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とある魔界の恋愛模様

空から天使が降ってきました



 大変です。一大事です。


 空から天使が降ってきました。





「会いたかった、僕の太陽!」


 日課にしている朝の散歩中、人気のない公園で場違いな明るい声が響く。

 きょろきょろとする私に、空から降ってきた天使は抱きついてきた。

 抱きつくというか、首に巻きつくというか、むしろひっつくというか……でも、不思議と重くはない。

 そもそも空を飛べるなら軽いのは当然なんだろうか。見た目は羽がある以外、人とそんなに変わりないように見えるけれど、どういう体内構造をしているのか気になった。

 金髪のふわふわ髪に青い瞳の少年。十人中九人が想像するようなごくごく一般的? な天使さん。

 十八年間平凡な人生を歩んでいた私に、もちろん彼のような知人がいるわけなかった。


「わ、私は太陽じゃありません」


 まず最初に、私は天使の誤解をとくことにした。

 あとにして思えば、問題はそこじゃないと自分にツッコミ入れるところだけれど、このときの自分は完全に混乱状態だったんだからしょうがない。


「え? 太陽だよ。だってきらきらしててまぶしいもの」


 きょとん。天使は明るい空色の瞳を丸くして答えた。

 その、汚れなんて知りませんと言わんばかりの無垢な瞳のほうが、私にはよっぽどまぶしく見える。

 でもお願いです、少しは離れてください。というか首から腕を離してください。

 トントンと腕を叩くと、やっとこさ天使は地面に足をつけて離れてくれた。あんまり距離は空いてないけど。


「懐中電灯だってきらきらしててまぶしいです」


「かいちゅうでんとう?」


 何それ? とばかりに天使は首をかしげる。

 天使は下界のことをよく知らないらしい。勉強不足はいけません。


「持ち運びできる光源です」


「あ、じゃあそれがいいや! 僕のかいちゅうでんとう!」


「……すごくマヌケな上に根本的解決になってません」


 きらきら輝く笑顔で言われると、なんだか罪悪感を覚える。主に場違いな代替品を例に出してしまったことについて。

 僕の懐中電灯、って様にならないよね。どう考えてもギャグだよね。

 僕の太陽ならちょっとクサイけど、褒め言葉というか口説き文句に分類されるのに。

 空から降ってきた非常識な――いや、ある意味常識的かもしれないけれど――天使にはそんなこともわからないらしい。

 天使だから純粋なんだろうか。純粋って言葉ですませていいんだろうか。


「ダメなの? かいちゅうでんとうなら持ってってもいいんでしょ?」


「どこからつっこんだらいいのかわかりませんが、とりあえず私を持っていかれたら困ります」


 仮に持ち運べたとして、私をどこに持っていきたいんだろう。

 天使ならやっぱり天国?

 それは死ぬってことだろうか。もしそうなら嫌です。全力で拒否します。


「なら、やっぱり太陽だ。

 僕だけのものになってくれるのは魅力的だなぁとは思うけど。

 君はここにいてこそ光り輝くんだから」


「意味がわかりません」


 光り輝く? 私が?

 一般人が言えば鳥肌モノのセリフも、目の前の天使の口から出ると妙に決まっている。

 いや、だからといって肯定はできませんがね。


「君が僕の光で、標で、希望で……すべてなんだってこと」


 天使はとろけるような笑みを浮かべていた。

 人違いだとか、私はあなたを知らないだとか、ストーカーじみてて怖いとか。思うことはたくさんあったのに、私はその表情に言葉が出てこなくなった。

 会うまでは文句を言いたくて仕方なかったのに、相手の顔を見た瞬間どうでもよくなることとかってたまにある。ちょうどそんな気分。

 私が細かいことを気にしない性格なせいもあるのかもしれない。

 天使がうれしそうで、しあわせそうだから。もうそれでいいかな、と思えてきてしまうのだ。


「それはよかったですね」


 だからよく意味も考えず、私はそう言ってしまった。

 しかも微笑みまで浮かべながら。

 天然だと友だちに言われてしまう所以はこんなところにあるのかもしれない。

 でも、さすがに誰だって、これだけで次みたいな展開になるとは、想像もできないだろう。

 もしできたとしたらその人はエスパーだと思う。


「うん、よかった!

 今日から君が僕のご主人様だよ」


 私の手をとって、よろしくね、なんて可愛らしく小首をかしげながら天使は言う。

 ゴシュジンサマ? はて、それはどういった意味の言葉だっただろうか。


「…………は?」


 現実逃避もむなしく、ご主人様と脳内変換が完了してしまった私は、天使と同じように首をかしげた。

 冗談だったらいいなぁ、なんて期待して天使を見つめるものの、その口から前言撤回が語られることはなく。

 どうやら私は、わけもわからず天使のご主人様になってしまったようです。





 のちに、彼が天使ではなく、魔界に住む天の民という種族だということだとか。

 実は私たちは十五年前に出会っていて、彼はそのときの約束を守るために来たのだとか。

 ご主人様だとか言いながら主導権はいつも彼が握っていることだとか。

 非日常な毎日に、不本意ながらも少しずつ慣れてしまっていくことだとか。

 色々と、知ることになるのだけれど。


 今はまだ、


「クーリングオフはできますか?」


 そうとぼけられるくらいには、私は何も知らなかった。







とても適当な人物紹介。


天使(男)

天の民というのは光と闇、天候を操る種族で、翼を持つ。種族は翼の色によって細分化されるが、色は必ずしも遺伝するわけではないので、親子で種族が違うなんてことが起こりうる。

天の民と地の民(この二つは魔界で対の種族とされている)は魔王の従者になることが多いためか、己の仕える存在を探し求める者が少なくない。

というわけで人間をご主人様なんて言っちゃう天使くんは、実はそこまで変わってるってわけでもない。

天然気味で、暴走気味なのは、末っ子だから。あとちょっぴり確信犯でもある。


人間(女)

大学一年生。好物はシュークリームとミルクティー、趣味は読書と早朝の散歩、というごくごく普通の少女。

三歳児のときに今と変わらない姿の天使に出会っているが、もちろん小さすぎて覚えていない。

他称天然の彼女ががんばらないとツッコミ不在という由々しき事態になる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 続きをお書きになる予定はあるのですか? 是非、この後のお話が読みたいです。 「とある魔界の恋愛模様」シリーズのお話が好きです 魔王さまとか、ほかの魔物にも興味がありますので登場してくれた…
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