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補助魔法を拒否する

 身体を壊しながら暴走する勇者アリィを止める者はいなかった。自分自身ですら止められずに走り続け姿勢が崩れそして坂道を転がり落ちていくのをどうすれば良い? 


 使命感のみの存在に対して何をすればいいのだ?


 勇者アリィは意外なことに……というか逆に彼のようなキャラなら既婚者でも不思議でもなかったか。なんでこんな男に妻と子が? は普通に成立する。なんでこの女にこんな素敵な旦那様と同じぐらいに有り得る。


 とにかくその妻君に夫の破れかぶれを止めるように依頼するも返事は芳しいものではなかった。


「無理ですよ。あの人は私の言うことを一つも聞かないんですよ」


 と彼の妻君は嘆くが、いいえそれはちょっと違って彼は誰の言うことも聞かないんですよ、と私は言い掛けるもその言葉を心に留めた。言っても仕方がないことは言わない方が良い。


 だいたい世の中は余計なことを言うから関係が悪化し拗れるのだが。だから無口こそがある意味で最適な選択であり得るし、なんならなにも喋らないは案外にクレバーな生き方でもあろう。


 そう、口は禍のもとを照明しているのも勇者アリィだ。人の言うことにとりあえず反対しへこませることの快感が骨の髄まで染みこんでいるのが勇者アリィという男なのだ。


 まず否定から入るが当然で天気の話でも晴天でも雨が降ると言って譲らない。一度意地を張ったら納められないのもそうだ。意味不明だが自分を曲げると負けになるらしい。


 無理を通して道理を引っ込めるのが好きすぎる天邪鬼体質。しかもそれが男らしさであり人間として正しいと信じているふしさえあった。


 それは人間観にも現れていた。彼は同格のものを認めずに人は下か上としか認識ができない。


「俺より下かそれとも上か、どっちかだ。下なら従え」


 上というのは彼にとって数少ない権威者である王といった雲の上の人でありつまり実質的には誰もいないのだ。というかそんなのが現れたとしてもこの人は言うことを聞かないんだろうなという自信が私にはある。


「勇者長なんざ俺の手柄を横取りしてその地位に昇った泥棒野郎だ!」


 ということで彼を止めるものはどこにもいない。使命感という信仰心が勇者アリィを煽りたてて燃え上がらせる。しかしこういうやりたい放題は力と実績があるからこそできていたことで、絶頂ゆえの無敵状態だからこそのもの。


 もしもその力が失われたとしたら? 徐々にではなく突然そうなってしまったら? そのよくある恐怖の一例が勇者アリィの場合であった。


「うるせぇ黙れ!」


 ヒステリックそのものな大声が増えたのは腰を砕かれた後のこの頃からであった。もちろん以前も大声を出して否定するのはよくあった。


 だけどもここまでのものではなかった。いつも聞いたいたからこそ分かる変化。悲鳴にも似たものさえ感じられた。


「だからやめろ! なんで俺にお前のクソみてぇな補助魔法なんか使うんだ、おい!」


 彼は私の補助魔法を全否定した。いいえ、違います。この魔法はこういう場合にこそ大きな効果があるのです、と私は説明して掛けようとしたが手を払われた。


「そんなのは弱い奴にやることで俺には不要だ! だいたいなそういうラクなことに走るから人は駄目になんるんだよなぁ。人はもっと苦労して成長するんだ。今時の連中は全然苦労していないから弱いんだ。俺の頃はなぁ修行中に死ぬなんて当たり前だったんだぜ。お前ら甘ったれたなんだよ!」


 よく分からない理屈や屁理屈や無関係なものを総動員させて補助を拒絶した。まるで掛けられたら自分が終わってしまうかのように。だがそれでも私は説得を続けた、だがしかし。


「いいか! こんな弱い奴が頼るものであって俺に使うな!」


「しかし今のあなたはそれで……」


「うるせぇ黙れ! お前は俺を弱いとでも言うのかあ!! 絶対にお前の世話になんかならねぇからな! 俺以外の雑魚メンバーに使え! いつも通り雑魚にだぞ!」


 意見は聞き入れられず却下された。まるで自分の言葉に縛られているような拒絶、自らに呪いをかけている。この己の現状や衰えを直視したくないその現実逃避により、その日から隊員達の負担は増えていった。


 そう、今までの戦闘は勇者アリィの個人能力に頼っていたのだが、その力が弱まったのならその分他の隊員の負担となるのだ。


 もちろん勇者アリィは自分が衰えても仕事は減らさない。むしろ増やした。弱さを人に悟らせないためのように。


「仕事は断ったら負けなんだよ!」


 そのせいで戦闘は減らず隊員の負傷も増えそれに伴い脱隊者も増えていった。勇者アリィのボロボロな状態を見てこの勇者隊に未来は暗いということで見切られたのだ。


 辞めるものは優秀なものから順であった。他所に行けば活躍できるものは素早くやめて行き、残るものはどこにも行けないものばかり。必然的にこの勇者隊の動きも鈍くなっていった。


「どいつもこいつも根性がない!」


 勇者アリィは心の底では自分の衰退を認めたくないがためかその一言で済ませていた。心の問題とすり替えた。本当は自分の身体の問題であるのに。


 この状態をどうすれば良いのか? やはり私は勇者アリィに補助魔法を用いることにした。私にはそれしかなくそれ以外なにもできないのだ。


 そしてそれが結果的に追放という形となる。それはまるで必然であったように出会わなければよかったかのように自分らしくあろうとしたものの結末かのように。

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