車ですね! どうするか決まったんですか?」


「ええ、鍛冶師と木工職人のトマスさんに試算してもらいました。工賃は私の方で試算して……まずは試験用に造ってみることにしました」


「おお!」


「ユージ兄、電車? 電車ができるの?」


「アリス、電車とは違うよ。うーん、映像は残ってないかなあ」


 ホウジョウ村開拓地とプルミエの街は道で繋がっている。

 7人の男たちと冒険者たちが造った道は、荷車が通れるほどの幅と路面となっていた。

 だが、それだけ。

 春から秋にかけて、雨が降っていない時は問題なかったが、雨天や雪解け水でぬかるんだ春先の路面状況はひどいものであった。

 なにしろむき出しの土のままなので。


 それにしてもアリス、電車の存在を知っているようだ。

 ユージが映画やらアニメやらを見せたせいである。

 アリスの教育は大丈夫か。

 まあイメージが力になるこの世界の魔法において、地球のフィクションはプラスになっているのだろう。たぶん。

 あとユージ、映像は見られるはずだ。

 昔であれば映像資料を見つけ出すのは大変であり、持ち出し禁止とされることが多かった。

 それがいまや、動画サイトが存在するのだ。

 現代に残る観光用の映像はもちろん、古い資料映像もアップされていることだろう。


「まずは短い距離でレールと枕木、車輪を作って試してみます」


「そうですか、楽しみですね!」


「ええ、そうすれば試算も正確なものになりますからね。ですが春から秋にかけて、安定してここと街を往復できるようになれば……ええ、ええ。けっこうな生産量になると思いますよ。なにしろ街から素材を運ぶのもラクになるわけですから」


「はあ……あ、ケビンさんが気にしてたすれ違いはどうするんですか? やっぱり上りと下りの二本分を引く感じですか?」


「いえ、ユージさんに教わった待避所を使うつもりです。と言いますか、一日一本ずつ街と村から走らせられれば充分でしょう。宿場予定地ですれ違えば問題ありませんよ」


「そっか、別に本数はいらないんですね」


「ええ。街から王都まで運ぶのも大変ですから。王都は遠いですし、そこまでレールを結ぶというわけにはいきません」


「馬車で7日かかる距離だしさすがに大変そうですもんね。あ、だったら船で運ぶのはどうなんですか? というか開拓地には水路があるんだし、最初から船でっていうのも」


「ユージさん、水棲モンスターの問題があります。運が良ければ襲われずに運べるでしょうが……儲かるか破産するか、運任せ。ゲガス商会もケビン商会も、水運には手を出していないのですよ」


「水棲モンスター……。その、エルフのみなさんに手伝ってもらうのはどうですか? お願いだけじゃアレだから、報酬を用意して」


「そうですね、それなら水運も安全にいくでしょうね。ですがユージさん、忘れてしまいましたか? エルフがいると知られれば、人間に狙われかねません。人間とエルフを繋ぐお役目を引き継いだ者としては、わかっていて危険を負わせたくないのですよ。たとえエルフのみなさんがならず者や盗賊を撃退できると知っていても」


「そうでした。リーゼの時も、水路を造る時も気を遣ってましたもんね」


「はい。撃退しても、ニンゲンに悪い印象を持つのは間違いないでしょう。そうじゃないニンゲンもちゃんといるのだとわかっているでしょうが……欲をかきすぎてはいけません。今のまま、あるいは鉄道馬車で充分儲けは出ますから」


「うーんと、お船で行くの、アリスがお手伝いする?」


「ふふ、それもいいですけどね! そうすると、アリスちゃんは必ず船に乗ってもらわなきゃいけませんよ? エルフの里に行くのも開拓地で過ごすのも、自由に動けるのは船が出るまでの間だけで」


