63話 不用品回収、これ正規料金ではありませんね?(前)
以前、双子の父親であるリベリオは、二人を試すような依頼をしたことがあった。その結果、双子はかなりの迷惑を被ることになったため、バルドルは父親に新しいベッドを要求した。
それから、数カ月後。
注文していたベッドがようやくグランフェルト邸に届いた。
早速横になってみたバルドルは、満足げな表情を浮かべていた。
「新しいベッドの寝心地はいかがですか?」
「悪くねぇよ。やっぱりいい値段のやつはマットレスがしっかりしてるよ」
「それは良かったです。では、古いベッドは処分しましょう」
「まあ、いつまでも部屋にベッド二つもいらねぇからな」
カインは古いベッドを眺めながら、処分方法を考えた。
「不用品回収業者を呼びましょうか」
「ベッド一個だけで呼ぶのか?」
「いえ、私の部屋の本棚が少々古くなっていますので、新しいものに買い替えようと思います。本も少し処分します」
カインの部屋には、長年使っている本棚が並んでいた。
本を大量に収納しているせいか、棚板の一部には少し歪みも出ていた。
まだ、使えないわけではないが、新しい本棚を買うついでに処分してしまうことにした。
「あー、俺も使ってない料理本が結構あるな。邪魔な食器も少し引き取ってもらうか」
バルドルの部屋には、以前料理を覚えるために買った本が何冊も置かれていた。
しかし最近は、料理をするときは決まった本ばかり使っていた。
使っていない食器も含めば、それなりの量になる。
「でしたら、まとめて業者に頼みましょう」
「そんな業者ってすぐに来るのか?」
カインは以前届いた手紙を思い出した。
「先日、新聞に不用品回収業者の広告が載っていたんですよ。連絡すれば、すぐに来てくれるそうです」
そこには、大きく『不用品回収、最安値で承ります』と書かれていた。
家具や家電だけでなく、本や食器なども回収すると書かれていた。
ちょうどいい業者だと思った。
「そっか……。今のうちに部屋片付けるか」
こうして、双子は家の中を掃除し始めた。
とはいえ、普段からシャロンが掃除してくれているため、家の中に目立った汚れはなかった。
カインは自分の部屋にある本棚から、古くなった本や長い間読んでいない本を取り出していく。
バルドルも自分の部屋から使っていない料理本を運び出し、さらに食器棚の中を確認していった。
「これは使ってないな」
「それはまだ使うでしょう」
「そうか?」
「先月、貴方が使っていました」
「……よく覚えてるな」
「記憶力はいいので」
そんな会話をしながら、二人は不要なものを一つずつ選別していく。
しばらくすると、処分する家具や本、食器、衣類が居間の一角にまとめられた。
「結構あるな」
カインは積み上げられた不用品を眺めた。
「ええ、これなら一度に回収してもらえそうですね」
カインは不用品回収業者の新聞広告の切り抜きを手に取った。
そこには大きな文字で、こう書かれていた。
『どんな不用品でも、格安で回収します!』
「……最安値、ですか」
☆ ☆
数日後、不用品回収業者が来る日になった。
この日はシャロンも立ち会うことになった。
グランフェルト邸にはシャロンの私物も置かれているため、せっかくなら不要になったものがないか確認し、あれば一緒に回収してもらうことにしたのだ。
「シャロンは普段から物を大切にするから、あまり不用品はないな」
「いえいえ、そんなことありません。探してみれば、使っていないものも少しはありますよ」
三人で家の中を見て回っていると、玄関の扉が叩かれた。
「不用品回収に伺いました」
「来たようですね」
カインが玄関へ向かい、業者を中へ招き入れる。
「こちらが回収していただきたいものです。二階にベッドがあります」
「分かりました。では、まず回収品の数を確認しますね」
「数ですか?」
「はい。当社は回収品の数で料金を決めています」
「……へえ、そうですか」
カインは笑顔のままだった。
しかし、その声が妙に低くなったことに、バルドルとシャロンは気づいた。
二人は顔を見合わせた。
「バルドル様、あれって……」
「……今回はカインにすべて任せよう。俺たちは隅でトランプでもしようぜ」
「わ、分かりました」
二人は余計なことを言わず、居間のソファーへ移動した。
やがて、バルドルとシャロンはテーブルにトランプを広げ始めた。
一方、カインは業者のすぐそばについて、回収品を一つずつ確認する様子を黙って眺めている。
業者が家具や本、食器などを確認していく。
