第61話 新しい風
「はじめまして。私は、坂本造園という会社の松本と言います。」
土曜日の昼下がり。
サッカーグラウンドの端で、大きなガジュマルの木陰に入り、休憩していた栗山陽一郎に、ヨウが声をかけた。
「え? ぼくに? な、なんでしょうか……」
急に見知らぬおっさんが近づいてきて、名刺を差し出されたのだ。驚かない方がおかしい。
彼はまだ十五歳の少年だった。
サッカーの休憩中だというのに、スマホで何か絵を描いていたようで、
陽一郎は慌ててそれを隠した。
「急に話しかけて驚かせたね。ごめん。
実は、私は坂本造園という会社でサッカー部をやっていてね。Y県にある会社なんだけど。若くて優秀な選手を集めているんだ。Y県に来て、サッカーをしてもらえないかと思って、今日は話をしに来たんだ」
陽一郎は、驚きを隠せないまま、か細い声で答えた。
「ぼく、ぜんぜん有名な選手じゃないですよ?
このチームでも、補欠にもなれないくらいで……」
ヨウは、これ以上怯えさせないよう、できるだけゆっくりと言葉を選ぶ。
「私たちには、君はとても将来有望に見えるんだ。
今すぐ返事をする必要はないよ。もしY県に来てもらえるなら、近くの高校に通ってもらうことになる。もちろん、お金はいらない。」
そう言って、ヨウは封筒を取り出した。
「この中に、細かいことを書いた書類が入っている。親御さんに渡してもらえないかな」
ヨウは名刺と封筒を、そっと陽一郎に差し出した。
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「お疲れ様でした。今日の仕事はこれでおしまいです。さ、次に行きましょう!!」
陽一郎との接触を終えて帰って来ると、陽気なペイが待っていた。
相変わらずの全身ピンクの細長い初老の変わり者が、助手席で体育座りをしている。
「あまり反応は良くないですね。」
ふ〜っと汗を拭いながら、ヨウは運転席に座りペットボトルのお茶をぐびっと流し込む。
「彼は難しいんですけど、大丈夫ですよ。この左腕が言うのだから大丈夫です。そもそも、陽一郎君はうお座。今日の占いでは、運勢は最高なんです。」
もう、この人が何を言ってるのか、ほとんど頭に入ってこないのだが、大丈夫な気がするから不思議だ。
「それにしても、南の端っこまで車で来てしまいましたね。ここからは、引き返しましょう。」
来る時は熊本回りで来たため、
ヨウは、宮崎を回って九州北上のつもりで準備を始める。
「何を言ってるんですか?もっと南があるじゃないですか。さ、鹿児島新港に行きますよ。さぁ、行きましょう。」
こうして、ヨウは鹿児島から軽自動車ごと南の島に運ばれていくことになった。
まだ方向性を十分にお伝えできていないのではないかと不安に思いつつ、気づけば60話まで来てしまいました。
あっちこっちと話が広がっていますが、物語の中心は青空市にある坂本造園です。
現在は90話まで書き終えています。
その頃のヨウも、忙しくも楽しくやっています。
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