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最終話~武装サンタと聖誕祭~

-最終話-


   聖誕祭の日を迎えて数分。深夜のムスタ・プキン村の通りには人が多く集まっていたものの、皆恐れと不安でざわめいていた。例年通りなら中央通りが人で溢れお祭り騒ぎになっているところだが、多くは村の東で起こっている戦闘の行く末を見守っていた。村中の華やかなイルミネーションが、地響きで小さく煌いていた。


-最終話~武装サンタと聖誕祭~


   本性を現したクマ型ゲカアウタレスは強靭な肉体で駆け回って討伐隊を翻弄し、巨大な爪で軍用車両をぶっ飛ばし、口から放たれるゲカの波は榴弾並みの破壊力を持っていた。


討伐隊と軍は同士討ちに気を使いながら高い火力と機動力を併せ持つクマ型と戦闘を強いられた為、思うように戦えなかった。タズは前線でアックスバズーカの打撃と砲撃を駆使し、クマ型と戦闘を繰り広げる。ゲカの波を真っ先に危険視したヴィハ少尉は周囲に指示を送る。


「軽火器を持つ者は奴の口を狙え!あの黒い光線を封じろ!重火器は足を狙え!」


皆ヴィハ少尉の指示に従い、軽火器持ちはクマ型の顔を撃ち、重火器持ちは足腰を撃った。少尉の思惑通り顔面を狙われたクマ型はゲカの波をうまく放つ事ができず、又足腰も狙われ機動力も押さえ込まれた。自分の思うように戦えないクマ型は苛立ちを覚える。


「危機的状況でしか団結せず…共通の敵を作らなければ友好を築けない醜く弱い人類よ…この程度でゲカを倒せると思うなよ…」


クマ型は全身に黒いオーラを纏い、自身の肉体を強化し暴れまわった。それでも討伐隊と軍はなんとか攻撃を続けた。犠牲が増える前に決着をつけたいタズはタナに話し掛ける。


「ゲカを使う。少し時間を稼いでくれないか?」


タナは心配そうに彼を見つめた。


「力に呑まれないように気をつけて。」


「ああ。分かっている。」


タナはサイスショットを展開させ、力を込めると身に白いオーラが纏った。彼女はクマ型へ向かっていき、ショットサイスを巧みに操りながらクマ型に波状攻撃を仕掛けた。クマ型はタナの攻撃に耐えながらも、身動き一つ取れなかった。彼は何かに反応し、自身の腕と腕の隙間を覗くと、遠くでタズが黒いオーラに包まれているのが見えた。タズは体中のゲカを制御する事に集中し、彼を纏う黒いオーラが左腕に集まる。重い攻撃を続けるタナを無理やり押し退け、クマ型はタズに狙いを絞った。


「しまった!」


タナは体を反転させ、クマ型を追う。迫るクマ型を見据え、タズはショットリボルバーを構え、それを見たタナは足を止めた。


「ゲカで私に挑もうというのか。ゲカであるこの私に!」


クマ型はタズとの距離を縮め、タズは銃の撃鉄を起こす。


「ゲカもヒカも唯の力だ。使用するものの可能性によって成果が決まる。恐慌しか生まないお前は所詮その程度だ。」


「ゲカを愚弄した罪、ここで裁いてやる!」


クマ型は右の腕を振り下ろし、タズはショットリボルバーで地面を撃ち、雪煙を作る。タズの姿は消え、クマ型の振り下ろした腕に手応えはなかった。タズは宙にいたが煙で見えない。しかしクマ型は気配でタズの位置を掴み、左の爪で彼を突く。空中でタズは右腕のクローでクマ型の爪を受け流し、そのままクマ型の顔面に突っ込む。タズは左腕のクローに溜め込んでいたゲカを一気に解放し、上から振り下ろした。


