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恋をあきらめたその時は・・・  作者: 滝沢美月
続編『きっと恋が始まる、その瞬間』
20/71

第3話  動き出す希望 <紅谷side>



 自分の気持ちに正直になると決めて、数日で失恋するかと思ったが、佐倉の電話の内容は予想外のものだった。

 梅田に会った時にも思ったし、佐倉の話を聞いた限り、梅田も少しは佐倉に好意を持っているのではないかと思っていた。

 だから、二人が再会したら、付き合いだすだろうと予想していたのだが……

 佐倉は、恋を諦めたと言った!

 それはつまり――俺は、この恋を、もう少し頑張ってもいいのかもしれない――ということ。



  ※



 俺はこんなこと聞いていいのかと戸惑いがちに、しかし、僅かに胸に光る希望を確実な物にするために言葉にする。


「もう、蘇芳のことは……好きじゃないの?」


 そう聞くと、佐倉は、とても明るい声で言い切った。


『はい、もう、すっきりと、失恋から立ち直りました』


「そうなんだ……」


 俺は、胸の内にふつふつとわき上がる不謹慎な喜びを隠すように、極力冷静な声で務める。

 佐倉は失恋から、立ち直ったと言った!

 今までは、自分の置かれた状況もあったし、佐倉が他の男に気持ちが向いていて、ただ見守るだけで良かったが、佐倉がもう梅田に恋していないのなら……頑張って俺を好きになってもらいたい、そのための行動を起こして、佐倉の心を求めることは許されるだろうか――



 すると佐倉が。


『私が立ち直れたのは、紅谷さんのおかげですよ。本当にありがとうございます!』


 そんなことを言うから、俺は自然、頬が緩んでにやけてしまった。

 夕方の公園のベンチでスーツ姿の男がニヤついて座っていたら、かなり不審だろう……

 それでも、俺は頬の緩みをどうすることもできなくて。


「なんだか、前にもその言葉聞いた気がするな」


 居酒屋でのことを思い出して、くすっと、胸の高鳴りのまま笑う。


『えっと、そうでしたか?』


 佐倉は、少しかすれた声で言う。きっと、本当に覚えていないのだろう。


「覚えてない? どうせ褒めてくれるなら、もっと別の言葉がほしいって言ったこと」


 そう言うと、受話器の向こうでうーんと唸る声が聞こえる。

 こんな遠回しな言い方では、俺の気持ちには気づかないだろうか?

 佐倉にはもう少し直接的な言葉で伝えた方がいいかな?

 恋をするのに今は、自分にも、佐倉にも、何ににも遠慮することがないと思うと、気分が大胆になる。


「わからない? それなら違う言い方をしようか?」


 すると、恐々といった様子で、佐倉の小さな声が聞こえる。


『……紅谷さん? えっと、なんだか怖いので、遠慮しておきます……』


 怖い?

 俺はくすりと笑って。


「そう? まあ、いいか。次の機会には、嫌と言うほどたっぷりと教えてあげるよ」


 そう言った。

 時間はこれからたっぷりとあるのだからな。

 俺がどれだけ佐倉を好きで、どんな気持ちで見守っていたか、嫌というほど、わからせてやるさ。

 そう思って、不敵な笑みがもれる。



『えっと、それよりも……そうだ! 何かお礼をさせて下さい!』


 おそらく、話をそらそうと佐倉は思ったのだろう。だから俺はあえて、そうはさせまいと言う。


「お礼? それなら、もっと別の褒め言葉が聞きたいな」


 そう言うと、佐倉はなにかよく分からなことを口走って、電話は切れてしまった……



  ※



 切れてしまった電話を見て、苦笑する。少しからかいすぎてしまっただろうか――

 それでもきっと、佐倉は俺の気持ちに一ミリも気づいていないだろう。

 まあ、それでもいいさ。

 これから少しずつ、佐倉との距離を縮めていこう。



 この数年間、恋に無気力だった俺。

 いざ気持ちを切り替えると、今まで使っていなかった恋のエネルギーがどんどんと湧き上がり体にみなぎる。

 俺は誰にも気づかれない様に不敵に微笑み、夜の公園を後にした。




続編第1話~3話は、

本編のすぐ後の佐倉と紅谷の電話の様子でした。

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