第1話
ここはウエス国の森の中に建つ丸太小屋。
まだ、空が白み始めたばかりの小鳥たちもようやく起き出した朝。
赤いセミロングヘアの少女がベッドから起き出す。その隣には猫耳の少女がスヤスヤと眠っている。
赤髪の少女の名はリリィ。リリィは部屋を出て、階段を駆け降り、玄関の外に出る。
そこには、木の精霊ドリアードの二人の子供が両足から土に根を張って眠っている。
「モック!ドンキー!朝だよ!」
リリィの声に、モックとドンキーは目を覚ました。
「朝だキー!」
「朝だキキー!」
二人は地面から両足を引っこ抜き、起き出した。
リリィは丸太小屋の中に戻り、屋根裏部屋に向かう。
そこでは、精霊神アイリスが小さなベッドで眠っている。
リリィは、そぉっとアイリスを起こす。
「アイリス、朝だよ。起きて。」
アイリスは羽をゆっくりと開きながら目を覚ます。
リリィは二階の部屋に向かう。
ドアを開けると、ベッドの上にはうつ伏せで寝ている美しい白髪の少年。
「ハク!起きて!朝だよ!」
リリィはハクの体を揺さぶる。
「う......ん、リリィ、おはよう。」
眠い目を擦りながら神竜の少年ハクは目を覚ました。
リリィは次の部屋へ。
ドアを開けると、物凄い寝相で寝ている美しい青い髪の少女がいる。
「イブ!起きて!朝だよ!」
「むにゃむにゃ、カレーはゴクゴク飲めるのう......」
リリィは女神イブの鼻をつまむ。
「?!な、何をする!」
「イブ!朝だよ!起きて!」
イブは仕方なく起き出す。
リリィは、一階の寝室に向かう。
ドアを開けると、白銀のロングヘアで耳が尖った女性がスヤスヤと眠っている。
「フィーネ!朝だよ!起きて!」
......起きる気配がない。
リリィは、フィーネの体に馬乗りになって体重をかけた。
「う、ん、お、重い......」
「フィーネ!起きて!」
フィーネは寝返りを打った。リリィはベッドから落ちてしまった。
「うーん、紅茶が美味しい」
まだ寝言を言っている。
リリィはフィーネの体を揺さぶる。
フィーネはやっと起き出したが、
「リリィ、おはよう。じゃあ、おやすみ」
そう言ってまた寝てしまった。
「フィーネ!起きて!」
リリィは、フィーネを起こす為には手段を選ばない。
「炎よ出でよ!ファイア!」
リリィの手から炎の球が出る。フィーネの布団が燃える。
異変に気づいたフィーネが飛び起きる。
「何やってるの!リリィ!」
「フィーネが起きないから......」
部屋には煙が充満している。
「時よ戻れ!リバース!」
布団の火は消えて、元に戻った。
「もう、余計な事はしないで!」
「おはよう、フィーネ。」
「......おはよう。」
フィーネは部屋を出てキッチンに向かう。
リリィもついていく。
フィーネが両手を伸ばすと、キッチンの道具や食材が勝手に動き出して料理を始める。
テーブルの上には、次々と朝食が並んでいく。
目玉焼き、ベーコン、野菜サラダ、焼きたてのパン。
ドリアードの二人には綺麗な水。
「おはよう」
イブ、アイリス、ハクが椅子に座る。
「おはようございますですにゃ」
エリーゼも起きてきた。
「ご飯キー!」「キキー!」
モックとドンキーもやってくる。
最後にフィーネが紅茶を淹れる。
朝食の準備が出来た。
「いただきます!」
家族みんなで食べる朝食。
みんな笑顔だが、フィーネだけは浮かない顔をしている。
(探して......)
頭の中で声が聞こえる。
メルティナの残滓......
フィーネのは時折、頭の中で別の声が聞こえるようになっていた。
そのことは誰にも言っていない。
「フィーネ、フィーネ!?」
ハッと我に帰る。
「フィーネ、大丈夫?」
リリィが心配そうな顔で覗き込む。
「う、うん。大丈夫よ。」
フィーネは紅茶を一口飲んだ。
フィーネは一度命を落とし、生き返った。その時、三司祭の一人メルティナの残滓がフィーネの魂と融合した。
その後遺症が幻聴と言う形で残っていた。
朝食後は、ロッキングチェアに座って、紅茶を飲みながらのんびりと過ごす。
「捕まえてやるぞ!」
「待つキー!」
「待つキキー!」
「にゃー!(猫)」
ハクとドンキー、モック、エリーゼが追いかけっこを始めた。
リリィは、フィーネとイブに挟まれてロッキングチェアでくつろいでいる。
「あなたは、追いかけっこしなくていいの?」
フィーネが聞く。
「私は少し大人になったの、もう子供っぽい遊びはしない」
リリィが答える。
「大人ねぇ......」
フィーネはつぶやいた。
丸太小屋に、いつもの日常が戻ってきた。
この"のんびり"が長く続けばいい、そうフィーネは思っていた。
しかし、世界は放っておいてくれない。
ウエスの森の奥深く。
「はぁっ、はぁっ」
息を切らせながらフラフラと歩く黒い影。
フードを被ったその人物は、丸太小屋の方に向かっていた。
謎の影が近づいていることを知らないフィーネたちは、ただのんびりを謳歌していた。
ざわざわっ
ウエスの森の木々だけが、異変を感じていた。




