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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十九章 ユージは気づいていないけど日本とアメリカではすでにスターらしい』

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第六話 ユージの義弟ジョージ、友人のルイスとコテハンとうろうろする


『日本はすごいところだね! 毎日毎日、朝からこんなに料理が並ぶなんて』


『だろう? 前にここに泊まってボクもハマっちゃったんだ! ケイト、これも美味しいよ。真っ黒で見た目は悪いけど!』


『え、なにコレ。ルイス、またナットーみたいなヤツじゃないだろうね!』


『あはは、コレは大丈夫だよケイト!』


 いつからか日本の宿泊施設では付き物となった朝食バイキングを前に盛り上がる二人の外国人。

 稀人のキースの子孫・ケイトと、ジョージの友人・ルイスの二人である。

 ケイトは朝食バイキングの品数に驚いていた。

 すでに何泊かしているが、これが『普通』であることにビビったようだ。

 まあ一行が泊まるホテルニューイ○ヤは、朝食バイキングをウリにしていることもあるのだが。

 ちなみにルイスがおすすめしていたのはひじきの煮物。

 ルイス、すっかり日本食を受け入れているようだ。


『ふふ、あの二人ずいぶん仲良くなったね』


『ああ、いい感じだ。これはもしかするとホントに……』


『うーん、でもアメリカに帰ったら遠距離恋愛だからなあ』


 料理を取りに行っている二人を見つめるのは、ユージの妹・サクラとその夫・ジョージ。

 ベイビーは先にミルクを済ませ、ベビーカーでウトウトしている。

 そろそろ離乳食をはじめてもいい時期だが、サクラはこの旅を終えてアメリカに帰ってから、と考えていた。


『それでサクラ、今日はケイトさんと行動するんだっけ?』


『うん。あんまり大勢で行ったら迷惑だろうしね。ジョージ、今日はルイスくんと一緒でいい?』


『もちろん! ほら、ルイスがこっちに家を借りようとしてただろ? 見に行くようだから、ボクもついていこうと思ってね!』


『あれ、本気だったんだ……あ、じゃあ郡司さんも一緒かな?』


『そう言ってたよ! あと何人かついてきてくれるって!』


『クールなニートさんが私たちと一緒だから……誰だろ? でも二人だけじゃないなら安心だね』


 ジョージとルイスが二人きりで行動するわけではないと知って安心するサクラ。過保護か。

 まあ二人にとってここは外国で、勉強しているとはいえ日本語は片言なのだ。

 ガイドがいると知って安心するのは当然だろう。


『サクラとベイビーこそ気をつけて! 何かあったらすぐ連絡するんだよ!』


『ふふ、大丈夫よジョージ。でもありがと』


 ニッコリと笑うサクラ、ちょっと見とれるジョージ。

 子供が生まれてもあいかわらずな夫婦である。


 ともあれ。

 アメリカから日本にやってきた5人は、今日も別行動になるようだ。

 お隣の藤原さんの家を訪ねた日とは違う組み合わせで。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「午前中は郡司先生が別件なんで、俺たちが案内します!」


「いやミート、伝わってないから。エルフスキー先生、よろしくお願いします」


「うむ。一宿一飯の借りは返そう」


「え、なにこのノリうざい。おまえ何泊もしてるよね? バイト代ももらってるって聞いたぞ?」


 ホテルニュー○タヤのロビーでサクラとケイトと別れたジョージとルイスは、徒歩で集合場所に向かっていた。

 宇都宮の大通りを西へ。

 さすがにそれぐらいはわかるよ、とサクラの案内を断ったようだ。

 のんびり10分ほど歩くと、街中にいきなり鳥居が出現する。

 そのまわりには謎の開けた空間。

 二荒山神社である。

 集合場所には、すでに4人のコテハンが集まっていた。

 名無しのミート、洋服組B、エルフスキー、インフラ屋である。


「こんにちは! ひさしぶり! 日本語勉強しました!」


「よかったー、じゃあ安心だな。朝メシ食った? 神社はもう見たんだっけ?」


「簡単な日本語だけ」


 噛み合っているようで噛み合っていない。

 何はともあれ、無事に合流できたようだ。

 弁護士の郡司が別件を終わらせて一行に合流するまで、6人はふらふらと宇都宮観光に繰り出すのだった。

 地元民のインフラ屋、通訳のエルフスキーをメインに。

 他の二人が同行しているのに意味はない。

 なんとなくおもしろそうだったから、である。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「すげえ緊張した……なんだよあの店」


