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4/12

泣虫の君のほうが素敵だったよ

時代の香りがする。

季節にはそれぞれの香りがあるように

時代ごとに香りが存在する。


いい香りだ。

本来の俺ならまっさきにこの霊体のまま女子高に突入してるところだが

あいにくこうやって肉体から解き放たれるとそういう気がまったくおきないのである・・


これが雑念のないピュアな俺そのものとすれば

ほんとに無趣味無関心無気力無欲の面白みのない抜け殻がここにあるといったところか。


あとどういう理屈か知らないが

こうやって今、霊体で過去にやって来たこともあの女の仕業のようだし

俺本体が改造されて謎の組織に管理されてるという現実は

まあ、楽しいっちゃ楽しいけど、なんか俺、あの女の手の内で

踊らされてる感満載で色々と萎えるわけで。


夢のタイムトラベルも、超常現象も、

実際目の前に現実となると、

ただのどす黒い陰謀のうちで泳がされている感覚でしかない。

宇宙でさえ、カラクリ仕掛けの狭い狭いただの庭に感じる。


すべてが絵にしかみえないのである。


さっき出来る限り空の向こうへ飛んでみたが

宇宙が広がっていた。


ただ、やはり絵にしかみえないのである。


UFOと遭遇してもきっと絵として処理してしまうだろうか。


これが肉体を通さない人間に見える虚しき世界の真実のようだ。


とりあえず興味のあることは俺自身に会いに行くことくらいか。

(・・でも若い親族にはなんだか会いたくねえ感じ)


いやあこんなにもタイムトラベルが楽しくないなんて。


そして一定の時間になるとこうやってうちの家のとなりの神社の神殿の鏡へと引き戻される・・


境内の範囲限定で、得体の知れないモノとして見える奴には見えるようで

気味悪そうにたまに目で追ってくる奴がいる。


とりあえず”俺”がくるのを待ちたいところだが、

今、ここは俺の高校時代だ。

俺は祭の日か正月くらいしか境内なんて踏み入らないわけで

とりあえず数週間後の夏祭にここで遭遇を期待するしかないのか・・。

まいったなー。


「おはよう」


ああ、つまんないなタイムトラベル・・そしてここもつまらない。

およそ12時間ごとに鏡に吸い込まれて、もとの時代に戻っては

寝たきりの俺はこの女に見下されて上から目線ですべてを見透かされる。

なんの感覚も欲求も抗いもない、完全なストレスフリーの今の俺、

常につきまとう自分の意識と意思がうっとおしくなってきた。


疲れること、そして寝ることのありがたみと心地よさが今わかる。


愛した人、家族、恋人、友人、体を介さなければ

感情も感動も安らぎも、喜怒哀楽もない。

無意欲無関心でどの時代にもどの世界でさえも、それどころか宇宙津々浦々の惑星・・

どこにだっていけるのに、めんどくさい。


どこにでもいける、極限の自由、

そして失うものの無い永遠。

それは悲しみでもないが喜びでもない。

究極の虚無。


旅を続けるたび心が枯れていく。


きっと人間が俺の存在が見えれば

きっとこれこそが悪魔そのものになるだろう。


いや、もうこの姿である時点で悪魔として出来上がってるはずだ。


ガキのころ通ってた水泳教室で一目ぼれした

インストラクターの聡子さんの若きころの姿を覗きにいったときは

さすがに一瞬だけ自分にまだ心臓があるのかとは思ったが。


あとは本当につまらない。


自分の若い頃の生活は恥ずかしくて覗けたもんじゃない。


いや、まあ、ほんとは恥ずかしいというそんな感動の類があればまだ幸せだろう。

虚しさの臨界地点を突破しそうな勢いになるので

とりあえず自分や家族の生活だけは覗かない。


だから俺はこうしてこの境内でひたすら俺を待つことにする。



ただ、人として生きることに比べれば

こんな虚無感なんて生易しい。

俺はそこまで人間として死にたいと思うほどの地獄を味わった経験が無かったが、

こうやって肉体から離脱して改めて人とそれを取り巻く環境条件を分析すると

計り知れない拷問そのものだということもわかる。


なんというか、すさまじい葛藤に襲われる。


俺は現状維持をして虚無の旅をしつづけるか、


苦しみとひきかえに快楽や感動を手に入れるためにふたたび肉体に乗り込むか、


よくわからないが

今の俺はこうやって神のような自由が与えられたわけで

おそらく神として"人間社会創り"に参加する道も用意されているのだろうか。


こんど、理鎖たんに会ったらきいてみる。


しかし暇だな。

暇をつぶす暇がないのだから。

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