「う゛おぉおおおおおーーー!!」


衝撃と共に黒い閃光が走り、タズは空中で回転し、クマ型の額からゲカが吹き出た。


「う゛う゛う゛・・・」


損傷に耐えるクマ型の目の前に、空中でショットリボルバーを構えたタズがいた。


「そんなに力が恋しいならくれてやる。」


クマ型の額の傷口を狙った二つの銃口から白い閃光が放たれた。2発のヒカ特殊弾だった。


「ぐぅお゛お゛お゛お゛お゛…」


勝負がついた。乱れる黒いオーラを放ち、クマ型はもがきながら小さく人の姿に戻っていく。タズの黒いオーラは消え、彼は一息ついた。


「終わったの?」


オオカミ型の応急処置を終えたティアナがタナのところに戻ってきた。随分な量のヒカを消費したにも拘わらず、ティアナは元気そうだ。


「うん。お疲れ様。ティアナの暴れる機会なかったわね。オオカミ型はどう?」


「自分で立てるようになったよ!元気そうでほんとに良かった良かった。」


クマ型はスフェルの姿に戻ったが、黒いオーラは彼の周りを揺らいでいた。痛む頭をお抱え、彼はゆっくりと歩き出す。


「これで勝ったと思うなよ…人がいる限り、我々は何度でも現れる…人はゲカの脅威に震え続けるのだ…ッハハハハハ…」


スフェルは小さく笑い、討伐隊が彼を包囲した。タズはショットリボルバーの弾倉を確認しながらスフェルを向く。


「自分がいかに無力かを理解した時、人は始めて真の力を知る事ができる…お前は一からやり直すんだな…ティアナ!とどめを刺せ。」


ティアナは前に出て、構えた。


「分かった…スゥ…ハァ~…」


ティアナは呼吸を整え、広げた左手を突き出し、丸いヒカの壁を作った。そして力を込め、右の拳を腰から一気にヒカの壁にぶつける。


「っはぁあああああーーー!!」


ヒカの壁は衝撃によりヒカの波となり、一直線に空気を切り裂いた。ヒカはものすごい勢いでスフィルに向かっていき、彼を直撃した。


「ぐぅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…」


スフィルはヒカに包まれ、弱弱しい悲鳴を上げながら彼の体からみるみるとゲカが噴き出した。


「や゛ぁめ゛ぇぇ…ろ゛ぉおお…」


ゲカはヒカの中に消えていき、やがてスフィルの体からゲカが完全に消滅した。それを確認したティアナはヒカの波を消し、腕を下げる。スフィルは放心状態になり、ずっと立ったまま一点を見つめていた。スフィルからゲカの反応が消失した事を確認したヒュオリ警部は、部下と共に彼の後ろに回り、彼の腕に手錠をかけた。討伐隊は歓声を上げ、タズ、タナ、ティアナは安堵の表情を浮かべた。アウタレスの脅威がなくなったという一報は村中に広がり、やがて緊急警報は解除された。村の人間は閉めていた店やイルミネーションを点け、聖誕祭がついに始まった。通りは聖誕祭を喜ぶ人で溢れ、お祭り騒ぎになっていた。その頃村の東では、討伐隊と軍が撤収作業に取り掛かっていた。ヴィハ少尉はヒュオリ警部と事後処理の手続きについて話し合っていた。少尉は死んだ目をしたスフェルを前に、ヒュオリ警部に言う。


「報告書と事情聴取は後でよいとして…こいつの処遇についてだが、護送はどうするつもりだ?村の中で犯した罪状も多いだろ。そちらの要求を聞かせてくれ。」


「あ、ちょっと待ってくれ。」


ヒュオリ警部は村の警察署と連絡を取り、ヴィハ少尉に伝える。


「そいつはあんたらに預ける。近いうち人をそちらに寄越す。」


「いいのか?」


「ああ。今夜は聖誕祭だ。せっかくの日に余計なお荷物は村に要らないな。些細なクリスマスプレゼントだ。」


ヴィハ少尉の顔が和む。


「そうか。とんだプレゼントだな…こいつを連れて行け。」


下を向いたまま無表情のスフェルは兵士に軍用車両へ乗せられた。


「では、ご協力感謝します。」


ヴィハ少尉は敬礼し、その場を去ると、ヒュオリ警部が彼を呼び止める。


「あ、ヴィハ少尉…メリークリスマス。」


「メリークリスマス。ヒュオリ警部。」


少尉は振り向き、警部に挨拶すると軽く敬礼し、二人は別れた。討伐隊と軍は急ぎ足で撤収作業を終え、帰っていった。皆も聖誕祭を祝いたかったからである。こうしてムスタ・プキン村多発的ゲカアウタレス襲撃事件は幕を閉じた。


   村の外れではタズ、タナ、ティアナの三人がオオカミ型ヒカアウタレスの見送りに来ていた。ティアナはオオカミ型の前に出て、オオカミ型は顔をティアナの位置まで下ろした。


「ありがとう…またね。」


オオカミ型は目を瞑り、ティアナはオオカミ型の顔を優しく撫でた。オオカミ型は林の中に消えていき、ティアナはその後姿に手を振り続けた。彼女はタズとタナに振り返り、親指を上げ言った。


「よし、お祭りの時間だぜぇ!」


三人も聖誕祭で盛り上がる村に帰っていった。


   夜明けが近付いても尚、村の中心の活気は衰えを知らない。武装サンタも多く参加し、祭りを盛り上げる。武装サンタは観光に携わる事が多く、タズもその一人だった。彼に与えられた仕事は誘導灯を持ち、駐車場を出入りする車両の誘導だった。戦闘の疲れは残っていたものの、彼はのんびりと仕事をこなす。タズは休憩に入り、建物の屋上で通りを眺めながら煙草を吸っていた。