「こちらの本棚は一つですね」
「はい」
「椅子が二脚」
「はい」
「食器が十数点……」
「ええ」
業者は手元の紙に何かを書き込んでいく。
そして二階へ向かい、バルドルの古いベッドを確認した。
「こちらのベッドは、後日引き取らせていただきます」
「なぜですか? 事前に、ベッドが二階にあることは伝えてありますよ」
「申し訳ありません。本日は僕一人しか従業員がおりませんので」
「……なるほど」
カインと業者は居間へ戻った。
業者は悪びれた様子もなく、淡々と説明を続ける。
「本日はこちらの回収品だけ持って帰ります」
「ベッドは?」
「別の日に改めて作業員を手配します。その場合、人件費や運送費、処分費用などがかかります」
「いくらですか?」
「すべて込みで、三十万になります」
「……ほう」
カインの笑顔が少しだけ深くなった。
居間のソファーでは、シャロンがカードを一枚めくる。
「バルドル様、カイン様怒ってますね」
「見なくていい」
「でも……」
「今のカインには近づかないほうがいい。変に巻き込まれるぞ」
「分かりました。トランプに集中します」
二人は何事もなかったかのように、再びトランプへ視線を戻した。
その間にも、業者は話を続けていた。
「もちろん、三十万という金額が嫌でしたら、今回は断っていただいても構いません」
「そうですか」
「ただし、本日こちらまで来た出張代と見積もり代は、お支払いいただきます」
「おいくらですか?」
「五万です」
「……なるほど」
カインは業者の持っている見積書へ視線を落とした。
そこには、細かな料金がいくつも書かれていた。
カインはそれを一つずつ確認する。
「出張代が二万、見積もり代が三万。合わせて五万、ですか」
「そういうことです」
「では、少し確認してもよろしいですか?」
「もちろんです」
カインは見積書を手に取った。
紙には、回収する品目と、それぞれにかかる料金が細かく記載されている。
カインは一つずつ目を通していった。
そのとき、居間からバルドルの声が聞こえた。
「シャロン、今のうちに俺たちができるだけ遠くにいたほうがいいんじゃないか?」
「……そうですね」
二人は目を合わせると、何事もなかったかのようにトランプへ視線を戻した。
そして、カインと業者だけが玄関近くに残った。
「まず、新聞に掲載された広告には、そのような出張代や見積もり代に関する記述がありませんでしたよ」
「おかしいですね。ここに書かれていますよ」
業者は新聞広告の一部分を指差した。
そこには確かに、出張代や見積もり代についての記載があった。
ただし、その部分は本当に米粒ほどの大きさだった。
普通に読むなら、虫眼鏡でも持ってこなければ気づかないほどである。
カインはしばらくその文字を眺めた。
「……なるほど」
「ですから、きちんと記載してあります」
「確かに書いてありますね」
カインは穏やかに頷いた。
「これは消費者が容易に確認できる大きさではありません。これでは、料金が発生することを意図的に分かりにくくしているように見えます」
「お客様のように反論したくなるお気持ちは分かります」
業者は慣れた様子で笑った。
「ですが、僕たちは会社の指示でこちらへ来ています。料金についても、会社が決めたものですから」
「そうですか」
「それに、よろしければ今回は初回サービスということで、お安くさせていただきますよ」
「初回サービスですか……」
カインは一瞬だけ黙った。
そして――。
パンッ。
両手を軽く叩いた。
「シャロンさん、少しいいですか」
「は、はい!」
突然呼ばれたシャロンが、慌てて立ち上がる。
カインはシャロンに耳打ちして、新聞広告を渡した。シャロンは、真剣な表情で頷いた。
「かしこまりました。バルドル様と一緒に行ってまいります」
「頼みましたよ」
シャロンはトランプを片付けると、バルドルとともに玄関へ向かった。
業者が不思議そうに尋ねる。
「おや、どちらへ?」
「買い物ですよ。夕飯の準備をしないといけませんからね」
「……そうですか」
「ええ。お気になさらず」
バルドルとシャロンは、何も言わずに家を出ていった。
カインは業者へ向き直って、先ほどまでと変わらない笑顔を浮かべている。
「では、続きをしましょうか」
「……はい?」
「初回サービスについて、詳しくお聞かせください」
カインは見積書を机の上に置いた。
「せっかくですから、貴方の会社の料金体系を最初から確認しておきましょう」
業者の笑顔が、ほんの少しだけ引きつった。




