第19話 さかつくの未来
第2章 さかつくの未来
いつものように、朝礼で当日の仕事とアサインを読み上げる。現場準備を手伝い、社員の出発を見送るとイレさんに一言かけに行った。
「おはようございます。」
「お~、おはよう。調子はどうだ?」
「全身筋肉痛ですよ。たった10分しか試合に出てないのに情けないですね。」
「たった10分でも試合は特別だ。若いのだって、次の日はまともに動けない時もある。しっかりストレッチしておけよ。さて、座ってくれ、今日は話があるんだ。」
イレさんが来客用テーブルに移動して、ヨウを手まねいた。
「昨日の試合で分かったと思うが、今年のチームは強い。放っておいても、軽く全勝優勝するだろう。
だからな……。」
イレさんが神妙な顔つきでヨウに詰め寄ってくる。
「勇気がいるうちに天皇杯優勝したいと思ってる。」
なるほど、イレさんはひそかに大きな野心をいだいているようだ。
「と言っても、みんなには内緒にしておくように。変なプレッシャーをかけたくないからな。」
ふたたびソファーに掛け直しながら、のんびりとヨウに語りかける。
「あと……。ヨウは、試合に出続けてもらう。現場感覚を持った企画屋ってやつがうちには必要だ。」
「天皇杯優勝!?行く先ジャイアントだらけですね……どんだけ倒せば……。あと……企画屋?」
「そうだ、企画屋だ。初めて『てっぱん』で会った夜、お前は面白い構想を話した。それに俺は乗っかろうと思う。」
「なんか言いましたっけ?」
「なんだ覚えてないのか。俺に農業やれとか言っただろ。」
たしか……あの日、酔いにまかせて理想の都市計画を語ったような気もする。
「もしかすると、都市計画の話ですか?」
「そうだよ。俺は面白いと思った。そして、ヨウならできると思った。だから命じる。松本八、お前をを企画課長に任ずる。」
「え〜?企画課長!?って……。何をやるんでしょうか。あと、課員は?」
「いま企画課を作った。課員はいない。企画もゼロから考えろ!まずは、あの夜お前が言ってたカフェでも始めたらどうだ?」
「酔っぱらいが言ったんですよ?」
「あの日のお前の言葉はな、酔っぱらいの言葉であって、酔っぱらいの言葉ではなかったんだよ。アリスがお前とわさびを『アリス』に泊めただろ。つまり、そういうことだよ。」
そういえば、『てっぱん』に初めて行った日に、アリスは神様の声が聞こえたと発言していた気がする。周囲の反応がおかしかったから覚えている。
「そういうことって………。」
「そういうことは、そういうことだ。話すと長くなるからな。おいおい話す。」
何がなんだかさっぱり分からない。
「ということで、ヨウ、お前の夢に乗っかった。よろしく。」
……。
さっぱり分からないが、ヨウは坂本造園の社員だ。サッカー部員を続けながら、あの夜の夢を実現せよという指示を受けたということだ。
社長室を出たヨウは、猛烈な不安にかられていた。ただ、それとは逆に、高揚感のようなものも感じていた。
こりゃ大変だ。だけど、イレさんのおかげで42歳プロ初得点なんて経験ができたんだ。とことんイレさんについていってやる!
エリートサラリーマン時代には感じたことのない力がヨウにみなぎってきた。たぶん、これが愛社精神ってやつなんだろう。
*****
月曜日の午前中は、試合の反省会と決まっている。社長室を出た後は、クラブハウスに向かった。
完全勝利を決めたさかつくだったが、試合の振り返りに余念はない。
ヘッドコーチの中田が、ひたすら檄を飛ばす。
ヨウも、攻守の切り替えのタイミングなどの改善点をビデオを見ながら丁寧に指導された。ある意味、試合よりきつい………。
イレさんは遅れて入ってきたが、部屋の隅っこの椅子に座り爆睡していた。
反省会が終わると、もんちゃんが話しかけてくる。
「ヨウさん、今日の夜は任せといて!社長に前借りしたもんね。」
「お~。『てっぱん』おごってくれるんだよね。やったね。」
もんちゃんに金がないのは、家族の生活費を1人で稼いでいるためらしい。弟がJリーガーになったら楽になるね。本当にできたやつだよ。お猿さんだけどね………。
「で、ヨウさんにお願いがあるんだけど……。わさびさんに頼んで、『てっぱん』にアリスを呼んでもらえないかな?」
「いいけど?」
「悪いね。アリスが来れば、勇気が喜ぶと思うんだよ。」
「なるほどね。青春だね~。」
「あ、あと……わさびさんに、俺にもお酌してって頼んでもらいたいな~。」
「わ、分かったよ。って、お酌してあげてなんて頼めないからさ、俺がわさびの代わりに店を手伝うかな。その間、一緒にご飯食べてよ。」
ウキ~~~~~
もんちゃんが壊れた。
わさびと一緒に暮らしててごめんな。
神じいさんに文句言ってくれ……。




