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壊れゆく勇者

 それは絶体絶命の一歩手前の状況であった。そう、我らが勇者アリィの隊は大きな戦闘に直面した。


 ある日、我々は元幹部が率いる魔王軍の残党による待ち伏せからの奇襲を受けた。勇者アリィは敵将との激闘の末に腰を砕かれながらも相打ち状態に持ち込めたもののそのまま倒れてしまい、残り少ない我々隊員が戦い多大な犠牲を払いながらも生還を果たした。


 私もその戦いでは自分に補助魔法による支援ならぬ自援状態を用いて以て戦い、無我夢中になりながら奇跡的になんとかなったほどの総力戦であり死闘であった。


 まぁ私の話なんかどうでもいいのでそこは割愛し話を進めよう。



「うーむ……なぁなんとか繋がりましたが元の状態が酷すぎていけませんね。戦闘スタイルのためか姿勢の悪さと体型の歪みによって一種の疲労骨折も組み合わさっており、今回の致命的な一撃も加わったことで、ここまで来るともはや完治しようがないですね。やるとしたらまぁ痛みを堪え誤魔化して騙し騙しやるといったところでしょうね」


 治癒の魔術師の匙を投げた言葉を聴いて勇者アリィはショックを受けつつもどこか満足気であった。


「あぁそう。まっ俺でないと耐えられないだろうな」


 自分は特別であるという設定は彼のよく好むところであり、この腰痛も満更でもなかっただろう。自分は痛みに耐えて戦っているんだという高揚感のもととなる。他者を見下させるのなら痛みさえも利用する男なのだ。


「仕事をちゃんとしていたらこれぐらいになって当然なんだ。お前は自分可愛さでこうはならないだろうがな」


 こちらに向けられた嫌味に対して私は無言で頷いた。そうだ私にはそれは無理だ。こうならないように生きてきたしそういう風に生きていくつもりなのだから。


「治療がてら少し休まれてはいかがでしょうか?」


「テメェ……俺はこれ以上休むつもりはねぇんだ。だいたい自分を労わっている奴に俺は負けないんだよ」


 私の助言は余計な一言であった。引退なんか御免で後ろに退くだけでも彼にとっては敗北であってあり得ないこと。だいたい他人の意見に従うことなんかできない人だ。


 それでも少し休んだ方が良いんじゃないかという意見に対してもその場で激昂を呼ぶ。


「あのな! 俺は休んじゃ駄目なんだよ! 俺は勇者なんだからよ! あーあ! お前らはいくらでも休めていいよな! 勇者は辛いぜ!」


 とはいうものの我々隊員の休日は他の隊と比べてたら少ない方である。しかし年中無休の彼にとっては沢山ということとなる。


 要するに0と100の話。有るか無いかの話でありその両極端さが彼の世界観であった。真ん中は無くそれは0であり、よってそれは私である。そう、私は100にはなれないものだ。


 だから勇者アリィにとって私は常に0だ。永遠に0で価値が無きもの。


「お前は仕事ができないからな。いっつも途中でやめるハンパもんだ。気に喰わねぇ。いいか俺に意見をするのなら俺ぐらいやってからにしろ、この口先野郎!」


 こうして勇者アリィは腰痛を抱えながら戦列に復帰した。しかし調子は上り坂とならずそこからは下り坂となる。


 人間は落ちる時は怖いほどに速いものだ。おまけにより高みにあるほど落差も大きい。重力は無慈悲な夜の女王で残酷である。人間とは重力に魂を引かれ縛られた存在という古言の重たさよ、衰えという自然の残酷さよ。


 すぐに隊員達は彼の異変に気付いた。あの勇者アリィの動きの悪さである。それはもう一目瞭然なほど事実を表していた。パワーもスピードもテクニックにキレが無くそれになによりタフさも欠けており、すぐに疲れだした。


「今日は調子が悪かったな!」


 みんなに対して言い訳するように叫ぶと戦闘後に彼は切り株に腰を掛けた。これもいつもではありえない明らかな異常行動だった。あの男が疲れて座る? これまで一度だって見たことが無かった。


 だから私は彼のもとに近づき座っている彼を見下ろした。これはこの時が初めてかもしれない。


 私があの勇者アリィを見下して話そうとしているだなんて。すると彼の瞳に知らない色がついた。まるでそれは怯えの色のようで……私に対して……なぜだ? なんであなたは私に対してそんな感情を抱くのだ? 思考の途中で勇者アリィが立ち上がった。


「座っちゃいけねぇっていうのか? おい!」


「そんなことは思ってはいません。勇者アリィ、もっと治療を受けるか休んでください。とてもじゃありませんが危険です」


「うるせぇ! 俺にはそんな暇は無いんだよ! だいたい俺がいなかったら隊はどうなるんだ! 速攻でおしまいだろうがよ!」


「その間は私が代わりに」


「なっ! なんだとてめぇえええええ! 俺をいらないとでも言うのか! それとも俺の隊を乗っ取るつもりか!」


 そう叫びながら私の襟をつかむと声に気づいた隊員たちが止めに入りなんとかその場は収まった。だがしかし彼の心は収まらない。


 勇者アリィはこの件以後に私を、いや、前々から不快な存在と思っていた私をもっともっと敵視し始めた。


 いやどちらかといえばあの戦闘後から私に対して様子がおかし気ではあったが、そうなった原因が不明であるので、こちらのやり取りの方が重大なはずだと私は認識している。


 これ以後に私はいつの日か追放されるのではないか? ということを考えたが、その日はこの間やってきた。思ったよりも遅くであったがしかし到来した。更なる理由も加わって。

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