第10話 俺に何ができるんだろう
勇気ともんちゃんが必死にパスをつなげようとするが、時々ヨウにありえない取られ方をする。
なぜか分からないのだが、「これは取られる」という予感がする時があり、その予感は、ほぼ例外なく的中した。2人は動揺しながらもヨウの実力を確かめるためパスを続けた。
「よっしゃ~~~~~!!」
突然、勇気が勝利の雄叫びをあげた。
「お~い。ゆうき~。」
勇気が振り向くと、もんちゃんが、ちょいちょいと斜め下を指差している。そこには、ぜはぜはしながら、ぶっ倒れたヨウがいた。
「あ、あれ?」
勇気は、取られる恐怖を実力で突破したと思って喜んだのだが、拍子抜けしてしまった。
「結局、ヨウさんに負けましたね。」
「あぁ……すごい才能だな。これはかなり使える。けど、まずは鍛え直さないとダメだな。」
「ヨウさん、体力なさすぎ……。」
「ヨウさん、今日は休んでおきなよ。明日から、しっかり鍛えるからさ。俺、超わくわくしてきたもんね。お~い!マネージャ~」
もんちゃんに呼ばれて、髪を後で束ねたジャージ姿のわさびが、飲料ボトルを抱えてヨウのもとに駆け寄ってくる。
「え!?わ、わさびさん?マネージャーになったの?」
もんちゃんが真っ赤になって叫ぶ。
「そうなの。あとでちゃんと挨拶するね。」
「く~。さかつくでも、わさびさんに会えるようになるなんて。ヒャッホーーーーー!!
これは、なんとしてもヨウさんを倒さないとだもんね。」
おいおい………。わさびさん、モテモテですね。
ヨウは、ぜーはーしながら、勘弁してくださいとつぶやく。
「ヨウ、大丈夫?」
「たはは、な、情けないね。」
「こんなんじゃ望み薄かしら。私、また不幸になるのはイヤよ。今、最高に楽しいんだから。」
「いや、ぜはぜは、まぁ、善戦したと思うよ、ぜはぜは。」
「ほんと~?」
「う、うん。で、でも、まずは鍛え直さないと………ゴホゴホ………で、わさびは、なんでここにいるの?」
「今日から、さかつくマネージャーに任命されました。よろしくね。」
坂本造園サッカー部。通称、さかつく。
なぜそう呼ばれるか………、説明不要だと思う。
ヨウがイレさんからオープンカフェ開設を命じられた同じ日、わさびも坂本造園に入社した。
そして2人は、イレさんから一軒家を社宅として与えられ、ここ青空市に住むことになったのだ。
わさびが配属されたのは、なんと青空駅前の『てっぱん』だった。グループ会社だったのね………。
さかつく部員達の食事(弁当)は、わさびが作っている。
さすがは、ブラック企業(ヨウの想像)の派遣切りにショックを受けただけのことはある。わさびは、とにかくめちゃくちゃ働く。毎朝早くに出勤して社員の弁当を作り、みんなの職場に自転車で届ける。夕方からは『てっぱん』の夜の仕込みと、さかつくの夕飯弁当作りをしてクラブハウスまで持ってくる。その後『てっぱん』で遅くまで働いて帰ってくる。
帰ってきたら、掃除や洗濯も全部やってくれる。ヨウは、バツイチである。共働きなのに、あまり家事などに協力的でなかったことが離婚の原因の1つでもあるので、今度こそはと手伝うのだが、仕事が雑だといつも叱られている。情けない………。
ものすごくハードワーカーのわさびさんだが、当人は「こんなに楽しくて、まかないも美味しくて、お給料までもらえるなんて最高!!」と喜んでいる。前の職場どんなだったんだよ………。
イレさん、最高の人材手に入れましたな。
俺もがんばらないと。
そうこうしている内に、わさびは呼ばれて行ってしまった。今は、選手達のビブスが入ったケースを抱えて走っている。
ヨウは、ストレッチをやりながら試合形式の練習を眺める。せっかくなので、あの青いボールの正体を考えてみることにした。
公式戦が近いこともあり、4対4のゲームが2箇所で行われている。
さきほどまで一緒に練習していた、もんちゃんと勇気は同じチームでピンクのビブスを着用している。
「もんちゃん上手いな~。ドリブルきれっきれだよ。」
もんちゃんの攻め上がりに感心していると、ふいに青ボールが相手DFとゴールの間に転がって行った。まだ、誰も反応していない(当たり前)が、本当のボールがもんちゃんから蹴り出された瞬間に勇気が反応し、DFよりわずかに早くボールに到達、優しくゴールに蹴りこみネットを揺らした。
「すげ~、かっこいい!!」
ヨウは、単なるサポーターになって、もんちゃん達を応援してしまう。
「勇気も、すごいよ。しっかり反応してたな。」
ところで、今のパス、もし俺だったらどうだったんだろうか………。
今回は距離が短かったから、青ボールにすぐに反応してたら、勇気よりも早くボールにたどり着けたんじゃないだろうか。
そうだ研究してみよう!
ヨウはクラブハウスにスマホを取りに行き、試合を間近で撮影してみることにした。
撮影を始めると、これまた、絵に書いたように同じコンビネーションで勇気がゴールネットを揺らした。
勇気は気が小さいから、わざとDFも同じコンビネーションをやらせて自信をつけさせたんだろうな。
ヨウは、今のシーンを再生してみる。動画でもしっかり未来ボールが見える。
青ボール出た……勇気反応した。
う……。
もんちゃんから青ボールが出てから勇気が一歩目を踏み出すまでの秒数を測ろうと思ったが、ほぼ1秒だった。つまり、もんちゃんが蹴り出すと同時に勇気が動き出している。いや、もしかしたら、蹴り出すより早い動き出しにも見える。
これは計測不能だ………。
コンビネーションプレーって、お互いに頭の中に描かれた未来ボールでプレーしてるんだよな。脳内未来だね。うまくいった時を観察しても意味がないのかもしれない。
ただ、ひとつだけ分かったことがある。
あの2人のコンビネーションプレーを俺は止めることができる。つまり、もんちゃん達は点を入れられない。そうなるとDFが向いてるのか?いやいや、DFって一番体力必要なんじゃないか?
動画を編集して、映像重ねたりして検証してみるしかないな。今日は帰ったら、動画編集ソフトで加工してみよう。何か分かるかもしれない。俺も若くない、青ボールを活かして一点突破するしかないか。
ヨウが、あれこれ考えている内に練習時間は終わっていた。いまは20時だ。
片付けを終えたわさびと一緒に帰路についた。