「その仕事似合わないわね。」


声の主はタナだった。彼女は笑みを浮かべ、タズの隣に来て柵にもたれ掛かった。


「お前が任命したんだろうが…」


タナは懐から煙草を取り出し、タズがライターの火をそっと彼女に向ける。


「そうだったかしら…ありがとう。」


「煙草の臭いでまたティアナに怒られるぞ。」


「大丈夫よ。あの子今頃子供達と一緒にぐっすりしているはずだから。」


ティアナの元に大勢の子供達が集まり、みんなで遊んだ後、そのまま一緒に眠りに就いた。


「相変わらず子供に人気だな…子供達が起きたら目の前にはクリスマスプレゼントじゃなくてサンタガールか…笑えるな。」


タズはその光景を思い浮かべて笑い、タナも笑い始める。


「まぁあの子そういうところは鋭いから、問題ないわ…あなたもサンタなんだからそろそろプレゼントの準備。」


「お前もな…」


しばらく間を置いて、タナは夜空を見上げ、タズに話しかける。


「私そろそろ結婚を考えているのだけど…」


「…おう。」


タズはぼそっと返事をした。


「あなたも考えてくれた?」


逃げ場が見つからないタズは観念し、タナに答える。


「そうだな…」


「私は真剣なんだけどなぁ…何か不満?」


タナの言葉にタズは少し動揺する。


「いや、そうじゃないんだ。ただ…」


「ただ?」


「…俺はゲカのアウタレスだぞ?」


「私はヒカのアウタレスよ。」


タナは一歩も引かなかった。


「ヒカは分かるが、ゲカはリスクが高くないか?」


「ゲカアウタレスでも子供は産めるわ。それに私ヒカアウタレスだし、逆に中和するかも。」


「あのなぁ~…」


タナがタズの言葉を遮る。


「一つ聞くけど、あなたがゲカアウタレスになった事って悲劇?」


「いや。唯なっただけだ。」


「つまりそういう事よ…私の母もヒカアウタレスになっただけ。父は関係なく母を愛し続けたわ。」


「そういうものか?」


「そんなもんよ。」


「…」


タズはしばらく沈黙し、彼なりの考えをタナに示す。


「分かった。時間をくれ。俺も避けてばかりじゃ駄目だ。ゲカと向き合わなければ…答えはその後でいいか?」


タズはタナと向き合い、タナはそっと微笑んだ。


「はい。」


ムスタ・プキン村に夜明けがやってきた。


~半年後~


   ムスタ・プキン村多発的ゲカアウタレス襲撃事件終結から約半年後、村はすっかり元の調子を取り戻していた。以来ゲカアウタレスの出没件数も例年通りまで落ち着いていた。混乱の渦中にあったゲカプラント開発計画は会議で見直され、稼働中の試作ゲカプラントは小型だが発電量が十分な事もあり、このまま運用を継続する形で合意した。ゲカアウタレスが急増するといった事態もなくなったため、住民のゲカプラントに対する注目も薄れていった。そんな中、父の跡を継ぎ、アウターマテリアルの研究者を夢見るペリは猛勉強し、学力試験を受けた。結果、元々勉強熱心だった彼女は新学期から小学4年生に飛び級する事になった。彼女はまだ6歳である。同じく6歳になった友人のロッケウスは彼女の後を追い、試験を受けたが彼女には及ばず、それでも小学2年まで飛び級が決まった。試験会場の外では様子を見にタズとタナがペリを待っていた。


「そういえばティアナは今どの辺にいるんだ?」


タズがタナにティアナの近況を聞いた。


「知らないわ。彼女は唯彼女を必要とする所へ行くだけよ。」


既にティアナは村を離れ、どこかへ旅立っていた。タナは懐から煙草を出そうとしていると、タズの肩が彼女の肩に触れた。タナが前を向くと、入り口からペリが出てくるのが見え、タナは煙草を戻す。先に試験結果を受け取ったペリがタズとタナの前で立ち止まる。二人はペリの顔を見て優しく微笑んだ。ペリの顔は満面の笑みで溢れ、彼女の笑顔は光り輝いていた。


-最終話~武装サンタと聖誕祭~ ~完~

ご愛読有り難うございます。

初めてでしたが夢のお話作りができて私は大変幸せです。今作を通して新しい何かが芽生えるきっかけになればそれ以上のものはありません。

今後は今作の挿絵作りに励みます。まだ過去話やサイドストーリーもあるので需要を見て判断します。英語翻訳も余裕があればやります。

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