第56話 さかつくのやりたいこと
「テンリーグは、分かりました。それは、設立含めて、けっこう長期的な目標になりますよね?
坂本造園サッカー部は、きわめて短期的で困難な目標を持っています。2年後の天皇杯までに大会制覇という目標です。
そもそも、今年は2回戦敗退という有り様ですから、目標は赤信号が点きっぱなしです」
イレからテンリーグの話を聞いた後、ヨウは気を取り直して、こちらの事情を話し始めた。
「つまり……、長期目標であるテンリーグについては構想を進めるということで、坂本造園の天皇杯制覇について協力してもらえないでしょうか。」
まずはひとつずつ進めていきましょうと、ヨウが交渉を始める。
「何でテンリーグが長期目標なの?こんなのすぐにできちゃうよ?
うちの会社では、すぐやれ!が業務命令だから。すぐやって失敗はOK、成功しても時間かかるやつはいらない。さようなら〜。
ヨウ君も右腕なんだから肝に銘じてね」
勝手に右腕にされて、無茶な業務命令を下され、いい迷惑だとヨウは思う。
「だからさ、テンリーグで人集めて、最強メンバーで天皇杯行けばいいじゃない」
テンが当たり前のように発言する。
「う〜ん……、方向性は賛同しますけど、それだと青空市が良い町のままいられますか?」
「今だって崩壊寸前じゃない、あの町。高齢化で人がいなくなっちゃうからね。それに、さっき過去の話もしたでしょ?ほんとに良い町?」
「そうだとしても、うまくいかないのを分かってたから、テンさんはすぐやらなかったんですよね?」
ヨウが問いかけを続ける。
「うまくいかないとは言ってないよ!つまんないからやらなかっただけ」
「そ、それは……。テンリーグで人を集めて、最強メンバーで天皇杯行くのというのは、つまらなくないということですか?」
「う〜ん。つまんないかもしれないし、面白くなるかもしれない。わかんないね〜。
でも、そこがいい!
ヨウ君、がんばってね。
はい、テンリーグ発足決定〜」
「ふ〜、分かりました。では、テンさん。
これから飲みに行きましょう」
ヨウは反論を諦め、ヤケクソになってテンを連れ出した。
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ヨウには自覚はなかったのだが、酔っ払うと大言壮語を言うタイプだったようだ。
坂本造園に入社するきっかけも酔っ払ったヨウの適当なビジネスプランから始まった。
こんなやり方、ただの酔っ払いの戯言としてうまくいかないものだが、イレにはなぜかヒットした。テンに対して通じるか分からないが、このまま彼のペースで話が進めばどんなことになるのか分かったものじゃない。
下手すれば、どこか名前も聞いたことのない地方にでも送り込まれそうな、圧倒的な場の支配力がある。
ヨウとしての最後の手段、『酒に任せて言いたいことを言う』に賭けてみた。というよりも、賭けるしかなかった。
「親父さん、生2つ、ネギマとモモ、2本ずつ。」
夢中駅の裏路地にある小汚い焼き鳥屋で、ヨウが2人分の注文を始める。ガヤガヤとした店内で、誰も2人を気に留める人はいない。
テンときたら、いつの間にか高級スーツを脱ぎ、くたびれた事務服のような出で立ちになっていた。後ろポッケには競馬新聞が刺さり、胸ポケットには赤鉛筆を入れている。
おそらく、小さな工場の社長が、日曜日にも関わらず一仕事した。やっと終わって、競馬に来たくらいに周囲は見ているだろう。
「あ、あと、やっこ。ネギいっぱいかけてね」
テンが満面の笑みを振りまきながら、どんと置かれた生ビールを旨そうに飲む。
「ぷは〜、ヨウ君。ビール旨いね!ささ、どんどん聞かせておくれ」
テンは、雰囲気に完全に溶け込んでいる。
「そうですねぇ。テンリーグは、坂本造園が運営するので、必要なお金を出資してください」
「へ〜、いくら?100億くらい?」
嬉しそうにテンが詰め寄ってくる。
「これから計算するから待ってくださいよ。まぁ、だいたい5000万円くらい?」
「へ?それならイレ君でも準備できるでしょ?」
「いまの坂本造園にとって、そんなお金は簡単じゃないですよ。それこそ、山とか土地とかを担保にしないと」
……。
「よし、じゃぁ、面白かったら出資しよう!
聞かせてよ」
テンが生ビールおかわりを注文した。




