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新しく明るい職場

 戦闘が終了しそのあと事務所にて隊員たちとの反省会が行われた。


「ナキのサポートのおかげで今日は快勝だったよ」


「どうもありがとう。君の勘もとても冴えていたな。あの一撃はよかった、補助した甲斐があったよ」


 青年剣士の言葉に私はそう答えた。


「ナキさんありがとう。今日一つも怪我をしなかったのもあなたのおかげよ」

「それは良かった。君の日々の回避の鍛錬と私の補助魔法に加わり今回の成果に繋がったのだろうね」


 これも戦闘後の他の魔術師の感謝への返事である。そこにはお互いに敬意を表明するという礼儀作法にも似たものがあった。


 人は決して自分だけの力で上手くいったり勝ったと思ってはならない。誰かの補助があったからこそ上手くいくし勝てるものなのだ。


 それは補助する側も同じである。自分の補助で勝てたとは絶対に思ってはならない。これは謙遜ではなく事実として私は感謝は受け取りつつも相手を讃えることにしていた。


 互いに一方的ではなく、相手の感謝をきちんと受け取ることは相手のためでもあるし自分のためでもあるのだ。


 私は能力をサポート出来るが元がちゃんとしていない活かせないということ。本当に独力で勝てた場合は運が良かったかまたは神の御蔭と思わないとならない。


 こんなことを思うとあの人の言葉を思い出す。


「誰のおかげで勝てたと思っているんだ! おい言ってみろ! 俺だろ? 俺の名前を言ってみろ!」


 口癖であり第一声である。彼から感謝の言葉は一度も聞いたことが無い。褒め言葉もお詫びも謝罪も、ない。子供の頃に教わったことが無いのかもしれない。


 あるのは自分への賛美と相手の否定、それだけでだった。そうするだけの力と使命感があの頃の彼にはあった。


 しかしすべては過去形である。


 あの後……私は追放後に知り合いのいる隣の地区の勇者隊へと挨拶に赴き入隊を希望した。そうしたらすぐに話が通った。


「そうか……ついに、か」


 勇者アリィのところから出た理由は一切尋ねられずそのまま採用。


 考えてみると生まれてはじめての転職になるが、翌日にまず驚いたのは新しい職場の雰囲気の明るさだった。


 それは照明の問題ではなく人の機嫌の問題である。つまり不機嫌さが表には出ていないのである。誰も機嫌で他のものを動かそうとせずに言葉やルールといったシステムで動いている。


 そうであるから会話があるのだ。それは上意下達な上から下への一方的な会話というか命令ではなく、上下または左右に言葉が交わされるのである。


 そう、ここでは下から意見を言っても良いのだ。勇者アリィの職場では下からの意見は中間の私を通して伝えられた。誰もあれに意見などしたくはないのだ。


 そうであるから下からの意見は全て私からの意見となり、そしてそのことを理解しているのか理解していないのか不明だが、彼の不機嫌や憎しみが私に集中していたわけである。


 それがここには、ない。なんという平和でありなんという秩序だろう。誰がどんな仕事をしているのかが分かり、誰が何をしているのが分かっている。いつも誰かの心を察して動かないとならないのとは大違いだ。


「これをやってくれ」と注文できるコミュニケーション。


「なんで気づかねぇんだよ。気が利かねぇな!」という察して超能力も求められず「言われてないけどこれをやるか」からの「なんでやってんだよ!」という詰み式な哀しきコンボ技もない。


 これを喰らいまくると『言われなきゃ動かないマン』が自動的に生産され、それが俺の言う通りにやれという社風に合致し自分から動いたら負けな最悪の職場環境となってしまうのだ。


 ところがここは違う。効率的な動きを求めて動いている機械のような職場環境……理想郷だ。しかしだしかし、と私は意識を戻す。


 どのような理想な職場でも駄目なところがあり、要はそれに耐えられるかどうかが職場選びの肝なのだろう。


 例えばだ。どんなにホワイトな職場でもトイレが変な匂いがしたり落ち着かない場合は退職理由にもなろうし、どんなにブラックな職場でもトイレが清潔で心から落ち着ける場合は残り続けるということもあろう。まぁそんなことはないのだがこれはあくまでも例えだ。


