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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
閑話集 14

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閑話17-21 アリス、収穫祭で10才の誕生日を迎える

副題の「17-21」は、この閑話が第十七章 二十一話終了ごろという意味です。

ご注意ください。

 ホウジョウ村開拓地、収穫祭。

 広場の中央には開拓団長で村長のユージと、視察に来ていた領主、その前に4組8人の新婚夫婦が並んでいた。

 合同結婚式である。

 幸せそうな8人を見つめる独身の男たち、着飾った花嫁たちをうっとりと見つめる女性陣。

 本来仕切るはずだったユージを押しのけ、領主の進行で結婚式が進む。

 慣れた様子なのは貴族ゆえか、それとも騎士団で行事を仕切ることがあるためか。

 ユージはただ領主の横に立ち、突っ立っているだけであった。

 適材適所である。


「すごいねえ、お嫁さんはキレイだねえ!」


「ふふ、アリスちゃんも負けていませんよ」


「あらケビン? 浮気かしら?」


 そんなユージと領主、新婚夫婦を見つめる開拓民たちの輪の中で、アリスも興奮しているようだ。

 どこの世界でも、女の子は花嫁に憧れるものなのかもしれない。


「ジゼル、そんなわけありません。私が愛しているのはジゼルだけですから」


「もう、ケビンったら!」


「娘の幸せが俺の幸せ。これでいい、これでいいんだ」


「ゲガスおじちゃん、どうしたの?」


 村の結婚式に参加しなかった新婚夫婦、ケビンとジゼル。

 イチャつく二人を見ながらブツブツと自分に言い聞かせるジゼルの父・ゲガス。

 スムーズに進行される結婚式と違って、外野は混沌としていた。


「うむ、よき誓いであった。領主ファビアン・パストゥールの名において、4組の結婚をここに認める!」


 それぞれの夫婦との問答を終えて、領主が声高らかに宣言する。

 ホウジョウ村開拓地、収穫祭で行われた結婚式。

 新婚夫婦の披露と誓いの儀式は無事に終わったようだ。

 鳴り響く拍手をBGMにして。



「ありがとうございました領主様!」


「うむ、領民の結婚式であるからな。レイモン、街に戻ったら手続きを頼む」


「……了解しました」


 アリスたちの近くに戻り、肩の荷を下ろしてほっとひと息つくユージ。

 まあ飛び入りの領主に任せて本人はほとんど何もしていなかったのだが。

 領主は上機嫌で代官に事務手続きを押し付ける。

 どうやら代官は苦労人であるらしい。

 だが仕方あるまい。

 領主が不在の時、代官は領主夫人と仕事をしているのだ。これぐらいの苦労は抱えてもらわなければ釣り合わない。むしろこの程度の仕事で巨乳で美人な領主夫人のそばにいられるなら、立候補する男は腐るほどいそうなものだ。



