食べてしまったものはどうしようもない
可愛いは愛される
美しいも愛される
女子も男子もそういう人にはある程度寛容だ。
もちろんそういう人にはそういう人の悩みがあるけれど、他人の印象の約8割は外見で決まるって言うし、そういう人が目にとまりやすいのは確かだろう。
外見で言うと、初めに目に付くのは顔だと思う。
美人とブスには大きな壁があるが、ブスはブスなりの努力の仕方がある。
たとえばそう、化粧とか。
顔を工作して工事すれば別人にだってなれるのだ。
次にどこが目に付くかというと、体型だと思う。
学校には制服というものが支給されて、みんな同じ格好をする。
みんな!同じ格好!である。
痩せてる子達と同じ服を着る。痩せてる子達と共に学校生活を送る。
同じ服着るんだから、見かけを比較されやすい。
だぼっとした服着てるから太って見えるんだね~、が通用しない。
体型をごまかすことは、まず不可能だ。ばればれである。
そこから発展する、デブのデブなりの努力って?
ダイエットしかないでしょ。
「またやってしまった…」
田亀姫らら17歳、高校2年生。
絶賛落ち込み中である。
学校登校前にコンビニで買い漁ったチョコレートケーキの最後の一口に、ファークを突き立てて口に運ぶ。
狭い調理室の隣の物置は、甘ったるいチョコレートの匂いが充満している。
「ごちそうさまでしたああはああぁあぁ、あううう」
「なに唸ってるんだよ…」
独りでに開いた扉に驚いて顔を上げると、見知った人物が呆れた表情を浮かべている。
「ノ、ノックくらいしてくれても…」
なんだか後ろめたくて、チョコレートケーキが入っていた残骸でいっぱいの袋を後ろに隠す。
「授業サボっただろ」
「す、すすいません」
寝坊したわけでも宿題を忘れて授業に出なかったわけでもない。
家を出る2時間前に起きて、日課のストレッチを1時間してから学校に登校する準備を始めたし、宿題も昨日寝る前にしっかり終わらせて鞄の中に詰めた。
「ダイエットするんじゃなかったのかよ」
「ううううう」
「意味のない唸り声出すなっつの」
一刀両断である。
がっくりと項垂れるしかない。
「食べてしまいました…」
「誘ったパフェ無料券、使用期限昨日までだって言ったよな」
「そ、そんなに食べたかったなら誰か誘えば…」
「やっぱりやめるってドタキャンしたのは誰だよ」
「わたくしめでございます…」
撃沈だ。
腕を組んで扉に寄りかかり、見下ろしていた体勢から一つため息をついて歩み寄ってくる。
心の中で泣きながら、ムチムチで小さくなれない体を少しでも小さくしようと縮こまる。
目の前に上履きの先が見えたかと思うと、しゃがんできて影が落ちる。
「で、今朝は何したんだよ」
「気に登った猫が降りられなくなってたから…」
「お前なあ」
私にはある特殊な力がある。
今時そんなもの流行らないし、どんな頭の痛い子なんだと思うだろうが、実際にあるのだから仕方ない。
1秒間、物体を1メートルほど上に浮かせることができる、という超能力と言ってはおこがましい能力を持っている。
些細すぎて何の役に立つんだとお考えだろう。まったくその通りである。たしいて役に立たない。
あ、でもね!
その程度の高さなら、全力でジャンプするのと変わらないのではと思うだろうけど、聞いて驚いて欲しい!
ジャンプしてる最中に使うと一見すごい高さを飛ぶことができるのだ!
ただし、着地するときに足をくじく危険性があるので使用上の注意が必要です!
そして、この能力には一つ欠点がある。
力を使うと、チョコレートケーキが食べたくなって、食べて満足しないと眠れない症状が発動するのだ。満足するまでに必要な量が異常なのだ。毎回胃が痛くなるほど食べてしまう。しかし食べる前も食べだしてからも我慢できない。
そのため泣く泣く、いや、食べるときは一一心不乱に本能のままにチョコレートケーキを食べる。
その結果できたのが、今の私であって。
・・・・・・つまり、女子の平均よりも太ってるってことなのだ。