「ほ、ほら、ルイスさんもジョージさんも喜んでたから問題ないでしょ!」


「すまん、ウチの嫁さんに教えてもらったんだ……俺も落ち着かなかったわ」


 インフラ屋が運転するワンボックスカーの車内で、疲れた様子の日本組が会話している。

 二人の外国人を連れて行ったのは県庁の裏手、住宅街の一角。

 古民家を改築したカフェである。

 一行は知らなかったが、かつてサクラと郡司がお茶した場所だ。

 マダムが集うオシャレな空間に、慣れないコテハンたちは疲労を感じたらしい。

 一方で。


『さっきのカフェはすごく良かったよ! もう見た目からして日本っていう感じで! ジョージ、ボクは決めたよ!』


『落ち着けルイス、早口になってるぞ。ほら、みんな聞き取れなくて困ってるじゃないか』


『しょうがないでしょジョージ! ああ、はやく着かないかなあ、楽しみだ!』


『ルイス、郡司さんになんて言ったんだ? ずいぶん驚いていたみたいだけど』


『え? うん、三軒見せてもらう予定だったんだけど、先に今から行くほうにしてくれってね! こっちが本命じゃなかったから驚いてたみたい!』


 ジョージとルイスのテンションは上がっていた。

 古くからの趣を残した古民家カフェの外観。

 土壁、古材、障子。改装しているが和と歴史を感じさせる内装。

 すっかりご機嫌であった。


「なあインフラ屋、どんどん街中から離れてくんだけど……これ、どこに向かってんの?」


「ああ、郡司先生がもう一人連れてきたろ? あの人、不動産屋でな。ルイスさんに物件を紹介するんだって」


「そりゃ聞いてたけど……こんなところに物件?」


 洋服組Bがキョロキョロと周囲の景色に目を向ける。

 窓の外には住宅街が広がっていた。

 見える限り、マンションもアパートもない。

 不審に思うのも当然である。


「俺に聞かれてもな。不動産屋と郡司先生の車を追いかけてるだけだし。あ、止まった。……え?」


「は? ここ?」


『……ルイス?』


『ここか! ふふ、いい感じじゃないか!』


 先導していた車が止まる。

 車から下りた不動産屋が門を開け、再度車を発進させて敷(・)地(・)の(・)中(・)に(・)車を突っ込んで。


『ル、ルイス?』


 同行者たちの動揺は止まらない。

 平然とした顔をしているのは、不動産屋と郡司、ルイス本人だけである。


『うん、やっぱりいいね! さっきのカフェほどじゃないけど……まあそれは改(・)装(・)すればいいんだし!』


『ルイス、正気かい?』


「マジかよ……」


 呆然とした表情で車から下りる男たち。

 上機嫌なルイスが見つめる先にあるのは、一(・)軒(・)家(・)だった。




『うーん、中はちょっと手を入れたいね! どうだいジョージ?』


『いや、どうだって……ルイス、部屋を探してたんじゃないのかい?』


『ほら、打ち合わせが必要な時期を終えたらこっちに移ろうと思っててね! だったら……いいかなあって』


「おいどうすんだよこれ」


「ルイスさん、マジか。俺が古民家カフェなんて見せたから……」


『ええっと、宇都宮の市街地まで車で20分。自転車で30分ぐらいだそうです。近隣にはスーパーもあって住みやすいはずだと。ただルイスさんは外国人なので、いくつか書類と手続きが必要になるのと、こっちの銀行でローンは組めないんじゃないかって』


