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第60話 新しい風候補

「まだまだ鹿児島は暑いですね〜。ところで、今日は100人くらい見学しましたが、そろそろいい子はいましたか?」


「いい子って言われても……。僕もペイさんもサッカー素人なんだから。」


「いやいや、私はこれでもコツがつかめてきましたよ。ほんとはヨウさんも少し分かってきたでしょ。というか、ぼくは嬉しいんですよ。こうして、右腕のヨウさんと仕事ができて。僕がなぜ左腕って言われてるかと言うとですね。テンさんが、『右腕にはできないねぇって』なんて言って、左腕って言い始めたからなんですよ。僕にはなにか足りなかったんでしょうね。でも……左腕の仕事には満足してるんですよ。」


 う、うるさい……。


 ペイと出会ってからおよそ1ヶ月。季節は9月も半ばを過ぎた。

 気がつけば2人は鹿児島で温泉に浸かりながら月を眺めている。遠くには桜島を眺めることができる高級旅館の露天風呂だ。

ペイのマシンガントークには慣れないが、とても優雅な夕暮れ時だ。


 さて、今日の日中は、高校やユースチームを回り、100人ほどのサッカー選手を見た。

選手本人や監督・コーチに話しかけるでもなく、ただ単に見てきた。


「毎晩のことですが、こんなこと続けて大丈夫ですか?」


 ヨウは、何度となく問いかけた言葉を、あらためてペイに投げかけた。


「順調そのものです。計画通りです。」


「そ、そうですかね〜。」


 なんだか分からないが、温泉は気持ちいいし、料理も酒も旨い。

 移動、見学をものすごいサイクルで進めていくため体力的にはきついが、こうしてプチセレブな旅を満喫しているご身分に、気も緩んではいる。

 そもそも、この旅で使っているのは、ヨウが馬券を当てた500万円なのだが、ペイの勢いで当たり前のように2人分支払いながら進んできた。


「それで、どの子に声をかけますか?」


 ヨウとペイは、この旅に簡単なルールを設けている。それは、適当にたどり着いた町に、適当に滞在し、毎日100人以上の高校世代サッカー選手を見ること。その中から1人に青空高校への転向を勧誘して、次の町に行くこと。


 ヨウは月を眺めながら、答えた。


「あの黄色いユニフォームのユースチームにいた、背の低い色白の子ですかね。」


「やっぱり一緒ですね。なぜですか?」


「あんなに色白なのに、この日差しの強い鹿児島でユースチームにいるってのが不思議で。

すっとグラウンドに立ってるだけでしたけど、別次元というか、なんというか。」


「彼の名前は、栗山陽一郎君、15歳。高校1年生。あ、早生まれなんですね。2月生まれのうお座。ポジションはFW。僕の調査では、天才です。でも、あんまり練習に来ないので干されてます。まぁ、彼に合わせることができる選手が、あのチームにはいないんでしょうね。趣味は絵を描くこと。最近は、絵を描いて過ごすことのほうが多いようです。」


「いつもいつも、どこで調べてるんですか?」


 相変わらず、すごい情報量だ。


「ヨウさんも分かってきたじゃないですか。私なんか、調査しないと分からないですよ。さすが右腕です。じゃ、明日、いつものように勧誘に行きますよ。ちなみにあの子は難しいです。でも、突破口はあります。ヨウさんは、とにかく突撃してください。」


 よっし、やるぞーと思いつつ、風呂を上がる。


 本当は、この後の晩酌が楽しみだったりする。

ダメ人間まっしぐらではないか?

ヨウは鏡に映る自分を眺めつつ、高級旅館の晩御飯に負けた。

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