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恋をあきらめたその時は・・・  作者: 滝沢美月
続編『きっと恋が始まる、その瞬間』
19/71

第2話  ドギマギ <佐倉side>



 私は蘇芳さんに会いに言ったその日に、紅谷さんに報告の電話をかけた。

 紅谷さんとはたまにメールをするものの、自分から電話をかけるのは初めてだったので、少し緊張する。

 それでも、何度も相談に乗ってもらって、あんなに心配してくれた紅谷さんに、メールで報告を済ますのは気が引けて、電話をすることにしたのだった。



 夕方だったけど、もしかしたら仕事中かな……そう思っていたが、大丈夫だったみたい。

 蘇芳さんに気持ちを伝えた時は、気持ちがあふれて泣いてしまったけど、今思えば、もう少し前に、恋を諦める準備は出来ていたのだ。それでも、どこか踏ん切りがつかなかったのは――彼に気持ちを伝えてなかったからで――そんな私の背中を優しく押してくれたのがほかならぬ紅谷さんで、ちゃんとお礼を言わなければと思っていた。

 私は朗らかな気持ちで言う。


「ようやく、この恋を諦めることができました。気持ちをふっきると、なんとも清々しい気分になりますね」


 ふふふっと、自然と笑いが込み上げてくる。

 しかし、いくら待っても紅谷さんの声は聞こえなくて、どうしたのだろうと思う。


「もしもし、紅谷さん? 聞こえてますか……?」


『あっ、ああ。聞いてるよ』


 そう言った紅谷さんの声は少し上擦っていて、私は首をかしげる。


「あの、私、本当に紅谷さんには感謝してるんですよ? いっつも優しくして頂いて、相談にもたくさんのって頂いて……」


 喋っていると、なんだか胸がぽかぽかとし、緊張する。


「言葉には表せないくらい、感謝してます!」


 少しの沈黙の後、戸惑いがちな紅谷さんの声が聞こえる。


『もう、蘇芳のことは……好きじゃないの?』


 きっと私に配慮して、そんな心配そうな声を出しているのだろう。私は、めいっぱい明るい声で答える。


「はい、もう、すっきりと、失恋から立ち直りました」


『そうなんだ……』


 私は元気いっぱいなのに、なぜか紅谷さんの声がどんどん沈んでいくような……気のせいかしら?

 私は紅谷さんに元気を出してほしくて、言った。


「私が立ち直れたのは、紅谷さんのおかげですよ。本当にありがとうございます!」


 そう言うと受話器のむこうから、くすっと、魅惑的な笑い声が聞こえて、ドギマギする。

 紅谷さんって、こんな笑い方する人だったかしら……

 知らず、冷や汗が伝い、どんどん鼓動が速くなって、私は胸に手を当てて首を傾げた。


『なんだか、前にもその言葉聞いた気がするな』


 そう言って、紅谷さんが苦笑する声が聞こえる。受話器を通して聴く紅谷さんの声は、いつもより少し低くて、耳がくすぐったく感じる。

 うぅ……、私、なんだか、電話って苦手だわ。


「えっと、そうでしたか?」


 私は、緊張しながらなんとかそう言葉にする。


『覚えてない? どうせ褒めてくれるなら、もっと別の言葉がほしいって言ったこと』


 確かにそんな会話をしたな、と思い出す。だけど、紅谷さんが他に言ってほしい言葉ってなんなのかしら?

 私にはさっぱり見当もつかなくて、首をひねる。

 うーん……

 私がしばらく黙りこんでると、紅谷さんが今度は、とても不敵な声でくすっと笑うから、心臓が飛び跳ねて、ビックリ!


『わからない? それなら違う言い方をしようか?』


 その声があまりにも挑戦的で、私は恐る恐る声をかける。


「……紅谷さん? えっと、なんだか怖いので、遠慮しておきます……」


 すると、またあの魅惑的な声でくすりと笑って。


『そう? まあ、いいか。次の機会には、嫌と言うほどたっぷりと教えてあげるよ』


 私はもう、頭の中で花火が上がっているのかというくらい、呆然として……

 なっ、なんか、今日の紅谷さん、色っぽすぎる……

 心臓がバクバクいって、どうにかなっちゃいそう!


「えっと、それよりも……そうだ! 何かお礼をさせて下さい!」


 何か話をそらせないかと思って、思いついたことを勢いよく言ったのだけど……墓穴だった。


『お礼? それなら、もっと別の褒め言葉が聞きたいな』


 紅谷さんったら、そう言うのだもの。その話からそらすことができたと思ったら、一周回って結局もとの話……

 私はドギマギする心臓を押さえる。

 なんなのかしら、この気持ち。

 前にもこんな気持ちになった気がするけど……うぅ、思いだせない。

 このまま紅谷さんと話していたら、私の心臓が持ちそうになくて、適当に話を終わらせて、電話を切ってしまった。



 電話を切った後ものぼせたようにぼーっとして、握ったままの携帯を眺める。

ふっと鏡に映った自分の顔を見ると真っ赤で、それを見て、ボボボッとさらに顔が赤くなってしまった。



 私、なんでこんなにドキドキしてるんだろう……?




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