『ルイス、どうするつもりなんだ?』


『ふふ、ジョージ、お金なら余ってるからね! 買(・)っ(・)ち(・)ゃ(・)う(・)よ(・)!』


 日本では、外国人が不動産を購入することもできる。

 手続きこそ面倒だが、不可能なことではないのだ。

 ルイスは弁護士の郡司とも知己であり、その郡司はユージの話のやり取りの関係で英語に強い弁護士と組むことが多い。

 そして、ルイスはハリウッドの第一線で活躍するCGクリエイターである。独身の。


『そ、そんなにすぐ決めていいのかい? それにいくら日本の家が狭いからって、一人で一軒家に住むのも……』


『ジョージ、だってほら、仕事部屋も必要でしょ? 仕事部屋、趣味の部屋、ベッドルーム、もちろんリビングも欲しいし……それにゲストルームもね!』


『本気なのかルイス……』


『打ち合わせとか最初のイメージのすり合わせが終われば、あとはネットが通じてれば問題ないし! まあ必要ならアメリカに行けばいいしね! それにジョージ、ここにいれば……』


『ああ、なんとなくはわかってるよ』


『ユージさんの元の家まで、自転車で15分! 毎日でも行けるじゃないか!』


 市街地まで自転車で30分。

 この場所からユージ家跡地まで自転車で15分。

 ルイスが言うように毎日でも通える距離である。


『えっと、ルイスさん。諸経費はまた別に計算するとして、土地と建物で1280万円だそうです。いまのレートは……』


『問題ないよ! あ、でも送金はどうすればいいかな?』


『も、問題ないって……マジかよ……その、方法は聞いてみます……』


 掘り出し物、ではない。

 築年数や駅からの距離、利便性にこだわらなければ宇都宮市内でもこの程度の値段は存在する。

 というか1000万円を切る中古物件も普通にある。

 なにしろ中古住宅は上物の価格など微々たるもので、ほとんどが土地の値段なので。

 本契約の時はプロを呼ぶ、今日は下見だけだから、と事前に言われて今日の通訳を請け負ったエルフスキーはビビりまくりである。


『ルイス。本当にいいのかい?』


『大丈夫だよジョージ! それぐらい余裕であるし、飽きたら売っちゃえばいいんだしね!』


 心配するジョージ、問題ないと答えるルイス。

 家族持ちと独身の違いである。

 まあ波はあるものの、そもそもルイスの年収は軽く1000万円を超えている。

 ルイス、送金方法を気にする程度で、額面は問題ないらしい。


『さあ、話はまとまったし、いつものビルに行こうか!』


 まとまっていない。

 不動産の契約にはこまごまとした説明と各種の書類が必須なのだ。

 賃貸ですらそうで、購入はさらにややこしい。

 ルイス、手続きは任せる気満々である。暢気か。


「これがブルジョワか……ルイスさんすげえ」


「宇都宮でもウチは新築だから! ローン組んで当然だから!」


「意地張るなよインフラ屋。ほら、酒でも飲んで忘れよう」


 遊び半分で同行していた洋服組B、インフラ屋、名無しのミートはショックを受けていた。

 仲良くなったと、仲間だと思っていたルイスのあまりのブルジョワっぷりに。

 まあそれを言ったらユージも金持ちなのだが。

 あとインフラ屋は運転手である。酒は飲めない。


 ルイスのGOを受けて、不動産屋はホクホク顏であった。

 便利な立地でもないかぎり、中古の一軒家などそうそう売れるものでもないので。

 宇都宮に限っては今後変わっていくのだが、今のところは。



 ともあれ。

 それぞれ悲喜こもごもを抱えつつ、不動産屋と別れて一行は宇都宮の市街地に戻るのだった。

 目的地は、宇都宮の例のビルである。

 なにしろユージの物語が話題になって人が増えたことをきっかけに、メイドカフェが復活したらしいので。


 アメリカでは検証番組がはじまり、映画化が進行している。

 日本でも有料の動画配信サービスで番組は見られるため、徐々に話題になってきている。

 宇都宮の街は目に見えて外国人が増え、冷やかしの日本人も増えていた。

 関係者、そして耳ざとい者たちは、すでに動き始めているようだ。

 やがて来る『祭り(ブーム)』に向けて。



明日は同日のサクラ&ケイトサイドのお話。

次で今章最終話になる予定です。……たぶん。

次話は明日18時投稿予定!

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