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メランコリック・バレンタイン 1 <紅谷side>

番外編第2弾、バレンタインのお話です。8話ほどの予定です。



 二月になるとそわそわする――

 あるいは憂鬱とする、それは大抵の男の心理状況じゃないだろうか。

 俺の場合は後者である。なんでかって、その理由は二月中旬にあるバレンタインデーが原因さ。

 バレンタインデーなんて、製菓会社がチョコレートの販売促進のために作ったイベントだ。もともとバレンタインデーは愛の日というだけで、贈り物はチョコに限定されていないし、女性から男性という縛りもない。日本独特に発展を遂げたイベントに、幼い頃からあまり興味がなかった。

 もちろん理由はある。

 小学校時代、好きな男の子にチョコを贈ると言った姉二人に、作るのを手伝えば残った分をくれるという甘い誘いにのって手伝いはじめたのが、バレンタインデーがメランコリックになったきっかけだった。

 父が単身赴任で母と姉二人という女性ばかりの家庭で育った俺は、甘いものが好きな子供だった。

 チョコ作りを手伝うのは面倒くさいが、おこぼれでもチョコが食べられるのは魅力的だった。

 ほとんど会うことのない父に似て手先が器用に育った俺に対し、母似で不器用な――ってこんなこと面と向かって言ったら、殴られるだろうから言わないけど――姉二人は、たとえ溶かして型に流すだけの簡単なチョコ作りだろうとキッチンが大惨事になる。俺が手伝わなければ――と付け加えておこう。

 毎年文句も言わずに手伝っていたせいか、いつしか、姉たちの配るチョコレートは俺が作るのが当たり前になってしまい、なんだかバレンタインデーの有難みを感じない中学生になっていた。

 中学に入って背が急激に伸び、中学三年の時はチョコレートをもらう数もそれなりに多かった。初めはもらったからにはちゃんと全部食べようって責任感からチョコを食べていたんだが、量の多さにだんだん胃もたれしてくる。チョコは好きなのに、大量のチョコを見て、げんなりしてしまった。

 それからチョコは苦手だ。少しなら好んで食べるけど、バレンタインデーのチョコを見るとどうしようもない気持ち悪さにかられる。

 高校ではチョコレート嫌いを通して、バレンタインのチョコも丁重にお断りさせてもらった。そのせいで、学校でおやつにチョコとかチョコパンとか食べられなくなったのは辛かったな……

 高校一年の二月はそんなふうに過ぎ、二年も無事に過ぎるはずだった。

 カフェ・フルールにチョコを持ったお客が押し寄せなければ――

 その時から、俺にとってバレンタインデーはメランコリックでしかなくなった。

 チョコをもらえなくてやさぐれる男のように、バレンタインデーを嫌悪する。

 しかも、いま配属の喫茶店には俺のファンだっていう客が何人かいて、二月を過ぎて数日、チョコを渡そうといろいろ店員に俺のことを聞いている客がいるらしく、店長もピリピリしていた。そんな時言われたのが。


「紅谷マネージャー、悪いんだけど、明日は来なくていいから」


 一瞬、解雇命令かと思って身構える。瞠目して声を失っている俺を見て、店長が眉尻を下げて苦笑する。


「あー、ほら、あれだ。明日は十四日だろ? お前にチョコを渡そうって客が来たら面倒なことになるだろ。ずっとキッチンに籠ってるわけにもいかないし、紅谷マネージャーが休みならいないって言うだけで済むんだよ。まったく営業妨害なんだよなぁ……」


 少し非難めいた視線を向けられて、顔が引きつる。

 えぇっと、俺が悪いですか……?

 むしろ俺は被害者なんですが――とか言うことも出来ず、とりあえず急きょ頂いた休みにお礼を言って、退社した。




波乱万丈な紅谷さんのバレンタインデー。今年のバレンタインデーはどうなる――!?

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