勇者隊での日々
私の名はナキ・ナ。フルネームはこれだがそこはどうでもいいから以後ナキで通すことにする。
私が勇者アリィと出会ったのは今から10年前となる。こちらは18歳であちらが28歳頃のこと。歳の差は10と何とも言えない年齢差。
父と子では近すぎるし兄と弟では遠すぎ伯父と甥ぐらいな歳の差になるのか? もしくは……師弟関係か。だがそれもあまりしっくりともこない。説明できないがそうとしか言えない。
では、ここまでの経緯を説明しよう。この魔王と勇者たちが戦いに明け暮れる乱世の時代。
私は魔術学校を卒業後に就職先として当時新たに結成されたばかりの勇者アリィの隊に入った。だれでも入れるという触れ込みなうえみんな1からスタートという点に私は魅力を感じたからである。
御隊を第一希望にしましたのは学校で学んだ補助魔法を用いて勇者様の魔王討伐に貢献したいからです! 在学中に私は勉学に勤しみ優秀な成績で……いや、すまないつまらぬ見栄を張った。
正直に言うと私の魔術学校での成績はイマイチなものであった。いや、ごめんイマイチも誤魔化しだ。認めるんだ間違いなく劣等寄りであったと。
魔力は比較的高めだが攻撃魔法と回復魔法を習得できず補助魔法しかできないという極端な能力の偏りのせいで、多くの勇者隊での面接の際にここをよく指摘された。
「うっはつっかえねぇー」
「才能と将来性が無いね」
「うちでは間に合っているな」
「他のが一切出来ないとかちょっと」
「外れではないけど当たりでもないね」
「その良い身体を活かせる仕事に就いたら?」
「出来るように努力しないと駄目だと思わないの?」
「なにそれキミ性格的にどこか問題があるんじゃない?」
「貴殿の今後のご活躍を心からお祈り申し上げます。」
散々嫌味説教圧迫を受けまくりの不採用通知のお祈りを貰い続け、もうやだ就職できるのならもうどこでもいいや……という気持ちのなか勇者アリィの隊が出していた一発採用の募集広告と出会い、私はすぐさまその勇者事務所に駆け込み書類提出即時採用となった。
そしてご存じのように誰でも入れるということはつまりろくでもない職場という法則の通り、そこは漆黒の労働環境だった。私は黒に染まった。
「お前らは俺の言うことを聞いていりゃいいんだよ! おら返事しろ!」
「はい!!」
「腹から声出せモブどもが!」
「はい!!」
そこは勇者アリィの感情が何よりも優先される空間でありルールとは彼の機嫌次第である。彼の都合によって朝に言ったことが夜では逆となる。
そうカラスが黒いか白いかは彼の言葉で変わる世界観。朝に言っていなかったことは夜では言ったことになるしそれが正当化されるという空間。
誰も彼もがこの独裁者の機嫌を窺って言葉を選び行動をとるのだ。しかし何故それが正当化されるのか? それは簡単な話。何故なら彼が勇者であるからだ。こんなにも邪悪なのに? 如何にも、だがしかし!
