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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十九章 ユージは気づいていないけど日本とアメリカではすでにスターらしい』

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第四話 ユージの妹サクラ、宇都宮で関係者たちと話をする


「遅くなってごめんなさい。事務所の場所が変わってたのを忘れてて」


「そうか、こっちに来るのは初めてでしたね」


 JR宇都宮駅から続く大通り。

 東武宇都宮駅近くのビルのワンフロアに、ユージの権利関係を管理する会社とニートを支援するNPOがあった。

 かつては県庁近く、郡司の法律事務所と同じビルだったが、業務の拡大に伴い移転したようだ。


「なんかこう、オフィスって感じです!」


「はは、会社のほうはサクラさんが社長なんですよ? それにウチは服装が自由で、みんな私服です。あまりオフィスっぽくないと思いますが」


「ああそっか、日本だとスーツですもんね! ほら、アメリカじゃみんな私服だったので」


 打ち合わせスペースで話をするユージの妹・サクラとクールなニート。

 今日、サクラと一緒に行動するのはジョージとベイビーだけのようだ。

 友人のルイスとキースの子孫・ケイトは、宇都宮観光に出ていた。通訳のエルフスキーに連れられて。三角関係である。いや、ほかにも同行しているコテハンがいる。グループ交際である。

 ちなみにソファに座るサクラの後ろには、今日も警備会社から派遣された男女二人組が立っている。

 サクラが解放されるのは、ホテルの部屋に入った時だけであった。


「サクラさん。おそらく、業種のせいではないでしょうか。アメリカでも全員スーツの会社もありますよ」


「……ですよね!」


 アメリカの会社がすべて私服勤務なわけがない。

 単に、サクラが私服のオフィスで働いた経験しかないだけだ。デザイン事務所に勤務していたので。

 ユージ同様、サクラもちょっとズレている。さすが兄妹。


「サクラさん、昨日はゆっくりできましたか?」


「はい! 空港まで迎えに来てもらったのに、二日もオフにしてもらってごめんなさい。おかげで友達と会えました!」


「ひさしぶりの日本ですからしょうがありませんよ。それに、そちらを片付けてからのほうが落ち着いて話ができますから」


「たしかに。アメリカにいた時からすごかったもんなあ……いつ子供を見せてくれるの、っていうかお兄ちゃんどうなってるの、って」


「はは、でしょうねえ」


 成田空港から迎えの車に乗って宇都宮市内へ。

 その日はみんなで食事に行っただけで解散。

 翌日、サクラはジョージとベイビーを連れて、女友達に会いに行っていた。

 昼は大学時代の、夜は高校時代の友人との食事会をはしごである。

 夫であるジョージは紹介しているが、ベイビーの顔を見せるのは初めて。

 女子会は華やかに、騒がしく終わったようだ。

 同行したジョージはほとんど話をしないまま。ジョージ、賢明な判断である。


「もう大変でした。ベイビーは顔を見て抱っこするだけで済むんですけど、お兄ちゃんのほうが……みんな知ってるんだなあって不思議な感じでしたよ」


「日本で騒ぎ出しているのはまだ一部ですが……そうですね、知り合いの兄となれば、それは大騒ぎするでしょう」


「みんな興味津々で。『それでどうなの、アレはヤラセなの?』『アメリカの番組……ねえ、いくらぐらいもらえるの?』って」


「ずいぶん現実的な方々ですね」


「そう言えばそうかもしれません。異世界に行く方法とかは聞かれなかったなあ」


 サクラの友達は、夫のジョージやその友達のルイス、コテハンたちとずいぶん違うようだ。

 番組用のヤラセや仕込み、ギャラは気になるものの、異世界のことはあまり気にならないらしい。スイーツである。


「みなさん、遅れて申し訳ない」


