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生涯現役の決意そして破綻

 魔王撃破の件だがそれは我々の隊ではなくその他の違う勇者隊が成し遂げた。その報は福音のように皆を喜ばせたが、彼だけがそれに異を唱えた。


「本当は俺が魔王を仕留められたんだ!」


 隊ではなく自分がというところがまさに勇者アリィの真骨頂であったが、実際にそうでもあった。勇者アリィと我らがその他は魔王と死闘を繰り広げ多大な犠牲を払いつつもう一歩のところを逃した。


 そしてその後に傷ついた魔王を別の勇者隊が仕留めたということである。


「ふざけんなあの野郎! よくも俺の手柄を横取りしやがったな! なぁにが魔王を倒した英雄だ俺は絶対に認めねぇぞ!」


 主役になれず引き立て役となることに耐えられず、勇者アリィは元からウマが合わなかったその勇者と絶縁した。


 もちろんその相手の勇者もアリィのことは毛嫌いしていたために、一方的な絶縁ではなく双方の同意を得てのことであった。見かたによっては一周回って仲良しかもしれない。


 これによって彼の孤立化は更に進むがそんなことは全く意に返さない。そういう人だった。自分こそが世界を救うものであるという我こそが真の主人公であるという自意識過剰さこそ勇者アリィだ。

 

 むしろ悪魔化させたその勇者に嫌われた方が自分が絶対的な善になれるという意味で心地よかったのだろう。すっきりと割り切った善悪二元論、白黒のあるのかないのかはっきりした世界観、ナイアル、ナイナイアル。アルノカナイノカハッキリシロ。


 さて魔王討伐後の世界の到来である。戦乱の世にひとつの区切りがつき世界に平和が訪れたわけだが、戦いはもうちょっとだけ続くんじゃとまだ終わりではなかった。


 それは魔王は倒したもののその配下たちによる魔王軍の残党が世界のあちこちに散らばっており、未だ勢力を保ち続けている状況のなかでは勇者隊の活躍はまだまだ引き続き期待されることとなった。


 とはいえそれはいつか終わりが訪れる戦いであり、残党討伐という幾分か先の見える戦い。これを期に戦前というべき魔王討伐時代に活躍した勇者達の大半はここで現場から引退し始めた。


 彼らは名声と栄光を手にし新たな事業を始めたり名士であることを利用し政治家へと転身していった。あるいはもう余生だとばかりに田舎でスローライフや、いつかやりたかったよというような何らかの怪しげな研究をはじめ、または勇者隊を後継者に譲って裏方に徹した。


 一部は身を持ち崩して破滅してしまうというものもいたが、それはそういう時代でしか生きられないタイプだったのだろう。使命から欲望を抑えられていたがその使命からの解放は堕落ということ。


 そして未だ現役を続けている数少ない一人がこの勇者アリィであった。30も半ばを過ぎており勇者としてはもちろん戦士としても最年長組のベテラン枠に入りつつあった。


「年齢なんて関係あるかよ。俺は死ぬまで現場でやるぜ」


 彼はマネージャーとなることを回避しプレイヤーであることを選んだ。つまり主役であることを望み誰かの引き立て役になることを拒否したのだ。他人の支援や補助などまともな男のやることではないと信じて疑わない。


「俺は勇者であり続ける。まだ使命は終わっていねぇ。魔王の娘ってのがいるんだからな! そいつこそ俺が倒す真の敵ってことよ。だいたい勝手に物事を区切って引退した他の連中は根性が無いんだよ。その時点であいつらは勇者の器じゃなかったってことよ。偽者、特に魔王を倒したあいつはインチキ野郎だ!」


 この私も20代の半ばを過ぎ隊では新人から中堅どころか数少ない最古参の一人であった。


 前述したようにこの隊は勇者アリィのめちゃくちゃな戦い方の方針のせいで負傷者も多く離職者も多いため、隊員の定着率が極端に低かった。見渡せば自分より年上はいないし、いても中途採用の年上の新人ばかりである。


「テメェは後ろで使えねぇ魔法を使っているだけだから生き残っているんだぞ。だから勘違いすんなよ俺とお前は違う。もしも前に来て戦う日が来たらそれがお前の命日だ。身を弁えてこのことをよく覚えとけよ」


 このように勇者アリィは私のことを評価していなかった。自分に対して役に立たない魔法を持っている奴のことなど評価のしようもないだろう。そして隊の指揮に関しても文句しか言わなかった。


「もっと早く来い鈍間!」


 名前もずっと憶えているのかも曖昧であった。


「そこの無いってやつ来い!」

「ナキです」

「変わんねぇし一緒だろ!」


 隊の訓練に関しても私は魔術師であることは関係なく格闘技を叩きこまれた。文字通り力任せに仕込まれた。勇者アリィの手ほどきを……シゴキをいつも受けた。彼はなにも教えない一方的に殴る蹴る投げる締め上げる、これだけだ。


「覚えるんなら見て覚えな、まっ魔術師なんていうカスには無理だがな」それにしてもお前ぐらい弱い奴は見たことがねぇ」


 これが私の戦闘能力についての勇者アリィの唯一絶対のコメントだが、この手の「お前は一番最低だ」は彼が誰にでも言う批評なのだった。


 0か1か、出来るか出来ないか、強いか弱いか、俺かそれ以外が、そういうことである。真ん中のない両極端、微調整が利かない二段階、払暁なく訪れる朝、黄昏なき襲い掛かる夜、果てしなく広がる白夜、そして底が見えぬ無限の極夜。


「俺は生涯現役だからな。使命を果たし戦場で死ぬのが俺らしいだろ」


 隠退した戦士と出会った際に彼は必ずこう言ったし、ベテランの戦士が引退していくのを彼は喜んだ。


 自分では無いことの確認に彼は満足した。まだ自分の番ではないのだ。あいつらは戦士として死んだが自分は生きているという満足感。


 去っていくものを見れば自分にはまだまだ若さと体力があることを実感できた。自分は選ばれたものであることの自覚を抱くことができた。


 永遠に使命のもと輝き続けられると……ところがそうはならなかった。永遠が無いと同じように若さにも体力にも強さにも永遠は無い。


 有るものはいつかは無くなり亡きものとなる。それは徐々にか又は突然に。人はどちらかが必ず訪れる。


 もちろんその時が勇者アリィにも訪れた。それはあまりにも早く突然にそして望まない形として。

その転落は急所ともいえる腰から来た。そう、勇者アリィは腰をやってしまったのだ……致命的なほどに、再起不能なほどに。

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