第5話
ここはウエスの森の外にある鉱山の町。
フィーネとオルガは、町の市場に来ていた。様々な商品が並び、あらゆる種族が買い物にやって来る市場は、今日も活気に溢れている。
「フィーネさん、気になる店があったら言ってね」
オルガがフィーネに言う。
「そうね、新しい髪飾りを買おうかしら」
以前フィーネがオルガに買ってもらった髪飾りは、リリィにあげてしまったのだった。
「髪飾りか......あ、あそこの店は?」
オルガの視線の先にアクセサリー店があった。よく見れば、前に青い蝶の髪飾りを買った店だ。店主が気付いて手招きする。
「お久しぶりです。今日は何を買いに?」
店主がニコニコしながら話しかけて来る。人懐っこい笑顔でついつい言われた通りに何でも買ってしまいそうだ。
「今日は、何を買おうかしら」
フィーネは品定めをはじめる。
オルガはポケットの中のリングを触りながら、落ち着きなくキョロキョロしている。
(探して......)
まただ、フィーネの頭の中で声がする。
「今はやめて」
フィーネは小さく呟いた。
「どうした?」
オルガが気になって訊ねる。
「いえ、何でも無いの」
「何かあるなら隠さずに行って欲しいな」
「本当に大丈夫、ありがとう、オルガ」
フィーネはそう言って、アクセサリー選びを続けた。
「これにするわ」
フィーネが手にしたのは、前に買った青い蝶の髪飾りと対になるような赤い蝶の髪飾り。
「これで良いのかい?」
オルガは意外そうな顔をして言った。
「これが良いの。リリィとお揃いだし」
フィーネは微笑んだが何処となく影があった。
「オヤジさん、じゃあこれをください」
「はい、この赤いのね。」
フィーネは店主から髪飾りを受け取った。
「つけてあげるよ、フィーネさん」
「ありがとう、オルガ」
オルガはフィーネの髪に髪飾りをつけた。
「赤も似合うよ、フィーネさん」
「そう?ありがとう」
フィーネは少しはにかんで答えた。
「じゃあ、行こうか」
「ええ」
オルガとフィーネは歩き出す。
市場にはアクセサリー店の他にも衣料品店やスパイスの店、雑貨屋や茶葉の店、飲食店などさまざまな店がある。
「フィーネさん、お腹空かない?」
「そうね、何か食べたいわ」
オルガの腹の虫がグゥーと鳴る。
「あははっ、オルガったら」
「まいったな......」
オルガは赤面した。
フィーネはふと足を止めた。
「ここにしましょう!」
"ノーザリアの郷土料理"と書いてある店だ。
「いいね、入ろう」
二人は店に入る。店内は意外に広くて、他の客も何組かいた。
「この"グリズリーの煮込み"にしようかしら」
「じゃあ、僕もそれにしよう」
注文をすると、それほど待たずに料理が出てきた。
「美味しい!」
「これは美味いね」
グリズリーの肉はよく煮込まれていて、口に入れた途端に溶けて無くなってしまう。シチューは濃い茶色で酸味があって美味しい。
二人が食事を楽しんでいると、周りの客の話声が聞こえて来る。
「......で、ノーザリアはイストリアに攻め込む準備を進めてるらしい」
「何で急にノーザリアは戦争を始めようとしてるんだ?」
「何でも新しい大臣の口添えらしい。すごい大男だって話だ」
「いやだねぇ、戦争は」
オルガはフィーネの方を向いて話す。
「今の話......気にならないか?フィーネさん」
「そうね。新しい大臣って言うのが怪しいわね」
「ノーザリアには、スザクとホウオウが潜入してる。きっと何か情報を持ち帰ってくるはずだよ」
「......嫌な予感がするわ」
オルガとフィーネは食事を終えると、鉱山に向かった。
鉱山の上に登ると、ちょうどウエス山に沈む太陽が見えた。
「フィーネさん、実は渡したいものがあるんだ」
「何?渡したいものって」
フィーネが訊ねる。
オルガはポケットから指輪を取り出した。
「本当はもっと早く渡したかったんだけど、フィーネ、左手を出して」
オルガはフィーネの手を握り、薬指に指輪を嵌めた。
「オルガ、これって......?」
フィーネは驚いてオルガを見る。
「フィーネ、僕と結婚してください」
オルガの顔は緊張で紅潮している。
フィーネは、あまりのことに言葉を失う。
「返事は、今じゃなくても良い。待ってるから」
オルガは優しく言った。
フィーネはしばらく考えて......
「結婚の申し出、お受けします。ありがとう、オルガ」
フィーネの目は潤んでいる。
オルガも涙を堪えている。
フィーネの瞳から涙が溢れ出す。
オルガはフィーネを抱き寄せ、口づけを交わした。オルガも泣いている。
ウエス山に沈む夕日に照らされて、二人の姿は輝いていた。
「オルガ......私は丸太小屋を離れられない」
「大丈夫、僕が町から通うよ」
「ありがとう、オルガ」
「これからは、ずっと一緒だ、フィーネ」
「末永くよろしくお願いします」
そう言って、フィーネは笑った。
オルガも笑う。
人間とエルフ。二人の行く末は決して平坦では無い。それでも、二人は一緒に生きることを選んだのだ。
夕日はいつまでも二人を祝福するように照らしていた。




