表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋をあきらめたその時は・・・  作者: 滝沢美月
続編『きっと恋が始まる、その瞬間』
60/71

第40話  Love is … <佐倉side>



「そう、だね」


 紅谷さんが言ったその言葉を、どうゆうふうに受け止めたらいいのか分からなくって、黙り込んでしまった。だけど、そう言った紅谷さんの口調はなんだか冷静で、胸が締め付けられるように痛んで苦しかった。

 その後、紅谷さんとは会話らしい会話をすることなく、花火大会が終わった。駅までの道のり、紅谷さんは仲良さそうに黒沢君と話してて、駅に着くと黒沢君と飲みに行くと言って、挨拶もそこそこに行ってしまった。

 なんだかやりきれない気持ちに切なくなる。


「七瀬、俺達も飲みに行こうぜっ! あっ、佐倉さんと宮部さんも一緒にどう?」


 だから、細倉君が飲みについていくと言い出したその言葉に、勢いで頷いていた。

 居酒屋に着くと、紅谷さんは私達がついて来てることに驚き、黒沢君と二人、少し離れた席に移動してしまった。なんだか紅谷さんと仲良しの黒沢君に嫉妬してしまう。

 飲み物を頼んで乾杯をし、九時を過ぎてることに気づく。勢いで紅谷さんに――正確には細倉君に誘われてだけど――ついて来ちゃったから、遅くなることを家に連絡しようと思い携帯を取り出してメールを打っていた。

 だから、紅谷さんがこっちに歩いてきたことも気づかなくって、いきなり腕を掴まれ携帯を落としそうになって、焦る。


「佐倉、帰るよ」


 突然そう言われて腕を引かれ、意味がわからなくて紅谷さんを振り仰いだけど、紅谷さんはこっちを見ようともしなくて、私は慌てて、鞄を掴む。


「佐倉さん……」


 宮部さんが心細そうな顔をしたけど、掴まれた腕には逆らえなくて。


「ごめんね。みんな、先に帰るね」


 それだけ言うのがやっとだった。



 お店を出るまでは強引に腕を引き早足だった紅谷さんは、外に出ると、掴んでた手を緩め優しく包み込むように手のひらを握ると、ゆっくりと歩きだした。

 どうして紅谷さんが急に私を連れ出したのかはわからなかったけど、繋がれた手の温もりが切なくて、それだけで涙がこぼれそうだった。今日は涙腺が壊れてしまったみたい……


「佐倉……」


 そう言った紅谷さんの声は心なしか掠れてて。


「足、大丈夫?」


「えっ……?」


 聞かれた意味がわからなくて首をかしげる。


「下駄、歩きにくいんじゃない?」


 その言葉に、紅谷さんが私に気遣ってゆっくり歩いてくれてることに気づく。紅谷さん、やっぱり優しいな……そうゆうところが、すごい、好き……


「佐倉」


 さっきとは違って、甘く耳にくすぐったく響く言葉に、思考を止めて紅谷さんを見る。

 紅谷さんは握ってた私の手を掴み直し、吸い込まれるような魅惑的な瞳で私を見つめた。

 そんな瞳で見つめられたら、心臓がきゅーっと締め付けられて、鼓動が急激に早くなる。


「あの……」


 ほんの数秒だろうけど、私にはその沈黙が耐えられなくて口を開いた。だけど、次の言葉は続かなくって。

 なぜなら――


「佐倉、さっきの返事だけど、俺も佐倉のことが好きだよ。今日、佐倉が花火大会に来るって聞いて仕事には集中できないし、黒沢が送ってきた佐倉の浴衣姿は可愛すぎて、他の男には見せたくないと思って、仕事が終わって慌てて来たんだ。早く佐倉に会いたくて」


 言って、掴んでいた私の手を紅谷さんの口元に近づけ、ちゅっと口づけた――!

 その瞬間、ぼっと火がついたように顔が真っ赤になるのがわかった。心臓はドキドキと早くなり、頭は真っ白で……

 手に口づけたまま、上目づかいに見上げてくる紅谷さんの瞳は艶っぽく色めいて、口元には優しい笑みを浮かべてる。

 キュンっ!

 身もだえるような、痺れるような、ざわざわとする感覚が全身を襲い、身震いする。

 私に向けられた紅谷さんの極甘スマイルが――夢のように嬉しくて、嘘のように現実味のないさっきの言葉が、私の聞き間違えじゃないことを知らせている。


「俺も、佐倉に会いたかった。これからはたくさん、佐倉と一緒にいたい」


 口づけたまま喋るから、手に息がかかってくすぐったい。

 火照った顔を見られるのが恥ずかしくって、でも、紅谷さんから目がそらせなくて……


「もも、俺と付き合ってください」


 ドキンっ。

 初めて下の名前で呼ばれて、嬉しすぎて、涙が出てしまう……

 告白した時は、曖昧な返事を返されとても気まずくなって、まさか紅谷さんも私を好きだと言ってくれるとは思わなくて……


「はい……」


 涙と一緒に、溢れだした気持ちを言う。


「嬉しい……」


 ぽろぽろと頬を流れる涙を、繋いだ手と反対の手の甲で優しく拭ってくれた紅谷さん。だけど。


「もも」


 もう一度名前で呼ばれて、紅谷さんの方を向くと、そこにはいつもの意地悪な笑みを浮かべた紅谷さんがいて、違う意味でドキリとする。


「はいっ……」


 まさか、さっきの言葉は嘘とか、言わないよね……?


「嬉しい時は、笑わないといけないだろ。もも、笑って」


 そう言った紅谷さんは眩しいほどの笑顔を私に向けている。やっぱり、さっきのは嘘じゃないんだ!


「はいっ!」


 私は頷くと同時に、ぎゅっと紅谷さんに抱きつきついた。そんな私を、紅谷さんは優しく包み込むように抱き返してくれた。



 駅まで続く夜道は、通る人もほとんどいなくて、今日が花火大会だったとは思えないほど静まり返っていた。その道を、私と紅谷さんは手を繋ぎ、並んで歩いている。

 目的地は駅かもしれないし、もっとその先かもしれない。行きつく先は、別々のところにあるかもしれない。けれど、今はゆっくりと、二人、手を繋いで歩いていく。

 恋が始まった瞬間、二人の間に生まれた道しるべ。

 それをただ、ゆっくりと、歩き始めた――




これにて、完結です!

ここまで読んでくださりありがとうございます。

感想や1ポイントでもいいので評価頂けると今後の励みになります。

また、誤字などありましたら、お知らせください<m(__)m>


この作品は、本編・外伝・続編と……書き始めた時はこんなに長くなるとは思いませんでした。

切ない片思いを書きたくて始めた作品は……まさかの佐倉と紅谷のハッピーエンドになりました。(作者もビックリ)

これで完結ではありますが、番外編を二話ほど書く予定なので

機会がありましたら読んでみてください!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングに参加しています。ぽちっと押して頂けると嬉しいです!
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