輝かしい人たちのこと
彼、片桐唯世君は、私のクラスメイトの一人だ。
主席入学し、毎回のテストで1番に輝き、運動神経も良いというちょっとした天才だ。
しかも身長が高くて顔も整っているというハイスペックぶりである。
もっと学力の高い高校に行ける実力があったそうなのだが、わざわざ家から遠いところに通いたくないという理由でうちの学校を受験したと噂されている。
自ら中心に立って指揮するわけではないが、割り振られたことはきっちりこなすし、場をもり下げるような行動や、まして空気を壊すような発言はしない。
周りの男子より、どこか大人っぽさや寛大さがあって、女子からすごく人気が高い。また男子からの信頼も厚い。そしてそして、先生からの覚えもめでたい。
言動や行動が他人や物事にひどく影響を及ぼす。
地味で背景みたいな私とは、月とスッポンみたいな位置に存在する人なのだ。
同学年といえども立ち位置は存在する学校生活内で、どうして関わるようになったかというと、それもこの能力のせいなのだ。
2年生に進級して1ヶ月ほどが過ぎ、クラスでもそこそこ馴染めたかなという頃、ある日学校で能力を使ったことがあった。
所属している家庭科部の権限を使って鍵を持ち出し調理室でチョコレートケーキを黙々と作った。
家に帰るまでこの症状を抑えきれなかったことと、単純にお金がなかったからである。
家庭科部は作りたい人が作りたい時に、というのが基本で、文化祭前以外は活発に活動していない。
そのため気まぐれにやってきた部員が使いさしの材料を置いていることが多いのだ。
数日前に誰かが使用したのか、使いかけの卵とチョコレートと小麦粉があり、賞味期限と保存状態を確認して、せっせととんでもない量のケーキの製作に励んでいたところを片桐君に見つかってしまったのだった。
目の前のできたてのケーキを早く食べたい本能が抑えきれず、ごまかすのも忘れて大食いを披露した。
何度頭をひねっても何を話したのか全く覚えていないのだが、能力のことも、反動で食べずにはいられないことも全て喋ってしまったらしい・・・。
その一件以来、なぜか片桐君は頻繁に接触してくるようになった。
それも、教室にいる時ではなく、能力を使って暴食している時に現れた。
体育館の裏、屋上、花壇。
人が近寄りそうもないところでコソコソしているのに、いつも見つけられてしまう。
一度尋ねてみたことがあるのだが、わかりやすいからと言われてしまった。
単純ですか、そうですか…。
片桐君についてなんとなく思い返しでボーっとしていると思ったより時間が経過していた。
廊下を早足で歩き、始業時間ギリギリに教室に到着した。
そろそろと扉を開ける。
「田亀おはよー」
「田亀ー、先生が授業終わったら職員室に来いって言ってたよー」
「わかった、ありがとー」
うむ、いつも通りのクラスの雰囲気である。
席につくと、ふう、と一つため息がこぼれた。
時間は流れてお昼休み。
クラスメートの友人たちとお弁当を教室で一緒に食べる。
女子とは話題が豊富な生き物で、化粧品から新作のお菓子から宿題から、おしゃべりは止まらない。
「あれ?田亀今日それだけ?」
「ほんとだー。残ってるじゃん、めずらしー。」
「田亀のお弁当、毎日すごく美味しそうだけど量が多いから私だったら食べきれないわー」
「わかる。その半分のサイズで十分だよねー」
そうか。私的にはお弁当の量を抑えていた方なのだが、そうか。
最近の女子の胃袋はどうなっているんだ。
「もしかしてー、ダイエットお?」
新しい話題を見つけた、というように楽しそうに一人が声を上げる。
「え!田亀がダイエット?しなくていいよー、別に太ってないしー」
「そうだよー、てかマリちゃんほんと細いよね。なんでそんな細いの?」
「何もしてないよー、食べても太らないっていうかー」
そっとお腹に手を当てる。
つまめる。肉厚。
目の前でお弁当を広げている女子たちは、みんなすらっとしていて顔も小さい。
なんだがいたたまれなくて、いつもならご飯を食べるこの時間が一番楽しいのだが、今日は早く終わって欲しかった。