第55話 テンのやりたいこと
さ〜て、あんまりつまらない話を続けてもしょうがないよね。過去を変えるなんて簡単じゃないしさ。だから、面白くいこうよ。
ヨウ君も分かってくれたみたいだし。
満面の笑顔になったテンが、ヨウに向かって話し始めた。その笑顔が、さっきまでの無機質な目と同じものだと気づいて、ヨウは少しだけ背筋が寒くなった。
忘れかけていたが、ここは夢中競馬場の馬主用VIP室だ。少し気持ちが整理できたヨウに、ふっと競馬場の色と喧騒が戻ってきた。
「えっとね。僕の夢は〜。そうだね。青空市にサッカーリーグを作ることさ。名付けて、テンリーグ」
「なんですか?それ。」
ヨウはきょとんとして聞き返す。
「サッカーバトルコロシアムさ」
何言ってるんだ?この人……。
ほんとに大丈夫かという表情をしているんだろう。それが自分でも分かる。
「前々からやろうと思ってたんだよ、テンリーグ。でさ、青空湖畔花火大会があっただろ?
あの時に確信したのさ。夢を実現しようってね」
あ、あの何回も電話してきた時か!
「ゆ、夢って……、そんな壮大なこと簡単にできるものじゃないですよ……」
「チッチッチ、いまや、僕にとっての夢ってのはさ、君たちが見る夢とは違うんだよ。
基本叶っちゃうんだよ。お金は山のようにあるんだからさ。だから、せっかくだから、最高の形で叶えたいと思ってたんだよね。」
「じゃぁ、やっちゃえばよかったじゃないですか」
「やれたよ。でも、きっとつまんないことになってただろうね〜」
競馬場に視線を移しながら、胸ポケットから先ほどの500万円当たり馬券をひらひらさせた。
「ね?つまんないだろ?」
テンはヨウに視線を戻しながら、当たり馬券をまた胸ポケットにしまった。
「いまはそんなことないよ!さっき話した通り、君が僕の右腕になってくれるからね」
そう話すテンは、心底楽しそうに見える。
「じゃ、僕のプランを話すよ」
テンが舞台に立って語るように窓際に立つ。
バックに競馬場の電光掲示板がそびえ立ち、まさに演説が始まる空気感だ。
「サッカー選手を夢見る人は、テンリーグに集まり
たまえ。無名、有名構わないさ。
そこで君たちにはバトルをしてもらう。
絶え間ない試合と言う名のバトルをね。
勝ち続けたものは、カテゴリーを上げること
ができる。そこに待っているのは?
……バトルだ。
ひたすらバトルを繰り広げる日々。
君たちは挑戦してみたくはないかい?
それはなぜか?
才能があっても、人生を一度外れたら、
もう戻れない世界だからね。
才能も年齢も経歴も関係ない。
何度でも、人生を賭けて戦える場所を作りたい
んだ。
トップカテゴリーにたどり着いた者には、素晴
らしい環境と名誉と褒賞を与えよう。
それは、この国のサッカーリーグとは比べもの
にならないほどの富を君たちに与える。
それこそ、何十億円という富が君たちのものに。
さあ、挑みたまえ。
テンリーグは、君たちを待っている!」
……。
一通り聞き終えたヨウは、しばらく沈黙した。
そして、考え込んだ後にテンに問いかけた。
「これ、テンさんが飽きたらどうなるんですか?」
「いや、面白いから飽きないさ」
「う〜ん、このままやったら確実に飽きますね。
テンさんが飽きたら、すぐ破産しますよ、テンリーグ……。」
「いい!そういう右腕を待っていたんだよ〜。こういう立場になると、誰もダメ出ししてくれなくってさ。ささ、どんどん言ってくれたまえ」
気がつけば、テンに巻き込まれているヨウであった。




