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恋をあきらめたその時は・・・  作者: 滝沢美月
続編『きっと恋が始まる、その瞬間』
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第24話  切望するほど <佐倉side>



 映画館を出て、街を歩きだした私と紅谷さん。


「そのお店には良くいくんですか?」


「ああ、高校生の時に見つけて以来、ね。最近はあんま行ってなかったから久しぶりだけど」


「紅谷さんはパスタ好きなんですか?」


「パスタというか……麺類全般好きかな」


 そう苦笑した紅谷さんは、私を見つめて。


「佐倉は、パスタ好き?」


 そう尋ねた紅谷さんはうっすらと笑みを浮かべている。

 あまりに質問ばかりしていたことに気づいて、顔が真っ赤に染まる。恥ずかしー。でも、紅谷さんのこと、どんなことでもいいから知りたいと思ったの……


「はい。っといっても、明太子とかは苦手なので、食べられる種類はだいたいクリーム系に限られちゃうんですけど」


 好き嫌いはあるかって聞かれたら、嫌いな物はないから、ないって即答するけど……私には食べられないものがある。それは漬物系……梅干しからはじまり、漬物全般、キムチもだめだし、明太子も……なんか、匂いと味が強烈過ぎて……食べられないのだ。


「へぇ、そうなんだ。でもクリーム系、おいしいからね」


 紅谷さんの行きつけのお店に向かって歩いてる間、紅谷さんはにこやかな笑顔を私に向けているけど、時々、黙り込んで何か考えるような仕草をしていた。

 映画館から十分ちょっと歩いた普通の住宅街の中に、そのお店はあった。道にはカフェ・フルールと書かれた黒板仕様の看板、その周りには色とりどりの花が飾られてる。店先のテラスには深緑と白のストライプの軒が伸び、お洒落な机と椅子が並んでいる。洋食屋というよりは、可愛い喫茶店といった雰囲気だ。

 カフェ・フルールの扉を入るとこじんまりとした広さ、入ってすぐのところはキッチンに面したカウンター席、その奥にテーブル席がある。店内はほぼ満席で、ちらほらと男性もいるもののお客のほとんどが女性だった。


「カウンター席でも良い?」


 そう聞かれて頷くと、紅谷さんはまっすぐカウンター席に向かい、空いてる席の椅子を引き。


「どうぞ」


 そう言って、私を振り向いた。


「あっ、ありがとうございます」


 お礼を言ってその席に座ると、紅谷さんも隣に座った。

 自然な仕草で椅子を引いてくれるとか……ほんと、紅谷さんって紳士だよなぁ。そんなことを改めて実感する。お店に来るまでも、さりげなく車道側を歩いてくれたり、扉があれば開けて先に通してくれたり、心づかいが細やかというか、ここまでされるとなんか私の方が照れてしまう。


「はい、メニュー」


 そんなことを考えてる間にも、やっぱりさりげなくメニューを取ってくれる紅谷さんをまじまじと見つめる。

 顔もすごく格好良くて、優しいし、仕事も出来るし、その上紳士な態度が板についてて……完璧すぎるでしょ、紅谷さん。

 私、こんな素敵過ぎる人、好きになっちゃって、いいのかな……?

 実る確率ほぼゼロパーセントの無謀すぎる恋しちゃって……私、ほんと馬鹿みたい。でも、気付いたらもう、好きになってたんだよ――



 その思考に思い至って、顔に火がついたようにぼっと赤くなったのが自分で分かる。

 ちらりと横に視線を向けると、紅谷さんはメニュー表を眺めている。

 私は真っ赤になった顔を隠すように俯き、着ていたパーカーを脱ぐ。



 いま、気づいちゃったよ――今更、自覚するなんて。

 合コンの居酒屋で紅谷さんと会って胸がほかほかと安心した気持ちで満たされたのも、映画を誰と行こうかと考えた時一番に紅谷さんの顔が浮かんだのも、会えないと分かって胸が締め付けられるように痛んだのも、会いたいと強く切望したのも――

 それは全部、紅谷さんを好きだからで――

 そして、こんな気持ちになったのは蘇芳さんを好きになって以来で――だけど、あの時とは確かに違う気持ちが芽生えていて――


 “会いたい――”


 そう思って、自分から行動を起こした。

 蘇芳さんにしてた恋とは違う、確実に違う。

 それは――ただ遠くから見てるだけで幸せな恋じゃなくて、もっともっとって欲が出てきて――紅谷さんに私を好きになってもらいたいと、心から切望するような、恋――




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