「俺は世界を救うんだからよぉ……よってなんでも許されるんだ! なんたって俺の力はそのことだけに捧げているんだからよ」
そう、だからこそ彼は魔王ではなく勇者なのである。性格が終わっていてもその一点だけが違う。
その英雄的な戦功が権威でありそしてその圧倒的な力がそのわがままという強さを可能としているのだ。
実際に彼は全勇者の中でもトップクラスの実力を持ち、強靭な肉体による圧倒的なタフさと攻撃力を有し、幾多の困難にも立ち向かい数多の強敵を撃破してきた。
その日常は天辺越え上等の朝だ徹夜を何度繰り返しても、床の上でも少し横になれば体力は全回復し好きな挨拶はこれ。
「いや~俺は寝てないんだよね」
これが彼の特徴である。よって勇者アリィの隊は彼以外は全てモブであり彼の引き立て役であった。無茶な仕事に無謀な戦い方が彼のスタイルであり残りの隊員はそんな彼の行動に振り回される日々。
「何で出来ねーんだこの馬鹿野郎!」
と出来ないものには容赦のない叱責をしもしも出来たとしたら
「出来て当然なんだよこの馬鹿野郎! 調子に乗るんじゃねぇぞ!」
と、どっちみち罵声を浴びせて来る。つまり挟み撃ちの形になるのだ。魔王……いや勇者からは逃げられない。
そして別に面倒見がよく教育熱心でもない放置主義。隊員の顔も覚えなきゃ名も知らない。ただ暇つぶしのために声を掛けいびるために脚を蹴る。恵まれた暴力性を隊員に撒き散らしていた。
「やめたきゃやめろ。お前らみたいなやつの代わりはいくらでもいるし、この隊は俺がいればいいんだからよ」
なにを隠そうこの言葉通りこの勇者隊はある意味でアリィを隔離するための隊であった。
彼は元々他の勇者と組んで戦っていたが、この終末的性格ゆえにいつもトラブルが絶えずいつも喧嘩離れを繰り返しており、扱いに困った組合側が新たに彼のためのこの勇者隊が設けられたのであった。
問題部隊であり実際に離職率は全勇者隊でも最高で犠牲者数は最悪クラスである。だが魔王軍との戦いの功績もトップクラスであるからこういうのは厄介な代物なのだろう。
癖があり過ぎて扱えないがあまりにも便利すぎるとかいうめんどくささ……勇者アリィという個性が全面的に出ている隊である。
「俺以外すぐやられちまって……ハッ雑魚野郎が」
自分以外に興味が無く隊員が傷ついてもいなくなってもどうでもよさそうだった。もちろん私の名前などしばらくは覚えて貰えなかったし存在も認知されていなかった。
入隊からしばらく経ったある日、私は彼にはじめて声を掛けられた。
「はっ? 補助魔術師? なんでそんな学校出のいらねぇのが俺の隊にいるわけ?」
これが彼の私への第一声である。
「あの、勇者アリィの支援が出来ればいいなと思いまして」
そう言うと勇者アリィは顔を歪めながら私の脚を蹴った。
「誰がそうしろと言った? おい……誰がそうしろと言ったんだ、言ってみろ!」
「いえ誰も言っていないです。私がそうしたらいいなと思って」
「そうだお前がやりたいだけだ。俺がやれと言っていないからやるんじゃねぇぞ! だいだいこの俺がお前みたいなカスの助けなんかいると思ってんのか舐めんなボケ! 俺は自分一人の力で最強をやってんだ。俺の強さを余計なことして汚すんじゃねぇ。失せな……ああ~けどあれか、俺と違って他の雑魚どもにはそれが必要だろうな。大して期待していないが、俺の仕事がやりやすくなるならいいな。おいお前、明日から俺以外の隊員に補助魔法で支援しろ。まぁそれでも俺には敵わねぇけどな」
これが私の勇者隊での役割となった。隊員達へ強化系の補助魔法を用いる後方支援係である。
その役目は私一人であった。というのもわざわざ魔法学校を出て、こんな脳筋勇者のもとで働くものなど一人もいないのである。学校出の無駄遣いとも揶揄されてしまう。
攻撃魔法だけなら需要があり回復魔法だけでも需要はあるだろう。だが補助魔法だけとなると……こんなところでしか働けないのだ。
入った学校と学んだことは間違いでも無駄でもなかった! といったそんな意地っ張りさや依怙地さの結果があの苦労に繋がったのかもしれない。奨学金だって返さないとならないのだ。
そんなこんなで毎回私は天手古舞となっていた。しかも仕事はそれだけではなく隊員たちの指揮も私が取りだした。
それは勇者の仕事では? とみんなは思うかもしれないがここではそうではない。なにせ勇者アリィは最前線で戦いまくるだけでロクに指揮は執らないしまず指示も出さない。
一人で好き勝手に戦っている形である。時々変なタイミングで突撃命令をするからみんなは困っていた。
そうなると必然的に全体を見て補助魔法を隊員に掛けている自分が指揮を執ることとなった。そうすることでなんとか勇者アリィの超人的な動きにギリギリついていける形となりその背中を追いかけ続け、そして我々は魔王軍との戦いを進めていった。
そんな戦いの日々は魔王撃破と勇者アリィの重傷によって幕が下りていくこととなり、私の追放へと繋がっていく。
しばらくはそこまでの話をすることにしよう




