第3話
ここはウエスの森の丸太小屋。
「わらわは、魔王城に戻った。しかし......」
魔王ミカエルは、ここで一呼吸おいた。
「何があったの?」
フィーネが訊ねる。
「魔王城が襲われたんだ。魔神教•三司祭の手の者に」
「三司祭!」
リリィが言う。
「なす術もなく魔王城は堕ちた。そして、わらわは住む所を失った。それから数百年、世界中を彷徨った。やっと辿り着いたのがここと言うわけじゃ。」
ふぅっとミカは息を吐いた。
「ミカ、お母さんとお城を追い出された私と似てる......」
リリィは、自分の境遇と重ねて同情している。
「可哀想ですにゃ......」
エリーゼがつぶやく。
「わらわはそれでも魔王じゃ。助けてくれて感謝はしているが、施しは受けん。すぐにここを出ていく」
ミカが席を立とうとした、その時。
「ねぇ、ミカ?ここに住まない?」
リリィが、またとんでも無い事を言い出した。
「ちょっと、待って!リリィ、それは......」
フィーネが口を挟むが、リリィの目は本気だ。
「帰る場所が無いなんて可哀想。それに、丸太小屋はまだ余裕あるし」
「無いわよ!」
フィーネが突っ込む。が、リリィは構わず続ける。
「魔王だって言っても悪いことは何もしてないし、良いでしょ?皆んな」
リリィが皆んなの顔を見ながら言う。
「おいらは構わないよ」
「私も賛成ですにゃ」
「まあ、良いと思いますわ」
ハク、エリーゼ、アイリスは賛成。
「ぼくは絶対反対だ!」
「私も反対よ」
イブとフィーネは反対。
「私は賛成。多数決で決まりね。ミカ、あなたは今日から家族よ」
リリィが勝手に決めてしまう。
「多数決って......勝手に決めないで!」
フィーネとイブは納得していない。
「イブとフィーネは、私たちに心配かけたんだから、これでおあいこでしょ?」
リリィが言う。
「なんか、上手く丸め込まれた気がするけど仕方ないか......」
フィーネは渋々了解した。
イブだけが怒っている。
「ありがとう、リリィ、フィーネ。これから、よろしく頼む」
ミカが頭を下げた。
こうして丸太小屋に、また一人家族が増えたのである。
フィーネはミカの方を見て思った。
(私がガルムだったことには気付いてないみたいね。内緒にしておきましょう。)
ガルムとは、フィーネの前世のオークの戦士。勇者エルと共に魔王ミカエルと戦った一人である。
「ミカ、イブ。くれぐれも喧嘩はしないでね」
フィーネが釘を指す。
「わかった。わらわは約束は守る」
「わかったよ、努力する」
イブは渋々返事をした。
「伝説の魔王ミカエルと一緒に暮らせるなんて夢のようですにゃ!」
エリーゼは一人舞い上がっている。
「竜神や女神や精霊神も、相当レアだけどな」
ハクが言う。
「あ、それから寝室は、イブとミカで一緒に使ってね。仲良く。」
フィーネの言葉に、イブとミカは戸惑ったが、諦めたようだ。
その夜。
「こっちに来るな!」
「わらわの陣地はここまでじゃ!」
「ぼくのエリアにはみ出てるぞ」
「尻尾は仕方なかろう!」
「引っ込めろ」
「細かい女神じゃのう」
「五月蝿い!この貧乏魔王が!」
「なんだと!不細工女神!」
「やるか!」
「臨む所だ!」
イブとミカが外に出ようとした時、
扉が開いた。
立っていたのはフィーネだ。
フィーネは、イブとミカを睨みつける。
「二人とも五月蝿い。明日の晩御飯抜きよ」
フィーネは、そのまま寝室に戻った。
イブとミカは、肩を落としてベッドに潜り込んだ。
翌朝。
「イブとミカは、罰として掃除と洗濯をして。そしたら晩御飯は食べさせてあげる。」
フィーネは仁王立ちで二人に指図する。
「わかりました......」
イブとミカは大人しく従った。
「魔王と女神もかたなしだな。」
アイリスが笑っている。
「フィーネ、強い」
リリィはその様子を驚きながら見ていた。
(探して......)
まただ。フィーネの頭の中に声が響く。
フィーネは、頭を振って声を振り払った。
丸太小屋は平穏な日々がもどったが、世界には暗雲が立ち込めつつあった。
イストリアとノーザリアの紛争は出口が見えず、エルドランドは国王の体調が思わしく無いと噂が立っている。
三司祭は今の所動きが無いのがかえって不気味だ。
隠密行動が得意なスザクとホウオウが探っているが情報はない。
「とりあえず、のんびりしましょう」
フィーネはロッキングチェアに座って紅茶を飲む。
「フィーネ、メルティナの残滓のことは今アイリスと調べているから、何かわかったら教える」
イブが言う。
「イブ、ありがとう。頼んだわ」
フィーネは少し視線を落とした。
「たーのしー!」
リリィとエリーゼは露天風呂に入っている。
「月のうたと深淵の国との繋がりも気になりますわね。まだ何かありそうですわ」
アイリスがつぶやく。
「世界が放っておいてくれない、か......」
フィーネはつぶやいて紅茶を一口飲んだ。
騒めく森の木々。
空にきらめく星たち。
遠く雪をたたえるウエス山。
この"のんびり"が少しでも長く続く事を願うフィーネだった。