「うーん、アリス、それはちょっとイヤかなあ」


「でしょう? やはり水運は賭けの要素がつきものなんですよ。一度や二度ならいいかもしれませんが、それを基本にするのは考えられません」


 この世界における水運は、本来水棲モンスターとの戦いがつきものである。

 ユージはほいほいエルフの船に乗り込んでいるが、それは風魔法、水魔法の使い手であるエルフがいてこそ。

 水中にいる敵と、船の上から戦うのは並大抵の難易度ではない。

 接近戦はほぼ不可能なため、最低でも魔法が使えなければ話にならないのだ。


 エルフではなくても、アリスや強力な魔法使いを乗せれば安定して航行できるかもしれない。

 だが、そうすれば支払う報酬の額も跳ね上がる。

 ケビン、水運という博打はしないで堅実に稼ぐことにしたようだ。

 まあ堅実に稼げるネタがあるからかもしれないが。


「じゃあとにかく枕木とレールと車輪の試作ですね! なにかわからないことがあったら言ってください!」


「ええ、また相談させてもらいますよユージさん。……おや?」


 ユージと話していたケビンがふと顔を上げる。

 ケビンよりも顕著だったのはコタローだ。

 ユージの足下で丸くなっていたコタローが、身体を起こしてピンと耳を立てる。

 じっと虚空を見つめるコタロー。病んでいる、のではない。


「いま聞こえましたよね?」


「ええユージさん。方角は……ホウジョウ村の西。水路のあたりでしょうか」


 コタローが見つめる先と耳の向きを見ながら答えるケビン。

 と、今度ははっきりと聞こえてくる。

 オオカミの遠吠えである。

 ホウジョウ村開拓地の周辺に出ていた、コタロー配下の15匹のオオカミたちだろう。


 耳をピクピク動かしていたコタローが、さっと切り株に飛び乗ってアオーンッ! と一つ吠える。


「どうしたコタロー? その吠え方は誰か来たのかな?」


「ユージ兄、西ってことは水路でしょ? エルフさんかなあ?」


「どうだろうねアリス。行ってみようか! あ、ケビンさん」


「大丈夫ですよユージさん、話は終わりましたから。どれ、私も同行しましょう」


 ユージ、コタローの吠え方で何が言いたいかなんとなくわかったようだ。

 なにしろコタローとは20年の付き合いなので。

 位階が上がって寿命が延びるという、この世界の恩恵を最も受けているのはコタローかもしれない。


 ともあれ。

 三人と一匹は立ち上がって、ホウジョウ村の西、遠吠えが聞こえた方角へ歩き出すのだった。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「おっと、よしよし、おまえらは賢いなー」


 ホウジョウ村の出入り口はいまだに一つしかない。

 村の南、プルミエの街に繋がる道の出入り口がそのままホウジョウ村の出入り口である。


 ユージたちが家の前の広場を出発して到着する頃には、オオカミたちは遠吠えを止めていた。

 ユージとケビン、アリス、コタローが村の柵を出て、外周の土壁との間の森に足を踏み入れると、数匹のオオカミに囲まれる。

 コタロー配下のオオカミたちが出迎えにきたらしい。

 優秀なオオカミである。あるいはボスによる恐怖政治かもしれない。


 ユージがまとわりつくオオカミたちをかまいながら歩いていく。

 まだ10才、背が低いアリスは横を歩くオオカミを撫でながら進んでいる。

 まるで隊長気取りで一行の先頭を歩くコタロー。

 子分たちの動きが誇らしいのだろう。

 ご機嫌な様子で、尻尾をブンブンと振っている。


 森を歩くことしばし。

 ユージの目に、水路が見えてきた。

 アリスとエルフの少女・リーゼ、そしてエルフたちの魔法で造られた水路。

 ホウジョウ村に水を供給するだけでなく、エルフの船が通れる水路である。


「あ、やっぱり誰か来たみたいですね。イザベルさんかな?」


「ああっ! 違うよユージ兄! やったあああ!!」


 ユージより早く、誰が来たのか見えたのだろう。

 ユージやケビンを置いて、アリスがダッと走り出す。

 わーい! と、喜びの声を上げて、飛び跳ねるような足取りで。


「ユージさん、私も見えましたよ。ほら、ハルさんが夏ぐらいに連れてくるって言ってたでしょう?」


「……そうか! それでアリスがあんなにはしゃいで!」


 ケビンの言葉を聞いて、ユージも駆け出す。

 そして。


「アリス!」


「わあい! えへへ、ひさしぶり!」


「アリス、ほーら、お祖父ちゃんもいるんじゃよー」


 ユージが水路の脇にたどり着いた時には、アリスはヒシッと少年を抱きしめていた。


「ユージさん! 約束通り、連れてきたよ!」



「ありがとうございますハルさん! シャルルくん、バスチアン様、おひさしぶりです!」


次話、明日18時投稿予定です!

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