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恋をあきらめたその時は・・・  作者: 滝沢美月
続編『きっと恋が始まる、その瞬間』
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第5話  恋愛トーク <紅谷side>



 駅の北側、バスターミナルから一本奥の通りに踏み込むと、居酒屋やゲームセンターが並ぶ通りに出る。チェーン店の居酒屋が並ぶ中、目立たない小さな入り口をくぐると……奥に続く長い通路。その足元には灯篭が点々と置かれ、ゆらゆらと揺れる明かりが、異空間に彷徨いこんだ錯覚を起こす。通路を奥に進むと店員が現れ、席へと案内してくれた。

 先導する店員に続いて、更に奥へと続く通路には扉がいくつかあって、座席はすべて個室の様で、その一つに案内される。中は、敷石の床に大きめのテーブルと椅子が八つ置かれていて、店の外観とは違って落ち着いていて、おしゃれで、全然居酒屋っぽくなかった。デートとかで来てもよさそうな雰囲気だ。

 部屋にはすでに愛堂(あいどう)堀之内(ほりのうち)が来ていて、しばらくして、井澤(いざわ)(はら)三谷(みたに)と商業学科の同期六人が揃う。


「よう!」


「おっ、久しぶり」


 そんな言葉を交わして、それぞれ席に着く。

 大学時代、グループ活動をする時はこのメンバーでよく行っていた。原、堀之内、三谷は学籍番号が近くて、入学してすぐに仲良くなり、愛堂は堀之内と一緒に教職課程を受講していたことから、井澤は三谷と出身高校が同じで、この六人でつるむことが多かった。卒業して、愛堂と堀之内は商業高校の教師に、井澤は実家の店の手伝い、原は大手牛丼テェーン店に、三谷は銀行に勤めている。

 会うのは約半年ぶりで、それぞれの近況を報告しあう。ビールで乾杯し、食事をほとんど食べた頃、向かいに座っていた三谷が、隣に座る井澤の肩をバシバシ叩きながら叫んだ。


「おいっ、マジかよ!」


 原と話してた俺も、原も、愛堂も堀之内も、一斉に視線が井澤と三谷に向かう。井澤は皆に見つめられ、照れたように頭をかきながら言った。


「俺、結婚したんだ……」


「えっ……!?」


 俺と原と堀之内は驚きの声を上げる。愛堂は一人冷静におめでとうと言っている。

 大学を卒業して一年少し、社会人として二年目……まだ二十四歳である。同期で結婚しているやつは未だにいなかったので、驚く。


「相手は誰だよ?」


「いつ結婚したんだ?」


「なにが決め手で、結婚したんだ?」


 皆も俺と同じように驚いて、井澤を質問攻めにする。井澤は締りのない顔ででれっと笑って答える。


「大学の時から付き合ってた彼女で……デキちゃって、結婚することにしたんだ」


 幸せです、そんなオーラが漂ってくる満面の笑みで井澤が言う。


「おおー、デキ婚か!」


「井澤、お前、馬っ鹿だな~」


「思い切ったな……」


 まだまだ先の話だと思ってた「結婚」、人生の第二ステージに一足早く進んだ井澤に驚愕と憧憬の眼差しを向ける。


「まあ、デキたって聞いた時はビビったけど、結婚してみるといいぜ! 仕事終えて家に帰るとさ、かわいい奥さんが家で待っててくれるんだぜ?」


 ニヤニヤと井澤が言う。そこから一気に恋人の話題へ移り、お互いの彼女の自慢話や、最近行ったデートの話などで盛り上がる。

 俺は一人、話題に乗り遅れ……というか、自分の恋愛についてあれこれ話すのは苦手だし、いまの恋は人様に話せるような面白い話ではない。自分は話すつもりはないのに、相手の恋愛トークだけを聞くのは気が進まず、酒を飲むペースを上げ、ひたすら酒を胃に流し込んだ。

 一通り、自分の恋愛トークを繰り広げた原が。


「ずっと黙ってるけど、お前はどうなんだよ~?」


 かなり出来上がった原は、ふらっと俺の肩に腕をまわして聞いてくる。


「紅谷はー、大学時代モテモテだったのにー、浮いた話きかないよなぁー」


 相づちを求められた三谷が頷く。


「そうそう! 学科の数少ない女子の大半は紅谷を見て顔を赤くしてたのに!」


 三谷がホントかウソかわからないようなことを力強く言って、ビールを一気飲みして空のジョッキを机にドンっと置いた。


「どうなんだよっ! 彼女、いるのか? いるなら、彼女の友達でいいからしょうかいしてくれぇ~」


 そう言って泣きながら抱きつこうとした原を避け。


「いや、俺、彼女いないから。紹介できなくてごめん。ちょっと、酔ったみたいだから、便所行って来る」


 そう言って、そそくさと立ちあがり、部屋を出る。


「紅谷ぁー! お前、がぶがぶ水みたいに酒飲んで、ぜんぜん酔ってないくせにっ!」


 閉めた扉の中から、そうとう酔ってると思われる原が、酔ってるとは思えないような洞察力でわめいていたけど……無視、無視!

 ぴしゃんっ、と扉を閉め、トイレに向かう。

 遺伝なのか、両親、歳の離れた姉、もちろん俺も例外でなく皆酒には強い。原の言う通り少し飲みすぎたとは思うが、足はふらついていないし、顔も赤くないだろう。今の俺を見た人は十人中十人が酒を飲んでるとは思わないはずだ。

 ただ、少し頭がずきずきと痛み、眉間に皺を寄せる。慣れない恋愛トークに付き合ったせいだ、と嘆息をもらした。




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