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作戦会議とアリィの悪評

 勇者長バァン。魔王を倒し歴史にその名を刻んだ勇者である。


 その魔王を倒した功績により王から勇者達を統べる初代長官となり、現在は魔王の残党を討伐する戦いの最高責任者である。


 かつてはスマートな体型であったがここ数年の平和の時代のせいというかおかげ様でか現在では丸々とした中年男性になってしまっている。最前線から身を引き引退した男なら30半ばも過ぎ40にもなればこうなるのも自然といったところか。


「おっ来たか勇者ロニにそして……」


「私は魔術師のナキです。お会いできて光栄です」


「お久しぶりです勇者長バァン。このナキは我が勇者隊の指揮官を実質的に務めておりましてここにお連れいたしました。彼はここにくる以前は勇者アリィの隊を実質的に指揮しており、その実力はたしかなものです」


「むっ! あのアリィの隊を指揮していたのは君だったのか!」


 バァンは驚きながらこちらの顔を見つめた。私は緊張する。この人は勇者アリィとは犬猿の仲なのだ。勇者アリィがいつも言っていた魔王を倒す手柄を横取りしたという例の相手こそが彼なのだ。


「ふぅ……だが、いまはここにいるのか」


 バァンは息を吐きながら呟いた。考えていることが私には分かった。お前もやめたわけか、と。それは違うと言わなければならない。


「いえ、私は自分から辞めたのではなく追放されたわけでして」


「なんだと! あいつが自分から追い出しただって!?」


「それってなにか驚くことなのかな?」


 ロニが首を傾げる姿を見ながら私は思う。ああなるほど、それってもしかして……


「勇者アリィは自分から辞めろと言ったことが今まで無い……」


「それだよナキよ。あいつは自分から辞めろとは言わない自主的に去らせるのだ」


 バァンが言った。


「それって嫌がらせといったハラスメントをして追い出すということ?」


「そうだよ勇者ロニ。あいつにとって追い出しも勝負なんだ。自分から辞めさせるというのは敗北であり、あっちが辞めるのが勝利なんだ。そのためにはあらゆる嫌がらせを行う」


「最低……なんだか内情が噂以上にキツイ勇者様だこと。僕も会議とかで遠目でだけど何度か見ていたけどキツそうな人だったよね。ナキ君もよく耐えてきたものね。だから早く辞めればよかったんだよ」


「……バァン様。するとあの人が自分から追い出したということは今まで無かったことですか?」


「俺の記憶では無いなぁ。俺はあいつと同じ隊にいたがそういったことは一度も無かった。自分から逃げ出すのを待つまで戦うのがあれだ。だから君を追い出したのは相当のことがあってのことだろう。けど、まぁ、その件に関してはこちらからは聞きはしないよ。この件とは無関係だし、君とあいつとのことだ。だいたい俺はあいつとはもうずっと口を利いてはいない。敵になっているからな。それにしてもよくあの環境で耐えられたものだ」


「10年は共にいましたからなぁ」


「10年とは信じられないなぁ。俺だって3年は同僚だったがそれで限界だったし他のものもそうだろう。だが君は10年もいたとか、もしかしたら追放はそういうところにも理由があったかもしれないな」


「そうかもしれませんね……」


「えっ? どういうこと? なにそれ変なの。ただの他人と関係性を築くのが下手すぎる不快で不器用な人の話じゃない。僕ならそういう人が間違えて同僚になったらすぐに辞めさせちゃうなぁ。絶対にうちとは合わないし」


 私とバァンとの謎の阿吽の呼吸に彼女は戸惑うのを見て私は苦笑いする。そうだなこの異常な会話は本当にそうだ。あんなに変な人もそうそういない。


「では本題に入ろうか。次の作戦はもしかしたら戦いの一区切りになるかもしれない」


「もしかして魔王の娘が! そんな痕跡が最近発見されたとは聞いていましたけれど」


 ロニの言葉にバァンは頷いた。


「魔力探知を行ったところその可能性が極めて高いとのことだ。魔王城で取り逃した際に感じ取った魔力の波と数値と一致するものが発見された。魔王の血族のうちの一人。これを捕えればこの地域全体での討伐はほぼ完了するだろう」


「まさかこの地区に潜んでいたとはね。皮肉なことだ、あれを取り逃した僕のところにいるとはさ」


「たしか戦闘能力については未知数なのようだね」


「僕自身は戦闘していないがどうやらあまり得意ではない。ただ魔王の娘は人を操る能力に長けているようだね。僕の夫はそのせいで操られよりによってこの僕と戦うこととなり結果的に取り逃してしまった。彼からあとで聞くもその時のことはなにも覚えていないとのことで。この件は夫がただの間抜けなら大した話ではないけど、彼は一級の魔法剣士でありそういった魔法への耐性は人一倍強いんだ。操作魔法にかかったのは生涯でただ一度のあの際のものなんだ。かなり強烈なもので流石は魔王の娘といったところになるね」


「君は皮肉と言ったが俺はかえって話が都合が良くなったと思う。敵は精神系の強力な魔法を駆使するのを分かっているからこそロニ隊は最適だ。ここは操作系の魔法に対する対策が全国でも随一だ」


「はい、勇者長。二度目の失態はありません。我が隊は万全の準備をし次の戦闘では確実に敵の操作に掛からず必ずや仕留めてみせます。もしもあの時のことで我が隊を甘く見て、ここに潜んでいるとしたらそのふざけた思惑を後悔させてみせます」


「その心意気やよし。それと応援として両隣の地区の勇者隊も支援も要請しようと思っている」


「するとあのアリィの部隊も! 彼を用いて大丈夫なのですか?」


「ロニ、そこは安心してくれ。あの人はそういった精神系の魔法は掛からない。本当に利かないんだ」


 これは私の言葉。


「あれは思い込みが激しいからな……始めから自己マインドコントロールをしているようなものだ」


 そしてこれはバァンの言葉。


「うーん、まぁいいのですが、でもナキ君は良いの? 自分を追放した人と一緒に戦うわけだけど?」


「私は別に構わない。問題はあの人がどう考えるかだ。それに私としては勇者アリィは魔王の娘打倒という最後の栄誉を心から欲しがっていたことを知っている。私がいるから参加しないはずもないし、こちらから参加を断る話ではない」


「魔王を倒せなかった代償だな……功に焦って妙なことをしなければいいが」


「そこはあの人としてはいつも通りですよ。いかなる時でも妙なことしかしない。想像の斜め上に向かっていく」


「たしかに、な。まともなことをした試しはなかったな」


 私たち二人の会話を聴いてロニは苦笑いした。


「変に息が合って面白いですね。二人は面白げですが僕はあの人はあまり関わりたくはないなぁ。そんな自分勝手で人の話を聞かないとか人として下の下よ。とてもじゃないけど一緒に戦えないね。苦労したんだなぁ、ナキ君はこの隊に来て良かったでしょ?」


 彼女に尋ねられ私は考えた。ああ、そうだともと。


「もちろん良かったですよ。環境も良いしみんな良い人だし」


「でもちょっとノリがついていけないところもあるでしょ?」


「正直言うとね。ここはとても良いところだ。けど、ね」


「うん? けどってなに? 深刻な不満でもあるの?」


「いや、それは……わからない」


 そう、ここには何かが欠けている感覚があった。決定的なものが……ここには無いんだ。

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