「アリス、みんなのところに行こうか」


「えー? どうしたのユージ兄?」


「領主様、ちょっと失礼します」


「うむ、気にせず自由にするがよい」


 一言領主に断ってから、アリスの手を引いて席を立つユージ。

 進歩である。

 まあこの世界の貴族を相手にした平民と考えると軽すぎるのだが。


「ユージ兄?」


「ほらアリス、今日は収穫祭。だから……アリスの10才の誕生日だ!」


「ああっ!」


「あら、アリスちゃん忘れてたの? これ、私と針子のみんなからね!」


「ジゼルおねーちゃん! うわあ、()()()だ!」


 領主と代官の近くの席を立ち、ユージとアリスが向かったのは開拓民たちが集まって飲んでいる場所だった。

 二人の後を追ってきたジゼルから、アリスにプレゼントが手渡される。

 そう。

 収穫祭は、アリスの誕生日でもあるのだ。

 というか領主や代官、ケビンやジゼルなど裕福な出の人間とユージを除いて、開拓民のほとんどが誕生日なのだが。

 唯一の幼女だったアリスを祝う習慣は、いまも開拓地に根付いているようだ。

 アリス10才、開拓地のアイドルであった。


「アリス、それはワンピースっていう()()だよ」


「わんぴいす! ジゼルおねーちゃん、針子のおねーちゃんたち、このお洋服かわいいね!」


 洋もなにも和服がない。

 ユージが洋服と言い続けるうちに、アリスも『洋服』と言うようになっていた。

 ユージとケビン、ゲガスが知る限り、この世界に和服は存在しない。


「ほれ、アリスちゃん。みんなからのプレゼントはまだあるぞ。これは男連中からだな」


「うわあ、きれいな髪飾り! キラキラしてる!」


 開拓民の男たちが用意したのは、小さな宝石付きの髪飾りであった。

 プルミエの街でジゼルがまとめて仕入れてきた装飾品である。

 ちなみに何人かの独身男たちは、アリスへのプレゼント以外の髪飾りも購入していた。あとエンゾ。独身男は今日、あるいは近々勝負をかけるつもりのようだ。

 もちろんユージは購入していない。


「アリス、俺からのプレゼントは明日の朝ね。もうちょっと待っててもらえるかな?」


「はーい! ユージ兄からの贈り物かあ、アリス楽しみ!」


 ユージとアリスの会話をちょっと呆れた顔で眺めるコタロー。

 コタローはユージが何をプレゼントするつもりなのか知っている。ユージが部屋で慣れない裁縫に取りかかるところをコタローは見ているのだ。

 ユージがプレゼントしようとしているのは手作りのぬいぐるみ。犬、というかコタローがモデルであるらしい。おそらく。


「その、アリスちゃん……」


「あ、マルクくんだ! なあに?」


「これ、ボクからの贈り物で、ボクはこの前、冒険者ギルドに登録して、初めての依頼の報酬で買ってきて」


「うわあ、ありがとう! えへへ、なんだろー」


「その、珍しいらしくて、口に合うかわからないんだけど……」


 モゴモゴと言い募るのは、犬人族の少年・マルク。

 今日の収穫祭で14才になる少年である。

 マルクの背後にいる両親、ユージの奴隷で犬人族のマルセルと猫人族のニナは、口をつぐんでぐっと拳を握っていた。がんばれ息子、と言うかのように。

 ちなみに口元はニヤけていた。

 息子の初恋をおもしろがっているわけではない。応援しているだけだ。きっと。


「えっと、干し肉、かなあ?」


「うん。このあたりじゃ珍しいらしくて、たまたま手に入ったんだ。火熊の干し肉なんだって」


「アリス食べたことない! やったあ! ありがとうマルクくん!」


 さすが肉食系の少女、洋服やアクセサリーに負けない喜びであった。

 マルクの言葉が聞こえたのか、足下にいたコタローの耳がピクピク動いている。はしたない女である。雌犬なので。


「ヒグマ? え、羆かな? こっちにもいるの?」


「ユージさん、この辺にはいないわよ。火熊は辺境から峠を越えた先、王都より西の森を住処にしているわ。保存食でもプルミエの街で手に入るのは珍しいわね」


「あ、火熊。羆とは別もの、かな? どっちが強いんだろ」


 ジゼルの解説に首を傾げるユージ。

 その答えは誰も知らない。

 羆が300kg前後のでかさで足も速くて木も登れて泳げる元の世界で最強クラスの陸上生物だとしても、この世界の火熊はモンスターなのだ。

 とりあえず、ある日森の中で出会わないことを祈るばかりである。

 まあいまのユージであれば勝てるかもしれないが。


「ねえねえマルクくん、ユージ兄、アリスちょっと食べてみていいかなあ?」


 アリス、ヨダレを垂らさんばかりである。

 というか質問しながらすでに包みを開けていた。


「うん、食べてほしいんだ! 口に合わなかったら大変だから……」


「やったあ!」


 マルクの了解を得て、さっそく珍しいという火熊の干し肉をひとかけら口に入れるアリス。

 もっちゃもっちゃと口を動かしている。

 足下ではコタローがヨダレを垂らしてウロウロしていた。だめよ、たべてみたいけどあれはありすがもらったものなの、でも、ああ、と葛藤している様子で。


「んんっと、噛めば噛むほど味が出てくる! おいしーよマルクくん!」