 そういった意味でここの勇者隊の職場の引っ掛かりと言えば、少し明るすぎるところがある。隊員の年齢層も低くやる気のある若い男の子や若い女の子もいるのだ。


 彼らとのコミュニケ―ションが若干つらい。もうこちらはアラサーの28歳なのだ。彼らのような若さはない。


 若者たちの元気さは少々付き合いづらいし年上だからと気を遣われることににも妙なしんどさがある。悪気の無い健全な親切心に対して申し訳なさが先に働いてしまう。


 前のあの他に行き場のない吹き溜まりのようなものだらけな職場とはまるで違う。あの妙に弁えているかのような老人的な大人しさ。


 諦念により互いに没交渉的にならざるをえないが、こちらはではコミュニケーションを求められる。己の未来を諦めていない者たちによる光を当てられるしんどさというものだ。


 これが悩むところといったら贅沢になるのだろうか? いや、贅沢な悩みという概念は間違いだろう。


 たしかに私はいまそこが嫌だと思っているのだ。これは疑うことができない事実なのだ。基本的に嫌なことを嫌だと思うなは暴力そのものだ。


 例えれば豪華な料理にハエが一匹入っていたら不快だと思うことは何人たりとも否定してはならない。良いものを食っているんだからとか食べられない人がいるんだからというのは筋違いな指摘であろう。


 そういった意味で勇者アリィの隊の暗さや元気のなさは自分の気質に合っていたかもしれない。これがこの世になぜ劣悪な職場環境が存在しているかの理由である。案外そこが快適だと思うタイプもいるのだ。日陰こそ最適なタイプ。


 そしてこの世に何故あんなに良い職場環境なのに退職者が出るのかという理由である。快適さが辛いというタイプもいるのだ。それにほらよく聞くじゃないか。良い人だけど苦手だというとかすごく良い人なのにイヤだとか。あと言うならばこれは……その……どれだけ助けても尽くしても……結局は……邪魔な余計なおせ


「ナキ君、勇者長がお見えになったからちょっと来てくれない?」

「あっはい、行きます」


 声を掛けられたため私は思考を急停止させ彼女についていった。


 この地区の勇者はロニという女性であり魔術学校時代のひとつ上の先輩にあたる。仕事関係でも長年の付き合いであり、元気のある人だと私は会う度に思った。


 入隊を希望した日の彼女は会った瞬間に笑顔で迎えてくれた。


「ナキ君! ちょうどいい時に来てくれた。これで現場を安心して任せられるね!」


 こう言ったが早いか翌日にすぐさま休職結婚妊娠出産育休と彼女らしいハイペースでことを済ませていった。


「ロニ、ところでなんで私が勇者長と会うんだ?」


「だって君が実質的には勇者じゃないの。現場で指揮を執って戦っているのは僕ではなく君だしさ。だったら直接君がお話を聞いたほうが効率的で良いじゃない」


 ついでに言うと彼女の一人称は僕である。


「まぁそうだけど、でも実質的で願うよ。間違えても勇者の称号は与えないようにしてくれ」


「いやいやあげるつもりなんてないけどさ~そこまで言うのなら絶対にあげないようにするね。夫に譲ろうと思っていたんだけど、あの人ってほらちょっと勇者向けじゃないんだよ。自分はぐいぐい前に前に出たがるし、人からの指示を受けて行動したがるしで、僕はこれじゃ指揮官としては不安なんだ。ほら勇者って少し引いたところから全体を見て指揮を執る方が隊としてはいいじゃないの。君っていつもそれを自然にそうやっていたから、僕と一緒のタイプでこれはうちにはうってつけのタイプだから良かったよ」


 いいや違うと私はいつものように思った。


「僕も勇者という責任ある立場だからさ現場を放り出して結婚して子育てとか取りにくくてね。休む間に夫に任せてもしもそれで大きな被害が出たら……となると躊躇してしまってね。だからキミは僕の恩人といっても過言ではないよ。よっ実質的勇者様!」


「ロニはそう言うが、私としてはその勇者像は反対だな。勇者こそ前に前に出ないとならないんだ」


「まっそこは見てきた勇者像の相違だね。うちの前任勇者はそういうスタイルだったから僕もそうなったんだ。君もここに来れば実際と理想が重なってやりやすかったんじゃないのかな?」


「それは……どうかな。無いと思うがね」


「おっそろそろ着くね。さて勇者長のお話はなんでしょうね?」

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