だからダイエットを始めたのです
太っていることを気にしだしたのは、私が中学3年生になってからだ。
それまでも、人より丸い体型を体育や水泳の授業の時に少し恥ずかしいなと思ったことはあったが、どうこうしようとまで思ったことはなかった。
私の初恋は中学3年生の時、それがまさにダイエットの発端だ。
初恋の相手は、クラスのムードメーカーでいつも人の中心にいるような活発で明るい男の子だった。
とろくて、人の倍頑張らないとうまくいかない自分とは大違いで、人を引っ張っていける力を持っている、そんなところに惹かれた。
別に告白する気も付き合いたいとも思っていなかった。淡い初恋として自分の中で勝手に楽しんでいた。
それは突然だった。
教室でも廊下でも、特に親しいわけではないクラスメイトから、全く見知らぬ同級生にまで視線を向けられ、その後くすくす笑われる。
あまりいい気分ではなかったけど、なんだろう?くらいにしか思わなかった。
しかし真相はあまりにも簡単で、だから人の興味をくすぐった。
何が理由だったのかは忘れてしまったけれど、一日の授業が終わって下校しようと一度教室を出たのだが、その後教室に戻った。
教室の中から聞こえてくる会話に私の名前が含まれていて、開けようとした扉を開けられなかった。
田亀ってさ、やっぱお前のことばっか見てるよ。
あれだろ?いっつもとろとろ最後尾うろついてるデブ。
そうそう、そのくせ名前が姫ららなんて、名前負けしすぎだよな。
ちょっと酷すぎー!本当のことだからって言っていいことと悪いことがあるしー。
そういうお前だって結構なこと言ってんじゃん。
あはははと響くような笑い声がしている。
頭を殴られたような衝撃に襲われて、自分がどこにいるのか、その一瞬は本当にわからなくなった。
で、どうなの?田亀と付き合うの?
は?あんなデブ、無理に決まってんだろ。
扉を開ける勇気は出なくて、必死で走って家に帰った。
家に帰って部屋にこもってぐずぐず泣いた。
親はとても心配していたけれど、自分のことでいっぱいいっぱいで話せそうになかったし、そんな風に声をかけられることがすごくうっとおしかった。
その日から、中学を卒業するまでは辛くて辛くて仕方なかった。
特にひどいいじめにあったわけではなかったが、だれかの視線が怖くて仕方なくなった。
今思うと、誰も私のことなんか見てるわけなかったのに、一人でいるとみんなが私の噂話をしているような気がして不安で不安で仕方なかった。
親にもさんざん当たり散らした。
名前のことに関しては特に言い合いになった。言い合いになって、部屋に籠もって自己嫌悪に陥ってひたすら泣いた。
学校でも家でも積もり積もっていく不安と上手に伝えられない言葉を、食べることで飲み込んだ。
そうして胃が苦しくなってトイレにこもって吐き出した。
食べ物と一緒に汚い感情全部吐き出した気になっていた。
そんな生活が数ヶ月続いた時に、母が泣いたのだ。
母が泣いて、やっと目が覚めた。
人のせいにして、こんなんじゃダメだ。
こんな私じゃ、笑われて当然だ。
自分に出来ること。自分を変えること。
そう考えたときに、一番最初に思いついたのがダイエットだった。
バランスよく食事をするために、母と一緒に料理をするようになった。
朝1時間はストレッチをしたり運動をするようになった。
そうすると心も少しずつ落ち着いてきた。
今でも人の目は気にしてしまうし、目立つ人たちとはなるべく関わりたくないけれど、高校では中学みたいなことにならないように、自慢の娘でいられるように、努力していこうと思った。
突然発生した能力のおかげで、あまり身は結んでいないのだけれど。