第37話 コンフェッション <佐倉side>
「黒沢、何だって?」
一方的に切れてしまった携帯を眺めてると、紅谷さんに聞かれてどもってしまった。
「えっ、あっ、えーっと……」
告白しなさい――って、言われてたなんて――言えないよっ!
「あの……すごい人ごみですね」
にこりと笑って言ってみたけど、質問の答えになってなくて、明らかに妖しすぎる。
「そうだね」
なのに、紅谷さんはそう言って前を向いてしまった。
紅谷さんも、なんだか、いつもの紅谷さんじゃないみたい。いつもだったら、にやりと意地の悪い笑みでからかってきそうなのに、変……
黙ったまましばらく歩き、紅谷さんが少し先を指して言う。
「あそこ空いているから、座って花火見ようか?」
「はい……」
繋いだ手の先が熱くて、さっきから胸がドキドキいって、どうにかなっちゃいそう。声も上手く出せない。
土手の空いた場所まで行き、紅谷さんが座ろうとして、私を見た。
「佐倉、浴衣だったね。座ったら汚れるか……」
「あの、私、小さなレジャーシートなら持ってますけど」
「準備がいいね」
「えへへ……」
そう言った紅谷さんの笑顔が魅惑的で、顔が引きつってしまう。だって、このレジャーシート、お母さんが持って行きなさいって言った物なんだよね。まさかこんな形で役に立つとは、思いもしなかったから、お母さんに感謝するべきか、怨むべきか……迷ってしまう。だって……っ!
「ほんとに、小さいね」
くすりと、紅谷さんが笑って言う。
「すっ、すみません。こんなに小さくてっ」
広げてみてビックリ。二人で座るのがやっとの大きさ――っというか、一人用!?――で、ぴったりくっついてないと並んで座れない大きさなんだもの。お母さんの、ばかー!!
私の右腕と紅谷さんの左腕がぴったりくっついてて、全神経が体の右側にあるんじゃないかってくらい、敏感になってる。
なんだかすごい意識しちゃって、緊張して……困る。
こんなに近くに大好きな紅谷さんがいて、ついさっきは黒沢君に告白しなさいって煽られて、意識しないでいることなんて……出来ないよ。
どうしよう……告白なんて……私……
そう思って横を見ると、紅谷さんは顔を空に向け、花火を見ていた。花火が上がるたびに、端正な紅谷さんの顔が照らされて夜なのにはっきり見えて、その瞳に映る花火に吸い込まれそうになって、ドキンっと胸が高鳴る。
そうだよね、こんなチャンス滅多にないよね。今を逃したら次はいつ紅谷さんに会えるかも分からないし、この間みたいにチャンスを逃して、落ち込むのはもう嫌だもん!
そうだ、言おう。そう決心したら、早かった。
「花火、綺麗だね」
夜空に顔を向けたまま言った紅谷さんに、私は言っていた。
「紅谷さん、好きです」
ドーン! ドドーン!
その瞬間、あんなに大きな花火の上がる音も、私には水の跳ねたような小さな音になって、世界中の音が消えたように感じた。
「今日は紅谷さんに会えて良かったです。また一緒に出かけたいです」
※
さっきまであんなに鳴り響いていた花火が止み、星空の下、人のざわめきだけが聞こえる。その中を、私と紅谷さんは少しの距離を保って移動する。
花火大会の第一部が終わって、港の北側にいる黒沢君達と合流するために歩きだしてから、紅谷さんは一言も話さない。時々、後ろを歩く私を振り返って、ちゃんといるか確認する以外は私の方を見ようともしないし……
「あっ、紅谷さん佐倉ちゃん、こっちこっち!」
黒沢君が私達を見つけて手を振っている。紅谷さんがみんなに挨拶して、他の人たちも紅谷さんに挨拶する。南側より北側のが空いてるからか、第一部が終わって見物客が減ったからか、黒沢君達は大きなブルーシートを敷いて、宴会っぽく騒いでいる。
宮部さんが私に近づいてきて、シートの上に誘われ下駄を脱いで上がる。
「佐倉さん、心配しました。無事で良かったです」
「うん、心配かけてごめんね」
かわいい笑みを向けられ、笑い返したんだけど、上手く笑えてたかな。気分が沈んで……顔が引きつってる気がする。
男性陣が中央に座り、私と宮部さんは港よりの端っこに二人並んで座る。他愛ない話をしているうちに第二部が始まり、また漆黒の闇を色とりどりの花が彩り始める。
「わー綺麗ぃ……」
宮部さんが夜空を見上げてぽつりと呟いたけど、私は……とてもじゃないけど、花火を見てる気分じゃなかった。
さっき――私は、紅谷さんに告白した。
でも、返ってきた言葉は――