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第51話 季節外れのなつみかん

5年前、忙しさを言い訳にして、私はこの作品を中途半端にしたまま、筆を置いてしまいました。


あれから約5年。


コロナやさまざまな出来事をなんとか乗り越え、久しぶりに読み返してみたところ――

「あれ、これ、けっこう面白いじゃないか」と自分で思ってしまいました。

この5年間、精神的にも経済的にもなかなか大変でしたが、とりあえず今こうして続きを書けていることを嬉しく思っています。


皮肉なことに、今の私はヨウと同じ中間管理職。

忙しいからと筆を置いたあの頃より、むしろ今のほうが忙しいという状況です。

それでも、今回は楽しく書けています。


ここからは、いよいよ新作の展開になります。

私の妄想物語を、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 平日昼下がり。

ランチ客も引き、後片付けも終わった。

今日もそこそこの人は来たが、売上は会員店舗のものだ。


 わさびとユミが、少し息をついていると、「てっぱん」のランチ営業を終えた夏海がやってくる。


「ふぁ〜」


 夏海が気の抜けたあくびをし、椅子の背もたれに寄りかかって背伸びをした。

時刻は14:30を過ぎたあたりの木曜日。いつもの通りなら、この時間にお客さんは来ない。

あと1時間もすれば、アリスを始め高校生たちがやって来る。それまでの時間を、3人は思い思いに過ごしていた。


 9月も終わりが近くなり、山間部に位置する青空市には秋の香りが漂い始めている。

残暑も終わりかけ、心地よい風があおい庭園を駆け巡る。思わず、誰かを連れて来たくなる季節だった。


「あの女の人、ちょっとふらついてます。」


 夏の終わりの儚さに思いをはせながら景色を眺めていたわさびは、ふいにユミの言葉に視線を移した。


「た、確かに……。初めて見る人っすね。」


 夏海も気がついて椅子から腰を上げかけた。


 「あ、草むらに倒れた!」

 

 突然の出来事にユミが悲鳴のような声をあげる。

それと同時に、わさびと夏海は即座に彼女に駆け寄っていく。


「だ、大丈夫?」


 夏海が抱き起こした彼女の顔を見つめ、わさびが問いかけた。


「よ、余裕ですけど……。」


 一拍置いてから、彼女は言い足した。


「何か?」


 夏海が抱きかかえた彼女は、ズレた眼鏡を直しながら気丈に答えた。


「大丈夫に見えないよ。さぁ、こっちに来て。」


 彼女を立ち上がらせ、わさびと夏海で抱えるようにして、まちカフェに連れて行く。


「いや、ほんとに大丈夫ですけど。」


「とにかく、少し休みましょう。あなた見かけないけど、観光客?」


 わさびが問いかける。


「今日、この町に引っ越してきた……。」


「え?」


 彼女の声が後半ごにょごにょと小声になり良く聞こえなかったため、聞き直そうとする。


「とにかく大丈夫なんですって!」


 相変わらず返事だけは強気なのだが、明らかにただ事ではない。


「ユミちゃん、イレさんに連絡をお願い。彼女は一度社宅に連れて行くわ。」


「分かりました。」


 まちカフェにはユミを残し、わさびは彼女を連れて社宅で休ませることを決めた。夏海は「てっぱん」に戻って夜営業があるので、学校が終わったアリスにユミを手伝ってもらえるようメッセージを送る。


****


「あ、起きた。」


わさび達が暮らす社宅に着いた彼女は、布団に横にならせるとすぐにぐっすりと眠ってしまった。

よほど疲れていたと見える。


 いまは、21:00を回ったところなので、もう少しすれば夏海が帰ってくるころだろう。


「ご飯食べる?」


 わさびが問いかけると、恥ずかしそうに顔を赤らめながら、「いただきます。」と返事をした。


「さて、あなたのことを教えて。ご家族は心配してない?」


「家族なら大丈夫です。独身だし、もう30手前の娘を両親も心配したりしてないから。」


「え?年上?すっごく若いと思ってた。それこそ、夏海と同じ20歳くらいかと。」


 わさびの言う通り、彼女は背丈も小さく、化粧っ気もない。短く切ったボブカットが良く似合うかわいらしいメガネっ娘だ。身長もアリスくらいだし、どちらもショートカットなので、2人でいたら姉妹と間違えられそうだ。


「良く言われます。年相応に見られなくて……。

あ、私は山田美香と言います。年齢は28歳。今日はご迷惑をおかけしました。」


 少し寝て楽になったのか、まちカフェで倒れた時の気丈な振る舞いとは変わり、落ち着いた受け答えになっていた。


「それで、今日引っ越して来たと言ってたけど、家はどこ?」


「家は……。まだ、これから探すところです。」


「え?どういうこと?」


「それはもう、追いかけて来たんですよ。」


 そう話す美香は、少し胸を張って見えた。


「だ、誰を?彼氏?」


「推しです。」


「推し〜〜〜〜〜!?」


 突然、居間のふすまがばーんと開き、夏海が大声で叫んだ。ちょうど帰宅して一部始終が聞こえたらしい。


 これはまた何かが始まるなぁ。


 なぜか、面白いと思ってしまうわさびだった。

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