第2話
ここはウエスの森。
「はぁっ、はぁっ」
一つの影がヨロヨロと力無く歩いている。
フードを被ったその影、薄汚れてはいるが時折見えるその顔は凛としていて気高さを感じる。
薄暗い森の中、その視線の先にぼんやりと灯りが見えた。
もう体力も魔力も限界だったが、足取りが速くなる。
「もう少し......!」
"彼女"は意識を失った。
丸太小屋。
いつも通り、夕食を終わらせて食後のティータイムを楽しもうと外に出た時だった。
「あれは?」
リリィの視界に飛び込んできたのは、森の端に倒れている人だった。
「大変!助けなきゃ!」
リリィは、そのフードを被った人物に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
リリィが呼びかけると、
「み、水......」
喉が渇いているようだ。リリィは、カップに水を入れて持ってきた。
フードを被った人物は、カップを受け取り一気に飲み干した。
「助かった......ありがとう......」
声が高い。女性のようだ。
「とりあえず、家で休んで。」
リリィがうながす。
フードの女性は立ち上がり、歩き出した。
風が吹きフードが外れる。
露わになった顔は10代後半、エリーゼと同じ年頃の黒髪の女性。瞳は真紅。そして、頭には二本の角。
リリィは、警戒を強めた。
「あなたは、魔族?」
「そうだ。わらわは、魔王ミカエル。ミカと呼んでくれ。」
「魔王!?」
リリィは、ミカと距離を取った。
「どうしたの?リリィ」
フィーネが来る。ミカの顔を見て何か気づいたようだ。
「あの顔は......」
フィーネは、すぐに普段の顔に戻り、
「その子を休ませてあげて、リリィ」
そう言って小屋に招き入れた。
「ありがとう、助かった」
ミカは礼を言う。
フィーネは、紅茶を入れてミカに出した。
リリィはミカの隣に座る。
「この紅茶は美味いな」
ミカは感心しているようだ。
「あなた、本当に魔王なの?」
リリィが聞く。
「本当だ。今は訳あって世界を放浪している」
ミカがため息をつく。
「家は?帰る家はあるの?」
「無くなってしまった。帰る場所は無い。」
「そうなんだ......」
リリィは同情した。
その時、
「何事だ?騒がしい」
イブとハク、アイリスが二階から降りてきた。
ミカが振り向く。その顔を見た途端にイブが叫んだ。
「お前は、ミカエル!外に出ろ!」
ミカエルは立ち上がり、
「ここで決着をつけるか」
そう言って外に出た。
リリィたちは何が起きたのか分からずに呆然としている。
外に出たイブとミカエルは、睨み合っている。
「こんな所で会うとはついて無いな」
ミカエルがつぶやく。
「魔王!勝負!ホーリーアロー!」
イブが聖なる矢を放つ。
「女神よ。仕方ない。ダークネスアロー!」
ミカエルは闇の矢を放つ。
二本の矢は、二人の真ん中でぶつかり消えた。
「これならどうだ!ホーリーレイン!」
ミカエルの周囲に聖なる雨が降り注ぐ。
「ダークネスシールド!」
ミカエルはシールドで防ぐ。
「ならば!」
イブが地面を蹴り、ミカエルに向かって拳を繰り出す。
ミカエルは、それをガードする。
「足元がお留守だぞ。イブ!」
ミカエルがイブの足元を狙って蹴りを出す。
「くっ!」
イブとミカエルの肉弾戦は激しさを増していく。
「二人とも!ここまでよ!」
二人の間に割って入ったのはフィーネだった。
「何があったのかは知らないけど、少し頭を冷やして。」
ミカとイブの手を持って、フィーネは小屋まで連れて行った。
「で、イブとミカエルの間には何があったの?」
フィーネが聞く。テーブルには、イブ、ミカ、フィーネ、リリィ、アイリス、ハク、エリーゼが座っている。
「ぼくとミカエルは、もう数千年も戦い続けてる、腐れ縁だ。」
イブが言う。
「わらわもイブも、もう何で戦ってるのか忘れてしまった。今はもう意地だ。」
ミカエルが言う。
「じゃあ、もう仲良くしたら?」
フィーネが言うと、
「いや、ミカエルとは今更仲良くなんて出来ない。あいつは魔王だぞ。」
イブが言うと、
「わらわだってごめんだ。今更。」
ミカエルは目を伏せる。
「丸太小屋にいる時は、喧嘩はやめて。二人とも良い?」
リリィが言う。
「わかった」
イブとミカエルは渋々承知した。
「ところで、ミカエル?」
フィーネが話を変える。
「わらわのことはミカで良い。」
「じゃあ、ミカ。なんでここに辿り着いたの?」
フィーネが聞くとミカは話し始めた。
「長い話だ。わらわは、元々、エルドランドにある魔王城に住んでいた。1000年と少し前に、そこに転生者とその一行がわらわを封印する為にやって来た。しかし、その転生者はわらわを仲間にした。」
「仲間に?」
リリィが聞く。
「面白い男だった。ケンタというその男はわらわを倒したくないと言った。その後、わらわはケンタたちと魔神を倒した。」
「魔神って、ザハークか?」
ハクが言う。
「そうだ。わらわはエルドランド城でアンヌ王女の教育係を任された。その後は、しばらく安泰だったが、何代か後の国王に追い出された。」
「アンヌ王女って、『エルドランド双王記』のかにゃ?」
エリーゼが聞く。
「そうだ。アンヌはいい娘だった。赤髪の娘と同じ眼をしていたな。」
「私と同じ眼......」
リリィがつぶやく。
「わらわは、魔王城に戻った。しかし......」
ミカの身に何があったのか?
この後、思わぬ事態が起こるのである。