「郡司先生。サクラさん、ジョージさん、でははじめましょうか」


「あ、はい」


 クールなニートとサクラ、ジョージ、三人で話をしていた打ち合わせスペース。

 そこに、郡司が入ってくる。

 今日も今日とてスーツである。

 というかスーツにリュック、足下はトレッキングシューズである。

 この弁護士、あいかわらずいつ異世界に行ってもいいように準備しているようだ。正気か。


 それにしても、登場と同時にいきなり雑談を切り上げるあたりどうなのか。

 まあ雑談できる、というだけでこの会社とNPOの中では優秀なのだが。


「では、ざっとお伝えしていますが……ユージとサクラさんの家の跡地を私営のキャンプ場にする、という事業計画をお話しします」


「あ、はい、お願いします」


 いまは何もないユージ家跡地。

 プロデューサーの助言もあって、農業を止めた北条家が近隣の農家に貸していた土地は貸出を止め、周辺の土地も可能な限り押さえた。

 郡司が宇都宮で弁護士として築いてきたコネと公的な手続きの知識、そして金に物を言わせて。

 クールなニートがサクラにプレゼンするのは、その土地を利用した事業計画である。



「……計画は以上です。正直、大きな利益は期待できません。来場者の数もユージの検証番組および映画の広まり如何(いかん)にかかっています」


「あ、そこはあんまり重視してないです。その、まわりに迷惑をかけずに家があった場所を維持すること、あとはキャンプオフとかでみなさんを支援できれば……」


「それは問題ないでしょう。現状より悪くなることはありません」


「……やっぱり、ヒドいんですか?」


「私有地への侵入、路上駐車。手が空いた時は見まわりに行ってますし、警備員を常駐させていますが……現状は良くありません」


「郡司先生が注意して、通報や警察への対応をしてくれていますが……民事訴訟してもイタチごっこです」


「そんなに。はあ、お隣の藤原さんに謝りに行かなきゃ……」


「そうですね、お願いします。俺と郡司先生も同行しますから」


 空き地と周辺の土地を利用して、私営のキャンプ場とする。

 と言っても、第一段階は整地して、上下水道、電気、トイレ、駐車場等の整備をするだけで上物(うわもの)はなし。

 入場と駐車場の利用、宿泊にはお金を取る。

 ただそれだけの計画である。

 それでも近隣にかける迷惑は減るうえに、異世界に行くことを希望した物好きや研究者、メディアからお金を取れるのだ。

 第一段階としては充分だろう。


「ここまでであればいまある資金で可能です。運転資金も含め、かなり余裕を見ています。将来的にはいくつかコテージを建てたいと考えていますが、現状では融資が必要になるので考えていません。プロデューサーからは、研究棟も欲しいと言われていますが、こちらも現状はなしです」


「は、はあ……」


「いずれにせよユージの話がどこまで広がるか、一過性なのか継続するのか次第です。ただ……」


「ただ?」


「跡地をキャンプ場にすれば、ユージの資産と今後の契約料等で、キャンプオフは数十年は継続できるでしょう。場所代はいらなくなりますし、場所についての許可も必要ありませんから」


「じゃあこれで行きましょう!」


「サクラさん? 即答していいんですか?」


「来る前にも確認しましたけど……お兄ちゃんが重視してるのは、みんなへの支援のためのキャンプオフです。最初に言ったように、まわりに迷惑をかけなくなって、家があった場所がそのままなら……問題ありません」


「……わかりました。郡司先生」


「では私も動きましょう。各所に手続きが必要ですから」


「あ、待ってください二人とも。プロデューサーさんから、伝言を預かってきてるんです」


 スマホに目を落として、メモ帳を開くサクラ。

 どうやら忘れないように書き込んでいたようだ。


「えっと、資金が足りなければ出資するそうなので、銀行やほかの会社、団体からの資金援助は避けるように、とのことです。クールなニートさんの提案は会社とNPOのお金でまわってましたから、問題なしですね」


