追放の日のこと
勇者アリィを慕うものはいない。どこにも、いない。
私はそんな人を知らない。だからいないのだ。
いたとしても入隊し彼と一緒にいるとそのうちに隊を辞めてアンチになる。『こんな人だとは思わなかった!』これが彼への典型的な評価であり、『なんて嫌なやつだ!』これが彼の一般的な反応である。
私は彼が人から愛されていないことを知っている。
「人に好かれるような男はダサいんだよ」
という心情そのままに積極的に人に嫌われることばかりをしていた。まるで悪態の突き合いこそ友情であるかのように。
始めは良くても誰もが次第に付き合いきれなくなり喧嘩別れになるのが常であった。彼との付き合いは破局というゴールしかない。
しかし私はそういうノリは全く興味が無かったので無視していたが、その点も彼からの不興を買ったのだろう。
だいたいもともとが人の上に立つような人間ではないのだ。人への指揮もテキトーであり思い付きでいつも何かを変なことを言って人を混乱させていた。
「なんでこんなことも分からないの? 教えて欲しい? 自分で考えろアホ」
自分の心を察して欲しいが上手く説明もできず、そのくせ余計な一言が多くそのせいで人が寄り付かなくても、彼はそれはそれでそれに満足もしていた。
「男は孤独で良いんだよ。孤高って言葉は俺のためにあるようなもんだ。それが強さの源だ」
そんなことをうそぶいていた。一人で気ままに戦っているのはいいが、それでは後ろがたまらない。
強かった頃はそれで良かったが今の隊のままだと上手く戦うことができなくなる。ということで私は新たに前科(上官暴行)はあるものの優秀な戦士ルッサを雇い前列に置き、彼の伝手を頼りに何人かの戦士を雇いなんとか崩れかけていた隊を建て直し戦闘力を確保していた。
そして勇者アリィには気づかれないようにこっそり補助魔法を掛けることで、その急激な衰えに対処することとした。
もともと勇者アリィは自分のことしか考えないし、自分以外の他人には興味が無いタイプであり、それに加えて怪我によりこれまで以上に自分以外のことについて考える余裕のなさも拍車をかけ、更に更に彼は自分のことで頭が一杯状態であった。
その隙を狙うのだ。
これは他の隊員との協力とそして秘密であるということにして、戦闘前に掛けられるタイミングを図りそれを行った。
掛けるタイミングによって効果は変わるし時間にランダム性もあるが、それでも掛けないと掛けるとでは効果は大違いである。
「チッ今日は調子が悪かったな」
それでもいくら上手く掛けても結局は全盛期には及ぶはずもなく彼はいつも不満そうだった。彼にとっての基準がかつての自分というそこであるのなら、援護をしても結局は不満や嘆きのその一言で片づけられてしまう。
しかも本人は支援や補助を受けた自覚すらない。期待はしていないが感謝もなかった。
まぁそれが勇者アリィであり私はその傲慢不遜について熟知していたからなんとも思わなかったが、周りはそうではない。
「なんなんすかねあいつ」
そんな勇者アリィの態度に反感を抱く隊員が一部で現れ出した。途中入隊の彼らは弱体化した後の勇者アリィしか知らない。
彼らの目には弱くて介護を受けているような状態の癖になんだその態度はというのと、以前を少し知っている隊員は日に日に酷くなっていく虚勢も混じった大きな態度に苛ついていた。
「期限付きの仕事だと思ってどうか堪えてくれ」
私にはそう言うしかなかったが実際に大半の隊員は期限まで我慢してくれた。実質的な現場の指揮官は私なのだ。
この中間管理職の私がみんなの感情も調整すれば済む話である。私はそれに慣れているのである意味でストレスが無いのだ。
魔王軍の残党討伐も順調に進んでおり、このままいけば来年には最大の山場である魔王の娘も討伐している可能性が高い。
そこまで持ちこたえればいいのだ。それを成し遂げたら勇者アリィの使命も一段落をし彼の人生も完成するのだろう。休みを取りその後に新しい何かが始まるはずだ。
けど、そうはならなかった。残念ながら私の計画はとん挫した。
「おい……お前は俺に補助魔法を使っているみたいだな」
ある日、事務所で二人きりの際に血走った目をした勇者アリィが私に詰め寄った。
「……それはその」
「誤魔化すな! 隊員がそんな話をしていたぞ! なに余計なことをしてんだごらぁ!」
「……はい、補助魔法をかけていました。そうであるからあなたは戦闘が出来まして」
「恩着せがましいことをいうんじゃねぇぞ! なにが補助魔法だ! 補助なんかいらねぇしあんな半端な効果しかないなんていらねぇんだよ!」
「しかしそれがなければあなたは今日だって」
「なんだその上から目線な言い方は! いいか? ハンパだったらいらねぇんだよ! こういうのはなやるからには元に戻らなきゃ意味が無いんだ! 補助魔法をかけて半分程度しか戻らないなら、そんなの0点と一緒でいらないんだよ! やるんなら元に戻すぐらいの100点をやれ! それができないからお前は駄目なんだ! 役立たずのクズなんだよ! 中途半端ならやるな!」
「それを言いましたらいまのあなたは元には戻れず0なんですよ。真ん中ぐらいで満足するべきです」
「テメェ今なんつった! 0だったら上等じゃねぇか! だったら討ち死にでいいよ。弱い奴は死ぬのが自然なんだよ! 俺はそうやって生きてきたんだよ! テメェに延命してもらいたかねぇし俺の人生の邪魔をすんな! それにこのクソ補助魔法のせいで俺の気合いが邪魔された可能性もあるしよ。そうしたら100に戻れたかもしれなかったのによ! 本当にお前は昔っから余計なことしかしねぇよな! なんなんだよお前はおい? なんなんだよ!! たまにはまともなことをしろ! 」
「勇者アリィ、現実を見てください、あなたはもう以前の力に戻れないのです。そうであるからあとは私に任せて……」
「もういい! もういい! もういい! 出てけ! お前は首だ、そうだお前は追放だ!」
その後の展開は始めに話した通りだ。かくして私と彼の10年にも及ぶ関係はここで一時途切れた。
そう、一時途切れたが、再び結ばれる時が来る。それが、この先のことだ。