「そう、よかった!」


 ニッコリと笑うアリスに、マルクはほっと胸を撫で下ろしていた。

 それにしてもアリス、食レポは無理そうだ。


「わわっ!」


 緊張がとけて周囲に目がいったのだろう。

 マルクは驚き、尻尾を股の間に挟む。

 いつのまにか囲まれていたのだ。

 ヨダレを垂らしたオオカミたちと、コタローに。


「コタロー? オオカミさんたち? 食べたいのかな?」


「あ、アリスちゃん。ボクの分もちょっとだけ買ってるから、みんなにはボクからあげるよ。だから、アリスちゃんへの贈り物はアリスちゃんが……」


 冒険者として登録したばかりのマルクはまだまだ駆け出し。

 ケビン商会の専属護衛の手伝いでもらった賃金と合わせてもたいした報酬ではない。

 なけなしのお金で買った自分用の火熊の干し肉を、オオカミたちに分け与えることにしたようだ。あとコタロー。

 優しい少年である。まあせっかくのプレゼントなので、アリスに喜んでほしいという下心だったが。


「ありがとー! じゃあアリス行くね!」


「あ、アリスちゃん、あの、わ、ちょっと待って、いま出すから、わっぷ」


 立ち去るアリスに向けてマルクが伸ばした手は、土狼に袖を引っ張られて無理やり下ろされていた。

 いいからはやくにくをくれ、とばかりに。

 そのままマルクは15匹のオオカミとコタローに揉みくちゃにされるのだった。天国である。一部の人にとっては。



「そうか、今日は収穫祭。アリス殿は誕生日であったか。では儂も……」


「ファビアン様? 何をあげるおつもりで?」


「うむ? 用意してこなかったゆえな、手持ちで良さそうな物を……おお、この短剣はどうだ? 銘はないが、なかなかの業物だぞ」


「お止めください。ファビアン様、その短剣は家紋入りです」


「む、そうであったか。ふむ」


「あの、領主様、そんな特に何もいただかなくても……」


「なに、儂からも何か贈りたいだけよ。良さそうな物は……アリス殿、何か欲しい物はないかの?」


「うーん……あ! 領主様は騎士様でしょ? アリス、たくさん位階を上げたいの!」


「む? そんなことでよいのか?」


「はい! アリス、位階を上げて長生きして、リーゼちゃんといっぱい遊ぶんです!」


「あのエルフの少女か、なるほど」


「アリスちゃんには俺が剣を教えてるが……それより、魔法はすげえぞ? 理由は知ってるだろ?」


「そうか、アリス殿はバスチアン様の。ではアリス殿、領内で我が兵がモンスター討伐をすることになった際、アリス殿に声をかけよう」


「え? その、いいんですか?」


「うむ! 騎士団と違って、領地の兵は魔法を使える者が少ないゆえな。威力は問題ないのであろう?」


 『拳を交わす仲』であるゲガスの保証があり、領主はアリスが『赤熱卿』バスチアンの孫であることも知っている。

 とはいえ、いちおうアリスの魔法の威力について聞いてみる領主。

 返ってきたのは、沈黙だった。


「む? それほど威力はないのか?」


「い、いえ……」


「領主様、おそらく領主様が考えている以上に威力があるかと。その、ちょっとアリスちゃんに時間をあげれば、この広場は炎に包まれます」


「……ケビン殿、正気か? アリス殿はまだ10才であろう? ゲガス?」


「ああ、間違いじゃねえよ。最近はエルフにも教わってるみてえだからなあ」


 ケビンとゲガス、領主の反応にえへへーっと照れた様子を見せるアリス。

 アリスは開拓地のアイドルかつ人間重機で、魔法少女で人間兵器でもあるのだ。


「充分だ、アリス殿。むしろモンスターの討伐があればぜひ声をかけさせていただきたい。シャルル殿もだが、末恐ろしいものよ……」


「領主様! シャルル兄のこと知ってるの? あっ! シャルル兄じゃなくて、うーんと、うーんと」


「はは、アリス殿、儂とレイモンは事情を知っておるから問題ないわ。うむ、ではその話をひとまずの贈り物としようかの」


「やったあ! ありがとうございます領主様!」


「おお、俺も聞きたいです!」


 アリスの祖父・バスチアン侯爵に呼び出された領主は、王都でシャルルにも面会している。

 その際にバスチアンから、シャルルに剣を教える家庭教師役をお願いされていたのだ。

 それを受けて、領主は王都にいる間、騎士の仕事の合間をぬってバスチアンの館に通っている。

 アリス、どうやら一番嬉しい誕生日プレゼントは領主からの話になりそうだ。

 マルクは撃沈である。



 ユージが6才になったばかりのアリスを保護してから4年。

 収穫祭を迎えてアリスは10才となった。

 いまだ幼さは残るものの、魔法を駆使して活躍する開拓地での働きっぷりは立派なもの。

 位階を上げて、長生きして親友のエルフの少女・リーゼと遊ぶ。

 その目標に向けて、来年はまた違う成長を見せることだろう。

 少なくとも、領主からのモンスター討伐の声かけと、エルフのハルによるテッサ仕込みのパワーレベリングを約束されているので。

 とりあえず、火加減は間違えないでほしいものである。



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