「……考えることは同じ、か」


「あと、とにかく法的な手続きはきっちりとミスなく、考え得るすべての事態に対応できるように、だそうです」


「もちろんです。私のほか、専門の人物も手配しています」


「サクラさん、理由は言われましたか?」


「はい。『いかなる組織にも、付け入るスキを与えるな』だそうです。ちょっと心配しすぎじゃないかと思うんですけど」


「サクラさん、そんなことはない。俺が自己資金だけで事業計画を考えたのも、それが理由です。今後、どんなことになってもおかしくない」


「えっと……?」


「そうですね、自己資金だけではない場合……例えば融資して、どこかのタイミングで貸し付けを止める。あるいは株式を公開させ、資金力で押さえる」


「……はい?」


「そうすれば、ユージが異世界に行ったまさにその場所が自分の物になる。サクラさん、ありえない話じゃないんです」


「そこまで……。あ、そういえば『お金でもなんでも、困ったことがあればとにかく相談してほしい』とも言われてました。『使うかどうかは別問題だが、いろいろなコネはある』とも」


「日米で考えることはリンクしてましたか。ええ、こちらで対処できないことが起きたら、頼ることにしますよ。ただ……」


「え、まだ何かあるんですか?」


「プロデューサーはいろいろ考えてくれる方のようですし、研究結果はすべて公開されるというアナウンスも聞いています。それでも、助力を願ったらなんらかの見返りは必要でしょう」


 クールなニートの言葉に固まるサクラ。

 ユージの検証番組は日本でもアメリカでも話題になっている。

 それでもここまで警戒が必要だとは思っていなかったらしい。


 だがそもそも。

 研究の結果次第では『別の世界と行き来できるかもしれない』のだ。

 例えば地球にはない資源、例えば魔法の存在、例えばまったく異なる人種、例えば生物。

 これは、現代に存在した『新天地』の話なのである。


 個人、団体、企業、宗教、国家。

 真偽が疑われている今はまだいい。

 だがもし研究が進み、少なくとも『実在する』と証明されたら。

 全世界から注目されることだろう。

 どれだけ防衛線を張っていても足りない。


「今は考えてもしょうがありません。法に則り、粛々と進めましょう」


「はい、郡司先生」


「えっと、わかりました。……とりあえず私は藤原さんのところに行ってきますね!」


「私たちも行っていますが、サクラさんが顔を見せるのは大事です。よろしくお願いします」


「もちろんです郡司さん、なにしろお隣さんですからね! ええっと、ジョージとベイビーと……」


「サクラさん、俺と郡司先生も同行しますよ。車二台になりますから、あと一人、運転手も」


「了解! あ、じゃあ一度ホテルに戻って手土産を取ってこなきゃ」


「ニューイタ○ですよね? 送りましょう」


「ありがとうございます! 『ジョージ、行こう!』」


『話は終わったのかい? それにしても……ボクたちのベイビーは賢いね! むずがらないで大人しくしてたよ! まるで話を聞いてたみたいだ!』


『もう、ジョージったら親バカなんだから。日本語もわからないし、たまたまよ。大人たちが話してるのがわかって泣かなかったのかもね! 私たちのベイビーは天才だから!』


 打ち合わせスペースのソファの端、ジョージの隣に置いていたベビーカーを覗き込むサクラ。

 座っていたベイビーがふにゃっと笑う。


『はあ、かわいい』


『天使だね! くっ、天使から名前をいただけばよかった!』


『ふふ、もうジョージったら』


 親バカである。

 まあこれぐらいはどこの親でも思うことだろう。かわいいものである。天使であることを他人にアピールしない限り。


 ともあれ、話を終えた4人は荷物をまとめ、それぞれ行動に移るのだった。

 郡司はサクラとジョージ、ベイビーをホテルニュー○タヤに送って、そのまま北条家があった場所の隣、藤原さんの家に向かうために。

 クールなニートも車を出して、藤原さんの家で合流するために。


 サクラ、日本に来た目的である仕事の時間は、まだ続くようだ。



次話、明日18時投稿予定です!

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